artscapeレビュー

2014年09月15日号のレビュー/プレビュー

山下さんちの資料(アーカイブ)を持って帰る

会期:2014/08/16~2014/08/31

ARTZONE[京都府]

1990年代に美術ライターとして活動していた京都造形芸術大学アートプロデュース学科准教授の山下里加さんが、当時蒐集していた展覧会チラシやフリーペーパー、アーティストに関する雑誌、新聞などの切り抜きなどの資料を公開した展覧会。会場にはそれらの関係資料がどっさり入った箱が1990年から年ごとに分類され並んでいた。コピー機も設置されていて、来場者はそれらを自由にコピーして持ち帰ることもできる。段ボールに入れたままずっと保管されていたという厖大な資料には私自身にとって懐かしいものも多く、一つずつ手に取って眺めていると楽しくてきりがないほど。よくもこんなに残していたなと感心しながら自分もあれこれ捨てずに取っておけば良かったと後悔した。会期中は計4回の連続トークイベントも開催された。第一回目のゲストは、「アートスペース虹」オーナーの熊谷寿美子さん。ヤノベケンジ、やなぎみわをはじめとする名だたるアーティストが同ギャラリーで個展を開催した際のエピソードや、京都のアートシーンの流れなどが2時間に渡って語られた。『京都の画廊のおばちゃんと33年分の世間話』というこのトーク、毎日手探りでやってきたという熊谷さんの、「誰も一人では生きられない。私はたまたまウチに来た人をフォローしているだけ。」という最後の一言の含蓄に撃たれた。


連続トークイベント『京都の画廊のおばちゃんと33年分の世間話』会場風景

2014/08/16(土)(酒井千穂)

ランドマーク・プロジェクトV──小山穂太郎+石内都+川瀬浩介

会期:2014/08/01~2014/11/03

関内周辺[神奈川県]

今日はランドマーク・プロジェクトを重点的に探索。まず向かったのは鶴見線の国道駅。ここは5年ほど前、鶴見線の各駅を使ったアートプロジェクトをやっていたので訪れたことがあるが、改札口直結のガード下がレトロな飲屋街(現在は1軒しかやってない)になっていて、いまも昭和30年代の空気が淀んでいる。今回は閉店した店をおおうベニヤ板の上に、横浜港の海を撮った小山穂太郎の巨大なモノクロプリント約10点を展示。これはスゴイ。場所ともども一見の価値あり。次は馬車道駅近くの帝蚕倉庫へ。再開発のため1棟しか残っていない倉庫を囲む塀に、カイコの繭から生糸(シルク)、色鮮やかな絹織物まで撮った石内都の写真シリーズ「絹の夢」を並べている。帝蚕倉庫は文字どおりかつて主力輸出品だった生糸を保管するために建てられたものなので、倉庫の周囲から歴史をあぶり出すかっこうだ。ここにはもうひとり宮本隆司の作品があるはずなのだが、うっかり見落とした。その後ギャルリーパリに寄り、フランシス真悟キュレーションの「ミクスト・アップ!」を見て(レビューは省略)、1928年竣工の「キング」と称される神奈川県庁舎へ。1階に川瀬浩介の呼吸するように光る作品が置いてあるが、夏休み限定でビアガーデンとして開放された屋上にも、川瀬による光る植木鉢状のオブジェが20個ほど並んでいる。黄昏時に築90年近い建物の屋上で、ぼんやり明かりをながめながらビールを飲めるなんて、県庁も粋な計らいをするものだ。

2014/08/16(土)(村田真)

