artscapeレビュー

2014年08月15日号のレビュー/プレビュー

荒川望 展

会期:2014/07/15~2014/07/27

ギャラリーモーニング[京都府]

風景や植物などをモチーフにしていながらも抽象性が高いのは、流れるようなタッチとその色彩による空間性の効果なのか。全体には、柔らかく穏やかな印象で目にも心地よいのだが、見る角度によってもこちらの意識によっても、その境界が曖昧になる図と地、色の組み合わせの少し心許ない雰囲気が魅力的だ。今展ではこれまでとは画風の異なる鮮やかな色が印象的な作品も展示されていた。活動歴も長く、作風に安定した定着感もある作家。その新たな挑戦と意気込みもうかがえた個展で、また今後の活動が楽しみ。


会場風景

2014/07/20(日)(酒井千穂)

《名古屋城》、《乃木倉庫》、《名古屋能楽堂》

[愛知県]

名古屋にて、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督を決定する委員会に出席した後、県庁舎からの徒歩圏なので、シンボル的な存在である名古屋城、乃木倉庫、名古屋能楽堂などのエリアを散策する。熊本城を見学したばかりなので、比較すると、名古屋城の大きさを実感できる。これもオリジナルの木造ではなく、コンクリートで再建してから半世紀以上が過ぎているが、ある意味では模像自体もすでに歴史的存在になっている。


《乃木倉庫》


《名古屋能楽堂》

2014/07/22(火)(五十嵐太郎)

岡村明彦の写真 生きること死ぬことのすべて

会期:2014/07/19~2014/09/23

東京都写真美術館3階展示室[東京都]

『ライフ』(1964年6月12日号)に南ベトナムでの戦闘場面を撮影した写真と記事を9ページにわたって掲載して、「キャパの後継者」として一躍名前を知られるようになった岡村明彦だが、彼の活動を「戦争写真家」という枠組に封じ込めて論じるのは難しい。ベストセラーとなった『南ヴェトナム戦争従軍記』(岩波新書、1965年)を読めば、彼が優れたルポルタージュの書き手であることはすぐにわかる。その行動範囲も、アメリカ、アイルランドからナイジェリア(ビアフラ)、エチオピアにまで及び、晩年は生命倫理(バイオエシックス)や終末医療(ホスピス)の問題についても意欲的に発言していた。岡村を称するには、まさに「カメラを持った思想家」という言葉がふさわしいのではないだろうか。
今回の展覧会には、ベトナム、ラオスをはじめとして、アイルランド、ビアフラなどで撮影された未発表作を含む、180点以上の写真が展示された。公立美術館における、はじめての大規模な回顧展ということになる。会場に並んだ写真を見ながら、岡村は写真家としても一筋縄ではいかないと感じた。彼が常用していたのは35ミリのレンズであり、ほとんどの写真はそのやや広角気味のアングルで撮影されている。報道写真家にありがちな、被写体をクローズアップで狙って、読者の感情をかき立てるような写真はほとんどなく、冷静な距離を保ちつつ、そこにある現実をきわめて客観的に写しとっているのだ。岡村自身は常々「証拠力のある写真」と語っていたようだが、このような撮り方は情緒的な反応ではなく、高度な認識力と読み取りの力を読者に要求するものだ。そのことが、彼の没後30年近くたって、あらためて大きな問題をわれわれに投げかけているように感じる。フォトジャーナリズムの現場における写真家の姿勢について、再考を促す写真群といえるだろう。

2014/07/23(水)(飯沢耕太郎)

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進藤環「飛び越える、道をつないで」

会期:2014/07/09~2014/08/09

ギャラリー・アートアンリミテッド[東京都]

植物や風景の写真をカット・アンド・ペーストしてコラージュを作り、それを複写・プリントして作品化する進藤環の仕事には以前から注目してきた。その、この世のものとは思えない情景の構築力が、このところ、より高まってきているように感じていたのだが、今回東京・六本木のギャラリー・アートアンリミテッドで開催された個展では、さらに新境地というべき作品を見せてくれた。
今年になってから、長崎県五島列島を中心に撮影されているシリーズでは、隠れキリシタンの住居跡や、ハンセン氏病患者たちが暮らしていた場所、産業遺産などを画面に積極的に取り入れている。そのことによって、自然と人工物が見境なく混じりあう、何とも奇妙なユートピア(あるいは反ユートピア)が出現してきていた。このような表現の冒険は大いに歓迎すべきだろう。なお同時期には、横浜市港北区の東京綜合写真専門学校のギャラリーSpace@56で「響く、回遊する」と題する作品が「公開制作」されていた(6月17日~9月6日)。こちらは、壁二面に張り巡らされた作品の規模がかなり大きいのと、それが少しずつ生成・変化していくという試みが意欲的だ。ここでも、進藤の表現力の高まりを感じとることができた。
言うい忘れる所だったが、展覧会や作品のタイトルのつけ方によくあらわれているように、彼女は言葉を扱う能力もとても高い。詩的言語と画像の組み合わせからも、新たな世界が見えてきそうな気がする。

2014/07/23(水)(飯沢耕太郎)

挑戦する日本画:1950~70年代の画家たち

会期:2014/07/05~2014/08/24

名古屋市美術館[愛知県]

名古屋市美術館の「挑戦する日本画」展へ。埼玉県近美の「戦後日本住宅伝説」展と同様、パンリアル美術協会など、1950~70年代の前衛的な動向を追ったものである。展覧会のセレクションでは、東京芸大の日本画学科卒の桑山忠明も入っていることに驚かされる。ちなみに、日本画というジャンルの定義は、画材で規定されるので、想像以上に題材の自由度は大きい。とくに横山操の《高架4号線》(1964)は、オリンピックで建設中の首都高建設現場を描いたものだが、テクノスケープ感覚が全開で、カッコいい。

2014/07/23(水)(五十嵐太郎)

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2014年08月15日号の
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