artscapeレビュー

2014年07月15日号のレビュー/プレビュー

背守り 子どもの魔よけ展

会期:2014/06/05~2014/08/23

LIXILギャラリー[東京都]

「背守り」とは、背負った赤ちゃんの背中から魔物が入らないように守るため、着物に縫いつけたおまじないのこと。「福」などの単語や呪文(経文)、草花の刺繍、赤い糸や布切れなどを縫いつけたものが多い。亀のアップリケがあるのは甲羅に守られているからか。なかには三角形を逆に重ねたダビデの星もあって、どんな効能があるんだろう。おまじないと飾りを兼ねた日本人の手仕事だが、ストラップの元祖かもしれない。

2014/06/10(火)(村田真)

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石内都 展──幼き衣へ

会期:2014/06/05~2014/08/23

LIXILギャラリー[東京都]

背守り展と同時開催。年季の入った幼児の着物ばかりを撮っている。蜷川実花ばりにハデな色合いだが、比べものにならないくらい陰影が深く、重い。着物自体が古いため多くの時間を集積しているのは間違いないが、それだけでなく昔は1枚の着物を何代にもわたって着ていたというから、たくさんの子どもの垢(アウラといってもいい)がずっしりこびりついてるのかもしれない。一種の心霊写真。

2014/06/10(火)(村田真)

富田有紀子

会期:2014/05/31~2014/06/14

ギャラリー椿[東京都]

富田が版画やインスタレーションから油彩による花のような絵に絞ったのは、90年ごろだったか。だとするともう四半世紀近い。当初の花のような絵から明確に花になり、そこに果実が加わり、なぜか洞窟が割り込んできたりもしたが、基本的に植物を描き続けている。今回はザクロの種が加わり、そこからの連想なのかイクラも登場、さらに青いガラス玉まで引っぱり出してきた。質感や透明感などかなりリアルに描いてるが、写真的リアリズムにはない手仕事感が富田らしいところ。タイトルに付されたナンバーを見るとすでに千近い(もう超えてるかも)。ならせば年に40点。これからも注目し続けたい画家のひとり。

2014/06/10(火)(村田真)

オサム・ジェームス・中川「GAMA CAVES」

会期:2014/06/06~2014/07/19

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

1962年にアメリカ、ニューヨークに生まれ、日本で幼少期を過ごし、テキサス州ヒューストン大学で写真を学ぶ。この経歴を見ると、オサム・ジェームス・中川が、写真を通じて「日本とアメリカという二つの国にまたがる自身のアイデンティティ」を探求する方向に進んだのは当然といえるだろう。長くアメリカ軍の統治下にあった沖縄は、彼が結婚した女性の出身地でもあった。
2000年代以降、中川は「バンタ」と称される海に面した崖を撮影し始める。「バンタ」の崖下やその周囲には「ガマ」と呼ばれる洞窟が口をあけていた。「ガマ」は宗教儀式がおこなわれる聖地であるとともに、第二次世界大戦末期に沖縄の住人たちが戦禍を逃れて身を寄せた場所でもあった。中川はその「沖縄の霊魂、祖先、歴史、記憶が宿る神聖な場所」を、懐中電灯で照らし出しながら、長時間露光で撮影していった。今回フォト・ギャラリー・インターナショナルで展示されたのは、昨年、写真集『GAMA CAVES』(赤々舎)として刊行されたこのシリーズから抜粋された作品である。
中川の仕事は、風景のディテールへの異様なほどのこだわりによって特徴づけられる。「GAMA CAVES」でも、闇の中から浮かびあがってくる洞窟の内壁の湿り気を帯びた凹凸が、恐るべき吸引力で眼をとらえて離さない。陶器やガラスのかけら、骨片、貝殻、布のようなものなど、洞窟内での暮らしの痕跡もまた克明にとらえられ、その総体が重い「問いかけ」として見る者に迫ってくる。静かだが力強い作品群だ。
なお、同時期に東京・中野の写大ギャラリーでも「沖縄─GAMA/ BANTA/ REMAINS」展が開催された(6月2日~8月3日)。「GAMA」、「 BANTA」の両シリーズに、沖縄の戦跡を撮影した「REMAINS」を加えた展示である。

2014/06/11(水)(飯沢耕太郎)

プレビュー:ローマ環状線、めぐりゆく人生たち

8月公開のジャンフランコ・ロージ監督の『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』を一足先に見る。世界中が知っている都市ローマの、観光客には知られていない環状線沿いに住む人たちの群像ドキュメンタリーだ。事故に対応する救急隊員、車上生活者、集合住宅の各世帯、虫の音を調査する植物学者らが登場する。まず基本的に映像がどれも美しいのだが、『ローマ環状線』は、人々の生活の断片を織物として再編集し、都市の物語=テクストをつくりあげる。すべてがノンフィクションの映像ながら、巧みな配置と組み合わせによって、それぞれが別のことを意味する隠喩として機能する手腕はお見事。何気ないシーンも意味をもって立ち現れる。この映画は、高速という都市の大動脈、すなわち人工的な川沿いの生態系から物語をつむぐが、現代の土木構築物から切り取られることで、ローマという特殊性よりもむしろどこの都市にでも起きうる普遍性をもつ。本作は、ヴェネツィア国際映画祭でドキュメンタリーとして初の金獅子賞を受賞したらしい。

2014/06/13(金)(五十嵐太郎)

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