artscapeレビュー

2014年05月15日号のレビュー/プレビュー

内藤礼/畠山直哉「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」

会期:2014/04/04~2014/05/31

GALLERY KOYANAGI[東京都]

内藤礼が2013年に広島県立美術館で展示した「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」は、彼女が初めて「原爆」というテーマに取り組んだ作品である。その展示の様子を畠山直哉が撮影した。アーティスト同士の、心そそられるコラボレーションと言える。
内藤の作品は、弧を描いて吊り下げられた灯りの下にひっそりと置かれていた。広島平和記念資料館が所蔵する17個の「被爆したガラス瓶」の横に、17人の「ひと」がたたずむ。原爆の熱で溶解したガラス瓶も、木を人形のようにカービングしてアクリル絵の具で彩色した「ひと」の姿もとても小さい。その祈りを込めて丁寧につくり込んだ小さな造形が、いかにも内藤の作品らしく、愛らしいけれども、ぴんと張りつめた佇まいだ。ほかに透明なガラス容器に、生命力を暗示するかのような黄色い花を挿したオブジェも並べてあった。
畠山の撮影の仕方も、内藤の作品の繊細さに合わせるように、ごく控えめなものだ。全体の姿を捉えた写真のほかに、1点、あるいは2点のオブジェをクローズアップで撮影したカットがあるのだが、観客との無言の対話を引き出すようなアングルが注意深く選ばれている。ガラス瓶の鉱物的な質感を、どちらかと言えば有機的な柔らかい感触に置き換えているのがとても効果的だと思う。確か以前にも何度か、内藤のインスタレーションを畠山が撮影することがあったと記憶しているのだが、ぜひそれらをまとめた「写真集」も見てみたい。

2014/04/09(水)(飯沢耕太郎)

カンディダ・ヘイファー

会期:2014/03/07~2014/05/10

YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]

1944年、ドイツ・ケルン生まれのカンディダ・ヘイファーは、いわゆるベッヒャー派の代表作家のひとり。同じくデュッセルドルフ芸術大学でベルント&ヒラ・ベッヒャーの教えを受けたトーマス・ルフやトーマス・シュトルートと比較しても、その厳密なスタイルをもっとも正統的に受け継いでいる写真家だ。YUKA TSURUNO GALLERYでの個展は、その彼女の作品の、日本では初めてのまとまった紹介になる。I.8×2メートルを超える作品を含む大作7点が展示されていた。
ヘイファーの写真の主なテーマは、図書館、美術館、動物園、駅、銀行などの公共建築物である。それらの内部空間を、遠近法的なパースペクティブを強調して大判カメラで撮影する。こうして見ると、ヨーロッパの建築のスケールは、われわれ日本人にとっては威圧的であり、あまりにも壮麗過ぎて馴染めないものを感じる。ヘイファーにとっては、そのような建築によって培われた空間意識が、写真家としての画面構成の基本になっているわけで、これだけ落差が大き過ぎるとむしろ快感さえ覚えてしまう。もうひとつ気づいたのは、彼女の写真に写り込んでいる光源の扱い方で、建築物の細部を緻密に描写しているために、白っぽく飛んでいることが多い。それが逆に、一見絵画的に見えがちなヘイファーの写真に、生々しさ(ライブ感)を与えているのではないだろうか。
昨年のアンドレアス・グルスキーに続いて、ベッヒャー派の写真家たちの個展が続くのはありがたいが、そろそろベッヒャー夫妻の作品を含む決定版の展覧会を企画してほしいものだ。

2014/04/09(水)(飯沢耕太郎)