百々俊二『日本海』

発行日:2014年7月29日

百々俊二の渾身の力作『日本海』のページを繰りながら思いを巡らしたのは、濱谷浩の1957年の写真集『裏日本』(新潮社)のことだ。同じく「人間と風土」をテーマにした長期間にわたる撮影の成果だが、『裏日本』と『日本海』ではやはり肌触りがかなり違う。むろん1950年代と2000年代という時代背景の違いはある。50年代には、まだ「表日本」と「裏日本」の経済、社会、文化的な落差は、現在とは比較にならないほど大きかった。2000年代にはのっぺりとした均質化が、日本全体を覆い尽くしているように見える。百々が2011年夏以来、山口県長門から北海道稚内までの日本海沿岸を歩き通して確認しようとしたのは、濱谷が提起した「人間が/人間を/理解する/ために 日本人が/日本人を/理解する/ために」という命題が、今なお成立するのかどうかということだっただろう。
それにも増して、大きな違いを感じるのは、濱谷の35ミリ判のカメラに対して、百々が8x10インチ判の大判カメラを使用していることだ。被写体との距離感を自在にコントロールして、的確なフレーミングを選択できる35ミリ判のカメラと比較すれば、8x10インチ判のカメラは、圧倒的に不自由さがつきまとう。にもかかわらず百々が大判カメラにこだわり続けるのは、「私が送る視線と触れ合い視線を押し返し、引き込む往復運動」が被写体との間で成立するからだ。三脚にカメラを据え、構図を決め、ピントを合わせ、露出を計って、フィルムホルダーをセットし、シャッターを切る──そのどうにも不便きわまりない長ったらしい時間が、写真家と被写体との間にダイナミックな「往復運動」を生じさせ、気韻とか気配とかしかいいようのない何ものかを呼び込んでくる。写真集の中に、普通なら失敗として捨ててしまいかねないブレにブレた写真を入れているのも、百々がその「往復運動」のエナジーを捉えきっているかどうかを作品選択の基準としているからだろう。
『楽土紀伊半島』(ブレーンセンター、1995年)、『大阪』(青幻社、2010年)と続いた百々の「人間と風土」の三部作は、これで一応の完結ということになる。だが、やり残していることはまだたくさんあるのではないだろうか。日本には、そして写真家・百々俊二の中には、さらなる未知の可能性が広がっているからだ。

2014/08/17(日)(飯沢耕太郎)

成田享 美術/特撮/怪獣 ウルトラマン創造の原点

会期:2014/07/19~2014/08/31

富山県立近代美術館[富山県]

富山県立近代美術館の「成田亨 美術/特撮/怪獣」展は、過去最大の回顧展だろう。武蔵美を出て、当初はアーティストをめざしつつ、『ゴジラ』などを契機にウルトラマンの怪獣デザインを手がけるようになり、晩年は古今東西の怪獣を描くことに捧げた生涯を紹介する。ウルトラマン・シリーズの怪獣は、筆者にとっては、生まれて初めて興味をもった造形であり、最初に影響を受けたアーティストと言えるかもしれない。

2014/08/17(日)(五十嵐太郎)

武井武雄の世界展

会期:2014/08/06~2014/08/18

大阪高島屋7階グランドホール[大阪府]

大正から昭和にかけて、『コドモノクニ』『子供之友』『キンダーブック』などの児童向け雑誌で活躍したことで知られる武井武雄の生誕120年展。本展は「童画」という言葉を生み出し「こどもの心に触れる絵」の創造を目指した武井の過去最大となる展覧会で、童画、刊本作品、版画、おもちゃ、陶芸など約400点が展示された。水彩絵の具とクレヨンにの童画にはじまる会場の展示は、武井の美的センスと世界観を十分に満喫できる充実したボリューム。なかでも私が目を奪われたのは豆本サイズの刊本作品の数々だった。生涯で作られた139の刊本作品全てが展示されていたわけではないが、その美しさたるやまさに息を飲むほど。物語づくりはもちろんだが、装丁も自ら手がけたという武井のこれらの刊本作品は、紙や活字などの細部にも強いこだわりが表れていた。実際に手に取ってみたいもどかしさにも襲われながら至福のひとときを味わえた展示。

2014/08/17(日)(酒井千穂)

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