artscapeレビュー

2014年06月01日号のレビュー/プレビュー

集治千晶 展

会期:2014/05/06~2014/05/11

ギャラリーヒルゲート[京都府]

落書きのような線描と鮮やかな色面のコントラストからなる、遊戯的・祝祭的作風の銅版画で知られる集治千晶。画廊の2フロアを使用した本展では、1階が新作、2階が旧作という小回顧展的な構成がとられた。注目すべきは新作の《人形遊び》シリーズで、カラフルな色合いこそいままでと同様だが、少女人形の毛髪、衣服、アクセサリーを再構成して装飾性を前面に押し出した作風に変化している。本人に聞いたところ、自身に内在する女性性を作品化するか否かで葛藤があり、2007年から13年にかけて版画制作を控えめにしていたとのこと。結局彼女は、自身の内なる声に正直に振る舞い、《人形遊び》シリーズとして結実した。その意味で本展は、集治の新章を飾る極めて重要な機会であった。

2014/05/06(火)(小吹隆文)

「アンドレアス・グルスキー」展

会期:2014/02/01~2014/05/11

国立国際美術館[大阪府]

ドイツの現代写真家、アンドレアス・グルスキーの日本初の個展。まず展示空間に並ぶ作品のスケール感に圧倒される。2×3メートルにも及ぶ巨大なイメージに表わされる内容はさまざまである。《99セント》(1999)に写されたおびただしい商品の集積のように消費社会の一断面を切り取ったものから、《カミオカンデ》(2007)のニュートリノ検出装置のように最先端の科学技術を扱ったもの、《バンコクVI》(2011)のように現実と虚構が入り混じった川面を撮ったものなど、51点の作品がグルスキー本人の監修のもと展示されている。彼の作品においては、「画面の平面性と構築性」「絵画との類似/写真による抽象絵画」という特徴が指摘され、フラットでオールオーヴァーなモダニズム絵画との親近性が強調される。一見、その作品群はドキュメンタリーのように見えるが、じつは、巧妙に入念につくりあげられており、イメージの加工と編集の賜物なのである。デジタル技術を駆使して、複数の画像をモニター上で繋ぎ合わせたり諸要素を消し去ったりして、新たな一枚の画像を作り出しているのだ。巨大な作品を凝視すると、そこにつくりこまれた──デジタル化が進む今日ゆえに可能である──緻密な彼独自の世界がある。とても刺激的な展覧会であった。[竹内有子]

2014/05/07(水)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00024931.json s 10099430

井村隆「カラクリン展」/井村一巴「カラクリン写真展」

会期:2014/05/08~2014/05/19

あるぴいの銀花ギャラリー/ギャラリー多羅葉[埼玉県]

造形作家・井村隆と写真家・井村一巴親子の展覧会。銅や真鍮、アルミニウムなどの金属板や針金でつくられ、小さなモーターで動くカラクリ・オブジェを、井村は「カラクリン」と呼んでいる。造形のモチーフは気球や飛行船、船、そして魚(しばしばシーラカンス)。いずれにも共通するのは奇妙な浮遊感である。気球や飛行船が中に浮いているのは当然として、魚は空中を水に見立ててゆったりと泳いでいる。いや、それは本当に水中なのか。なぜならば、魚に羽根が生えていてゆったりと羽ばたいているのだ。あるいは、プロペラが付いていて、ゆっくりと回っているのだ。そして、その中には魚の頭をした痩せっぽっちの小人たち──井村はこれを「ボンフリくん(bone free)」と呼んでいる──がいて、船を漕いだり、車輪を回したり、羽根を動かしたり、健気に働いている。つまり魚のような形をして宙を行く乗り物なのだ。たったひとつのモーターにつながった単純な構造によって生み出される動きの意外性と、どこかノスタルジーを感じる金属の造形。そしてなによりもボンフリくんという奇妙なキャラクターの存在によって、ただ同じ動作が繰り返されているにもかかわらずストーリーが拡がる。機構の妙を追求するカラクリは他にもいろいろあるけれども、井村隆の作品にはいつまで見ていても飽きない魅力がある。井村一巴の写真は、街に出たボンフリくん。駅で切符を買い、電車に乗り、海を見に行く。言葉を発することはない寡黙なボンフリくんだけれども、テキストが添えられているわけではないけれども、なんと雄弁なキャラクターだろう。[新川徳彦]


展示風景

2014/05/08(木)(SYNK)

ヨーロピアン・モード

会期:2014/02/07~2014/05/24

文化学園服飾博物館[東京都]

ヨーロッパ服飾史入門。ただ様式の変遷を時系列で追うばかりではなく、同時代の社会、技術、産業の変化やそのファッションへの影響をパネルやファッションプレートの展示で解説している。毎年恒例の企画で、これまでは18世紀後半から1970年代までの200年間のファッションの歴史と特集展示の組み合わせであったが、今年は期間を20世紀末までの約250年間に拡大している。これからファッションを学ぼうという学生たちにとって、20世紀ファッションはすでに自分たちが肌で経験していない「歴史」の領域である。それにもかかわらず、昨年までの展示では現代ファッションとつながるはずの30年ほどの歴史がすっぽりと抜けていたことになる。なので、扱う期間の拡大は必然であったと思う。ただし、時代が新しくなるほどファッションの変化は速く、かつ多様化していることを考えれば、その歴史的な文脈での評価はまだ難しいに違いない。他に今年は男性服と子供服の展示が加わった。ヨーロッパにおける子供の歴史といえば、フィリップ・アリエスの『〈子供〉の誕生』が思い出される★1。アリエスはヨーロッパにおける「子供の発見」は17世紀以降の出来事であり、中世において子供は大人たちと変わらない服装をしていたと述べている。また、坂井妙子氏の研究によれば、実際には子供が大人と異なる服装をするようになったのは1770年代以降のことであり、さらには子供専用の服が本格的に現われるのは、ヴィクトリア朝後期になってからであるという★2。今回の企画に出品されていた子供服の事例はそうした変容を語るにはかならずしも十分ではなかったが、子供服の誕生とその変化は服飾史のなかでもとても興味深い出来事であり、より掘り下げたテーマの企画を見てみたいと思う。[新川徳彦]

★1──フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生──アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(みすず書房、1980)
★2──坂井妙子『アリスの服が着たい──ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生』(勁草書房、2007)



展示風景1


展示風景2

2014/05/08(木)(SYNK)

網代幸介 展 SCROLL 瞬きの王国

会期:2014/05/04~2014/05/30

ondo[大阪府]

イラストレーターの網代幸介が、昨年に続き関西では2回目の個展を開催。今回は、架空の冒険家チャック・マーラーによる異世界探検記を絵画で表現。全長約6メートルの絵巻物を主軸に、物語のワンシーンや登場人物、地図、旗などを描いた補足的作品も添えられ、台座と壁面に展開した。この物語は綿密に構築されているようで、読み聞かせイベントができるぐらいのレベルだという。そんな話を聞くとアウトサイダー・アート的な狂気を感じてしまうが、どうせやるなら徹底した方が面白い。書籍化や続編など今後の展開に期待している。

2014/05/09(金)(小吹隆文)

2014年06月01日号の
artscapeレビュー