artscapeレビュー

2014年08月01日号のレビュー/プレビュー

藤原敦 写真展 南国頌─幻影への旅─ 同時開催:蝶の見た夢

会期:2014/06/28~2014/08/03

GALLERY TANTOTEMPO[兵庫県]

2008年に写真雑誌『ASPHALT』を創刊し、若手写真家に発表の機会を与えてきた藤原敦。その仕事を終えた彼が、「南国頌」と「蝶の見た夢」という2つのシリーズを携えて、神戸で個展を行なった。「南国頌」は、教師で歌人だった祖父の痕跡をたどって、鹿児島や沖縄を旅した際に撮影したもの。展覧会タイトルは祖父の歌集からの引用だ。一方「蝶の見た夢」は、宮古島出身のひとりの女性の、地元と都会での生活を写し出している。2つの作品に共通するのは、モンスーン気候的とでもいうべきムッとした湿度を帯びていることだ。精神の奥底に沈殿するドロッとした部分に触れられた気がして、不快さを伴いつつも目を反らすことができない。平成の日本が失った情念と重さを思い出させてくれる個展であった。

2014/07/05(土)(小吹隆文)

「建築の皮膚と体温──イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」展

会期:2014/06/06~2014/08/19

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

「イタリアモダンデザインの父」と呼ばれる、ジオ・ポンティの仕事のうち、陶磁(タイル)に焦点を当てた展覧会。ポンティが建築で用いたタイルが再現されるほか、デザイン、図面・スケッチ、写真、映像資料等約50点が展示されている。ミラノ工科大建築学科を出たポンティが初めて手掛けたのは、建築ではなくて、陶磁器のデザインだったことは象徴的だ。それは彼の後の建築実践に十分に生かされることになる。展示されたアイントホーフェンのデパートファサードのタイルを見て触れてみると、絶妙な凹凸が生み出す表現と一つひとつ異なる釉薬のかかり具合が触発する手触りから、ポンティが工業製品に「手跡」を残そうとしたことがわかる。もうひとつ、本展で印象に残るのは、彼のグラフィカルな表現への志向である。インタビューで自らが語るように、若き日に画家を目指していた彼は、終生、グラフィックへの思い入れを持ち続けたのだと思う。ヴェネズエラの《ヴィラ・プランチャート》の映像や、本展で再現されたカラフルで軽やかな空間表現を見ると、見る人の目を楽しませることへのこだわりに気が付くだろう。楽しい気分になる展覧会である。[竹内有子]

2014/07/06(日)(SYNK)

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今井祝雄─Retrospective─影像と映像

会期:2014/07/08~2014/08/02

ARTCOURT Gallery[大阪府]

今井祝雄が具体美術協会時代の白い造形から映像表現に軸足を移した、1970年代の仕事を中心に展覧。作品は、21点組の写真作品《ポートレイト 0~20歳》、1979年に始まり現在も継続しているポラロイド写真の自写像《デイリー・ポートレイト》、テレビの放映で使用されなかったフィルムを素材にした映像&インスタレーション《ジョインテッド・フィルム》(画像)など12点。《デイリー・ポートレイト》が名作なのは言うまでもないが、他の作品にも1970年代の問題意識が濃密に立ち込めており、それを21世紀のいま追体験できることが嬉しかった。こんな機会は滅多にないので、20代・30代の若手作家がひとりでも多く本展を見ておいてくれればよいのだけど。

2014/07/08(火)(小吹隆文)

ベ サンスン展「Over & Over」

会期:2014/07/05~2014/07/26

イムラアートギャラリー京都[京都府]

漆黒のベルベット地に面相筆で白い線を無数に描き重ねた絵画作品。その画面では、描かれた白い部分よりも余白の黒に目が行き、視線が無限に吸い込まれていくような視覚体験を味わえる。特に壁一面を覆う大作はその効果が顕著で、隣接する壁面に掛けられた小品群との対比も鮮やかであった。彼女が京都で個展を行なうのは約5年ぶりのこと。その間に作風が変化し、私生活でも子を授かるという大きな節目があったが、彼女のバイタリティはまったく衰えていないようだ。本人とも久々に再会し、作品について直接話を聞けたのも収穫だった。

2014/07/09(水)(小吹隆文)

北尾博史 展 森の部品 古書の森の木の下で

会期:2014/07/06~2014/07/21

三密堂書店[京都府]

詩的な鉄の彫刻作品で知られる北尾博史が、古書店とコラボレートした展覧会。昨年に続く2度目の開催だ。彫刻作品の造形は書籍とリンクしたものが多く、本好きであればあるほどその関係性を楽しむことができる。また、展示された書籍を読むこともできるので、ついつい滞留時間が延びてしまった人もいるだろう。美術館でも画廊でも大型書店でもなく、小さな古書店だからこそつくり上げることができたこの豊かな空間。できれば来年以降も続けてほしいものだ。なお、本展のメイン会場は書店2階の多目的空間だったが、1階の店内でも展示が行なわれていたことを付記しておく。

2014/07/09(水)(小吹隆文)

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