artscapeレビュー

2014年04月15日号のレビュー/プレビュー

堀井ヒロツグ「Voices」

会期:2014/03/10~2014/03/22

Art Gallery M84[東京都]

2013年度の東川町国際写真フェスティバルの関連行事「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション2013」でグランプリを分けあった青木陽に続いて、堀井ヒロツグの個展が、東京・東銀座のArt Gallery M84で開催された。
青木の「写真論写真」というべきコンセプトの追求とはまったく対照的に、堀井は「セットアップとスナップショットの中間」と自ら称する柔らかなカメラワークで、ゲイのカップルの日常を細やかに描写する。主に2005~09年の東京在住(現在は京都で暮らす)の時期に撮影された写真群には、「周囲の環境に鋭敏に反応」することで、どうしても深い傷を負わざるを得ない彼らの姿が、その痛みを共有する作者によって写しとられている。何よりも魅力的なのは、自分の体の中から聞こえてくる「声(Voices)」にじっと耳を澄ませ、壊れやすい存在を互いに身を寄せることで守っているような、彼らの切ない身振りの描写だ。ゲイの写真にありがちな派手で大袈裟な身体表現はまったくなく、あくまでも静かに、ゆるやかに水の底に沈んでいくような感触が、シリーズの全体を覆っている。
青木と堀井の写真はまさに対極に見えるが、どこか通じるところもありそうだ。3月10日の堀井の個展のオープニング前に行なわれたトークイベントで、青木は最後に「写真は世界があって成り立つ」と、堀井は「自分の足元から世界をくつがえしたい」と述べた。観念の側からと身体の側からとの違いはあるにせよ、どちらも写真を通じて新たな「世界」を見出すことを希求しているということだろう。

2014/03/10(月)(飯沢耕太郎)

makomo exhibition「クッション」

会期:2014/02/01~2014/03/10

オソブランコ[大阪府]

お店の移転によってギャラリースペースが倍以上になった新生オソブランコ最初の展示は、7回目となるmakomo展。展覧会タイトルにもなっているクッションという作品、手のひら位のキャンバスにベージュで描いてあるその存在にとても惹かれてしまった。クッション……というより、木彫りの仏像、仏像の手のひらにも見えてくるような形象。もしかしてクッションそのものではなく、機能とか、意味を描いているのかしれないと思わせるような奥深い暖かみ。質感も眺めて楽しんでみる、堅いのか柔らかいのか。makomoの絵は画像やプリントではなく、キャンバスの実物をみるが格別にいい。相変わらず塗り込みは美しい。

2014/03/10(月)(松永大地)

東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿1

会期:2014/03/10~2014/03/14

[中国・寧波市、杭州市、上海市]

東北大学の五十嵐研のゼミ合宿で、中国を訪れた。上海は6回目の訪問になるが(最初は1991年頃)、留学生の辛夢揺と、清華大に留学中の市川紘司のコーディネートによって、まだ訪れていなかった最新の建築を効率的にまわることができた。とくに寧波と杭州で見学した、中国初のプリツカー賞受賞者でもある王 (ワンシュウ)の建築群、上海の屠殺場をリノベーションした1933老場坊、そしてneri&huによるおしゃれなリノベーションが印象に残る。ほかに上海では、磯崎新の《上海大証大ヒマラヤ芸術センター》、安藤忠雄の《震旦博物館》、隈研吾の《Z58》、青木淳の《尚嘉中心》など、日本人建築家の作品が増えていた。浦東一の高さとなる超高層ビルの上海センターは、もうだいぶ完成しており、すでにとても目立つランドマークになっている。

写真:上=《1933老場坊》、中上=neri&huによるリノベーション。中下=磯崎新《上海証大ヒマラヤ芸術センター》、下=《上海センター》

2014/03/10(月)~2014/03/14(金)(五十嵐太郎)

東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿2

会期:2014/03/10~2014/03/14

[中国・寧波市、杭州市、上海市]

寧波では、王 による《寧波博物館》と、隣接する公園に点在する5つのパヴィリオン、倉庫をリノベーションした寧波美術館のほか、馬清運による《寧波城市展覧館》と《天一広場》を見学した。王 は、スイスのピーター・ズントー、あるいはポルトガルのアルヴァロ・シザのように、地域に根づく建築家としてデザインを展開している。古材も活用するテクスチャーの感覚も素晴らしい。杭州は三度目の訪問だった。今回は、中国美術学院象山キャンパスの王 による一人万博状態と言うべき彼の建築群(ただし、隈研吾の美術館を建設中)、チッパーフィールドによる《良渚博物館》と《九樹村》、磯崎新の《中国湿地博物館》、六和塔、西湖をめぐる。王 の建築は、蘇州の庭園デザインを現代的に解釈し、立体化したかのようだ。むろん、かつてI. M. ペイもこれの引用を試みたが、ポストモダン的で記号的な操作感が強く、王の方がより手触りのある空間的な体験として展開している。中央の北京とは違う、江南の文化を意識した文人的な建築家の態度を感じられ興味深い。最後は上海に戻り、張永和が手がけたインテリアのあるレストランで食事をとる。

写真:上=寧波博物館(設計・王 )中=中国美術学院象山キャンパス(設計・王 )下=良渚博物館(設計・チッパーフィールド)

2014/03/10(月)~2014/03/14(金)(五十嵐太郎)

第17回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2014/02/08~2014/04/06

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

審査員も受賞作品も似たり寄ったりの絵画コンペが林立するなか、いまや規格外の破天荒な作品が期待できる唯一の現代美術コンペといえるのがこのTARO賞だ。とはいえ、審査員がほぼ固定したまま17回も続けていると、マンネリとはいわないまでもある種の傾向が出てくるのは否定できない。それは日用品や映像や音などを動員したミクストメディアによるインスタレーションだ。もともと絵画も映像もなんでもありだから、目立とうと思えば最大5メートル立方のインスタレーションを出すのが有利だろうことは予想がつく。とくに今回は岡本太郎賞のキュンチョメをはじめ、岡本敏子賞のサエボーグも、特別賞の小松葉月やじゃぽにかも、受賞作品の大半はインスタレーション。ほかにも小山真 、萩谷但馬、廣田真夕、柵木愛子らがゴチャゴチャしたミクストメディアのインスタレーションだった。こうなると少数派の絵画・彫刻に加担したくなってくる。展示室中央のガラス面に即興で描いた文谷有佳里のドローイングは、目立たないながらも線描ならではの強度を備えた作品だと思う。それからもうひとつ気になるのは名前。キュンチョメ、サエボーグ、じゃぽにかってなんなんだよお!?

2014/03/11(火)(村田真)

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