artscapeレビュー

2014年06月15日号のレビュー/プレビュー

中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス

会期:2014/03/21~2014/05/11

千葉県市原市南部地域[小湊鐵道上総牛久駅から養老渓谷の間]、中房総エリア[茂原市、いすみ市、勝浦市、長柄町、長南町、一宮町、睦沢町、大多喜町、御宿町][千葉県]

いちはらアート×ミックスをまわる。南端の養老渓谷駅から北上したが、小湊鉄道を積極的に使うコンセプトゆえか、クルマでまわると、駐車料金が相当かさむのが辛い。市原湖畔美術館と旧里見小学校の作品が良かった。ベストは月崎駅の木村崇人による《森ラジオ ステーション》である。駅員の詰所を改造した、緑に覆われた奇蹟の空間だ。スマイルズのわっぱやAAAのCamp!など、食も楽しめる。越後妻有に比べると、全体のエリアは小さく、思ったよりもコンパクトにまわることができる。ただ、電車とバスですべて乗り継ぐと、それはそれで大変そう。なお、各駅舎や電車はかわいらしく、見る価値はあった。

2014/05/02(金)(五十嵐太郎)

中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス 藤本壮介《Toilet in Nature》

会期:2014/03/21~2014/05/11

千葉県飯給駅[千葉県]

建築では、藤本壮介の《Toilet in Nature》が強烈だった。なにしろ、隣接する飯給駅の駅舎やホームよりも、トイレの方がデカい。それどころか、車両よりも大きい面積だ。既存の樹木を囲む、大きなリングの中に、ぽつんと透明なボックスに入ったトイレをひとつ置く。まさに自然の中のトイレである。彼らしいユーモアを感じるデザインだ。

2014/05/02(金)(五十嵐太郎)

有設計室/川口有子+鄭仁愉《市原湖畔美術館》

市原湖畔美術館[千葉県]

市原湖畔美術館は、有設計室/川口有子+鄭仁愉によるリノベーションだ。コンクリートが弧を描く、懐かしい80年代的空間に対し、ゼロ年代的なポコポコの箱をばらまき、両者をぶつける/ケンカさせるような介入であり、あちこちに複雑な場を生む。アーツ前橋もそうだが、近過去のリノベはこれから重要になるだろう。個人的にポストモダンのリノベーションは興味あるテーマで、あいちトリエンナーレでは青木淳に黒川紀章建築の仮設的なリノベを依頼した。こちらは対決型ではなく、オリジナルへのリスペクトを行なうもの。千葉学による大多喜町役場の増築・改修も、軸線を介して、過去と現在をつなぐ。

2014/05/02(金)(五十嵐太郎)

隣人 イスラエル現代写真展

会期:2014/05/03~2014/06/15

東京アートミュージアム[東京都]

おそらく日本でははじめての「イスラエル現代写真展」だろう。自身がインスタレーション作家でもあるレヴィヴァ・レゲヴのキュレーションにより、東京・仙川の東京アートミュージアムで20人のアーティスト、写真家の作品の展示が実現した。各作家の出品点数が1~3点とやや少なく、もう少しそれぞれの作品世界がよくわかるような構成にしてほしかったし、解説もややわかりにくかった。それでも、とても興味深い内容の展覧会であったことは間違いない。
いうまでもなく、イスラエル人にとっての「隣人」とは、パレスチナ、アラブの人たちである。だがいうまでもなく、両者は「しばしば相反する歴史的文脈、イデオロギーの切望、そして国家的野望を負って」きた。その「隣人」同士の、複雑で微妙な関係をテーマにした作品を集成したのが、今回の展覧会である。当然、歴史的、政治的文脈を強く意識した表現が頻出する。ミハ・ウルマンの1972年のパフォーマンスの記録「Messer-Metzer: Exchange of Earth」では、アラブの村、Messerとイスラエル側のキブツ、Metzerに掘った穴の土を交換する。フォト・ジャーナリズムとアートの両方の分野にまたがって活動するパヴェル・ヴォルベルグの「Dir-Kadis」(2004年)では、目隠しされて後ろ手に縛られたアラブ人の男性、イスラエル軍の戦車、白ヤギたちが三位一体の構図をとる。周辺諸国との極度の緊張関係の中で生活し、制作しなければならないイスラエル人アーティストたちが、政治的にならざるを得ない状況がよくわかる。
もう一つはキュレーションを担当したレヴィヴァ・レゲブやライダ・アドン、タル・ショハット、アニサ・アシカルなどの女性アーティストの作品に典型的にあらわれているように、身体性と演劇性を強調する仕事が目につくことだ。自己と他者との境界線を常に意識する中で、身体を介して現実世界の感触を確かめようという強い欲求が、彼女たちの中に芽生えつつあるということではないだろうか。いずれにせよ、歴史・政治意識が極めて希薄な日本の写真家たちの仕事の対極というべき「イスラエル現代写真」が、はじめてきちんとした形で紹介されたことの意義は大きい。

2014/05/03(土)(飯沢耕太郎)

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パラダイス・ガーデン

会期:2014/04/11~2014/05/04

MA2ギャラリー[東京都]

岩崎貴宏、飯田竜太、榮水亜樹の3人展。岩崎は窓際に髪の毛で高さ10センチほどの塔を建てたり、岡本太郎の文庫本『美の呪力』のスピン(ページに挟むひも)をほぐしてクレーン状にしたり、素材もサイズも場所の選択も絶妙だ。2階には水に映った平等院みたいな上下対称の木の模型が吊るされてるが、その下の床にシャープペンシルの芯でこしらえた電信柱みたいなもののほうが目立たないけどインパクトがある。

2014/05/04(日)(村田真)

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