artscapeレビュー

2014年07月15日号のレビュー/プレビュー

笠原出 展「ふわりんぼ/トリートメント」

会期:2014/06/10~2014/07/06

トラウマリス[東京都]

笠原は90年代から、笑顔の亡霊みたいな「スマイル」を立体やインスタレーションで表現してきたが、06年から絵画に移行。ネットから拾ってきた富士山や陶器などの画像を正方形のキャンバスにアウトフォーカスで描き、上から金箔の「スマイル」を順序よく並べている。下に描かれた富士山が笑われてるようにも見えるし、賛美されてるようにも見え……ないか。

2014/06/28(土)(村田真)

阪本結 個展ハイアンドシークhide-and-seek

会期:2014/06/24~2014/06/29

KUNST ARZT[大阪府]

色彩の独特な趣きが印象的だった阪本結の個展。聞くとアクリル、油彩、油性の色鉛筆、コンテなどいくつもの画材で描かれたものだった。幾重にも重ねた色の表情もさることながら線の描き込みが凄い。幾つかのキャンバスは若干撓んでいるほどだ。この展覧会では、作品それぞれに物語の場面が設定されており展示空間全体が一つの時間軸を成していた。漠然とした日常の喪失感や不安という感情が創作のテーマになっているという阪本。雑誌で見つけた掲載写真の人物の表情をモデルに描いているというのが興味深い。まずその表情を観察し、感情を想像し、そして描いたものが物語の1ピースとなり、次々とストーリーを組み立てていくという制作法なのだ。まるでジグソーパズルを組み立てるよう。今展では物語自体をメインにしたラフの画集も作成されていた。ストーリーの組立自体は今後さらに深める必要がありそうだが、今後の活躍が楽しみだ。

2014/06/29(日)(酒井千穂)

Lyota Sakai Semi-Automatic

会期:2014/07/01~2014/07/12

Antenna Media[京都府]

次元の構造や人間の動きなど、奥行きのある絵画を発表してきた坂井良太の新作。都市の位置情報や自然、人口などの情報をルール化し、反映させた、幾何学的で図面のような(作家本人も図面と呼んでいた)ペインティング。言われないと分からないが、京都の町を描いたものもある。作家のつくったルールに基づいて描かれた風土ということであるが、そこにその町が存在しているということを違う角度から描くことであり、その存在自体を浮かび上がらせることでもある。それは、どこか芸術の普遍的な役割である気がする。ものすごく機械的な絵であるのに、どこか暖かみのある、作家ひとりの個の目線をしっかりと布に定着させたかけがえのないものに見えてくる。

2014/06/30(月)(松永大地)

吉田雷太 個展

会期:2014/06/30~2014/07/06

MOMURAG[京都府]

最近左京区にオープンしたばかりというリサイクルショップとバー、古本屋、多肉植物を扱う店が同居する珍しいギャラリーで、吉田雷太が個展を開催していた。”荒ら屋”にも思われる一見怪しげな佇まいの建物は、入りにくい雰囲気もあるのだが、二階建てのギャラリースペースはユニークな手作りの空間でなかなか居心地が良い。展示する作品は選びそうだが、吉田のカラフルで賑やかなドローイング、ペインティング、コラージュなどはよく似合っていた。吉田が個展を開くのは数年ぶり。今回は「顔」をテーマにした作品がぎっしりと展示された。鮮やかに混じり合う色彩と流れるような曲線から成る対象はグロテスクでサイケデリックなイメージ。構図の計算などは特になく、感覚的に筆を動かしていることが多いというが、作品は近づいてみると配色と線が美しいものが多く、卓抜なセンスを感じて見入ってしまう。大学卒業後はアートイベントなどへの参加活動が多かったが、今後の個展開催にも期待している。

展示風景


2014/06/30(月)(酒井千穂)

ミヤギフトシ「American Boyfriend: Bodies of Water」

会期:2014/06/14~2014/07/13

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA Gallery A[京都府]

カーテンを開放していた展示室は、午後の光を充分にうけ、ある種のリゾート感をぐっと演出していた。照明も自然光だけに近い見せ方(だったと思う)でうす暗く、置いてある紙の箱やTシャツも、後から思い返してもどこかおぼろげだ。あそこに実物は本当にあったんだろうか。そもそもこのミヤギの取り組みも実態を求めてさまようような、鎮魂のような印象がある。(ものすごく良い意味での)徹底した広報戦略(東京の展示に至るまでの作品のプレゼンテーションとして友人から手紙が送られてきたかのようなDMづくりがあった)からのイメージづくり、それから本展での手紙、ファウンド・フォトという手法もそう。
ただひとつ、会場に黒板にメッセージを書いていく映像作品があったのだが、それだけどこか異質だった。チョークを走らせる作家とおぼしき人物の顔は見えない。カツカツと響くチョークの音と、テキストのヴィジョンが、今も幽霊のように頭に蘇る。

2014/07/01(火)(松永大地)

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