高橋宗正『津波、写真、それから──LOST&FOUND PROJECT』

発行所:赤々舎

発行日:2014/02/14

東日本大震災以後に、津波によって家々から流出した写真やアルバムを拾い集めて洗浄し、修復したり、複写・プリントしたりするというプロジェクトが、各地で一斉に立ち上がった。写真を一カ所にまとめて公開し、元の持ち主がそれらを見つけたら返却する。宮城県山元町でも、2011年5月にボランティアを募って「思い出サルベージ」という企画がスタートした。
その過程で、中心メンバーのひとりだった高橋宗正は、ダメージがひど過ぎて、修復も持ち主の同定もほぼ不可能な写真を展示・公開することを思いつく。震災の記憶の共有と、仮設住宅の自治会の資金集めが主な目的だった。「LOST & FOUND PROJECT」と名づけられたその展示は、2012年1月から開始され、東京、北海道など国内だけでなく、アメリカ、オーストラリア、イタリアなどでも展覧会が実現した。その一連の経過をまとめたのが、『津波、写真、それから』である。
ボランティアたちの善意は疑えないし、中心となって活動した高橋も「写真とは何か?」を問い直すうえで、多くのことを学んだはずだ。ただ、一読してやや疑問が残ったこともある。ひとつは、ほとんど画像の判別がつかなくても、特定の地域の誰かの所有物だった写真を、国内外の不特定多数の観客に公開していいのかということ。もうひとつは、このプロジェクトを通じて、写真が「作品化」しつつあることへの懸念だ。写真を壁一面に貼り巡らせたインスタレーションの迫力は圧倒的だが、どこか現代美術作品の展示のようでもある。本人は充分に自覚しているとは思うが、「高橋宗正の作品」としてひとり歩きしかねないようにも見えてしまう。
そのあたりの危うさを含み込んだうえで、「LOST & FOUND PROJECT」が「震災以後の写真」のあり方に一石を投じるプロジェクトだったことは間違いない。そのことは積極的に評価したい。

2014/04/10(木)(飯沢耕太郎)

菱田雄介『2011』

発行所:VNC

発行日:2014/03/08

菱田雄介は2011年3月22日、東日本大震災発生から12日目に被災地に入った。気仙沼の中学校の10日遅れの卒業式や、被害が大きかった石巻門脇地区の状況などを撮影し、その10日後に手づくり写真集『hope / TOHOKU』を完成させる。たまたま渋谷の書店でそのうちの一冊を手にした筆者は、彼が「撮らなければならない」という衝動に突き動かされつつ、あくまで冷静に自問自答を重ねて、これほど早い時期にしっかりとした写真集をまとめ上げていることに衝撃を受けた。それらの写真群は、僕自身が書き綴っていた文章と併せて、のちに共著『アフターマス 震災後の写真』(NTT出版、2011)として刊行されることになる。
だが菱田はこの時期、震災の写真だけを撮影していたわけではない。すでに数年前から、テレビディレクターとしての忙しい仕事の合間を縫って海外取材を積み重ねていたのだが、その頻度と集中力がこの年には異様なほど高まってくるのだ。本書はその彼の『2011年』の行動の軌跡を、文章と写真とでもう一度振り返った600ページを超える大著である。1月のチェルノブイリ取材から始まって、北朝鮮と韓国で同じような状況の人物たちを対比して撮影する「border/korea」のシリーズのために何度か両国に入り、大洪水を撮影するためタイを、「アラブの春」の取材のためにチュニジアを訪れるなど、なんとも凄まじいスケジュールをこなしている。
そうやって見えてきたのは、2011年こそ「振り返ってみれば、あれが転換点だったと思える年」だったのではないかということだ。この認識が正しいのか間違っているのかは、もう少し時が経たないとわからないだろう。だが、菱田のまさに体を張った思考と実践の集積を目にすると、そのことが強い説得力を持って伝わってくる気がする。
歯切れのいい文章で一気に読ませるが、巻末に32ページにわたって掲載された写真に、菱田の写真家としての能力の高さがよく表われていると思う。決して押しつけることなく、だが何かを強く語りかけてくる写真群だ。

2014/04/11(金)(飯沢耕太郎)

@KCUA Showcasing You! Project ししやまざき個展「ビデオガールやまざき」

会期:2014/04/12~2014/05/11

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

1989年生まれのアニメーション作家ししやまざき。実写をトレース、水彩画風の絵をコマ撮りするというアナログな手法のアニメーションは、とにかく1枚1枚の絵がとても丁寧で慎重につくられている。加えてリズムとの連動があって、動きの一つひとつが愛らしいから、何度でも見られる。2000年代のDJのあいだで流行ったような70年代の仏産エキゾチックなレアグルーヴ音源にインスパイアされて、まだ90年代生まれの20代前半の女性がこんなみずみずしいアニメーションを生み出したことも驚きだが、それがとてもマッチしているという、世代を超えた邂逅も興味深い。

2014/04/12(土)(松永大地)

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