2018年05月15日号
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artscapeレビュー

2014年09月15日号のレビュー/プレビュー

大久保潤「でかける!」

会期:2014/07/01~2014/08/02

カフェ・カンパーニュ[東京都]

大久保潤は相変わらず元気に写真を撮り続けている。2012年に横浜・blanClassの「でかける!」展で、1000点以上の写真を展示したのだが、その後も撮影のペースはまったく落ちていないようだ。今回の東京八王子のカフェ・カンパーニュでの個展では、昨年12月頃から撮り続けてきた200点あまりが展示されていた。
大久保の写真の撮り方はまさに出会い頭で、彼のアンテナに引っかかったものに素早くカメラを向けてシャッターを切っている。とはいえ、好みの被写体はあるようで、何かが規則正しく並んでいる状態(今回ならTシャツ展の会場、ミニカーのポスターなど)には常に鋭敏に反応する。また、時期によって「マイブーム」があるようで、最近は「自分の撮った写真のプリントを撮影する」ことに凝っているようだ。それらの写真のほとんどはピンぼけなのだが、そのぼけ具合が妙に気持ちがよく、いい味わいを醸し出していた。
彼のような知的障害者が撮る写真を、とりたてて特別視する必要はないだろう。だが、やはり普通の撮り方ではないと思う。被写体への向き合い方が、文字通りストレートであり、余計な思惑がない分、被写体のエネルギーがまっすぐに写真の中に流れ込んできているように感じるのだ。以前の1000点の写真展示が印象に残っているので、200枚でもやや物足りなく感じてしまう。かなり大きな会場が必要になるのだが、彼のこれまでの写真を全部まとめて展示して、シャワーのようにそのパワーを浴びたいと思いはじめた。

2014/08/01(金)(飯沢耕太郎)

山本渉「春/啓蟄」

会期:2014/07/25~2014/08/23

Yumiko Chiba Associates / viewing room shinjuku[東京都]

2013年に森の中で撮影したセルフポートレイトのシリーズ「線を引く」を写真集にまとめて注目された山本渉は、かなり多彩な作風の持ち主である。植物の放電現象を「キルリアン写真」で記録した「光の葉」、「プラタナスの観察」などのシリーズに加えて、男性の自慰用の器具の内部に石膏を流し込んで型取りしたオブジェを撮影した、何ともユーモラスな「欲望の形」のシリーズも同時並行して発表している。その山本の新作「春/啓蟄」も、いかにも彼らしい趣向を凝らした「コンセプチュアル・フォト」だった。
表題作は「水とカラーフィルムを皮膚の代わりにして太陽の光と温度変化を捉える試み」であり、具体的には4x5判のフィルムを水に浸して凍らせ、ピンホールカメラの小穴から差し込む光で解凍と撮影を同時におこなうという作品である。その結果として、フィルムには細かなさざ波のような紋様や光のフレアーなどが写り込むことになる。その偶然の効果で出現してくる画像のたたずまいが、いかにも「春の目覚め」を思わせる、みずみずしく力強い生命力の胎動を感じさせるのが面白い。実際にやってみなければ、どんな結果になるのかまったく予想がつかないはずだが、何かに導かれるように「こうやるべきだ」という確信に至ったことが想像できる。
次々に新しい箱を開けるように、さまざまな現象を写真というフィルターを通して形にしていく山本の試みは、これからしばらくはこのまま続けていっていいと思う。おそらくそのプロセスを経ることで、より強い説得力と一貫性を備えた世界観、写真観が育っていくのではないだろうか。

2014/08/01(金)(飯沢耕太郎)

荒木経惟「往生写集──愛ノ旅」

会期:2014/08/09~2014/10/05

新潟市美術館[新潟県]

豊田市美術館の「往生写集──顔・空景・道」に続いて、新潟市美術館では「往生写集──愛ノ旅」と題する荒木経惟展が開催された。「センチメンタルな旅」(1971年)、「冬の旅」(1991年)、「愛のバルコニー」(1982~2011年)といった回顧展的な名作に加えて、新作を積極的に紹介していくという構成は、前回の展示を踏襲している。それに加えて、今回は2011年の第6回安吾賞受賞記念展で発表された「堕楽園」、新潟を舞台として撮影された「新潟エレジー」(1988年)、「冬恋」(1998年)など、新潟ゆかりの作品も展示されていた。
新作の中でも抜群に面白いのは、わざわざ特別に「愛切ノ部屋」をしつらえて展示した「愛切」のシリーズだ。長年撮りためたポラロイド写真を鋏で二つに切り、その片方同士を組み換えて貼り合わせている。過激なヌードが多いので、微妙な部分をカットして見えないようにしてしまうという実用的な目的と、2枚の写真の意表をついた組み合わせの妙とが結びついて、見応えのある作品に仕上がっていた。1357枚という点数はかなりの数だが、まったく見飽きるということがない。荒木の真骨頂といってよい、サービス精神あふれる展示だった。
ただ全体的に見ると、豊田市美術館の展示のぴんと張りつめた緊張感が、やや薄れているように感じるのは、会場のたたずまいの違いのせいだろうか。前川國男設計の美術館の建物の、ゆったりとした空気感の中だと、荒木の作品も静かに落ち着いて呼吸しているように感じる。それはそれで悪くないのだが。

2014/08/01(金)(飯沢耕太郎)

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GODZILLA ゴジラ

映画『ゴジラ』(監督:ギャレス・エドワーズ)を鑑賞する。しばしば酷評される1998年のハリウッド版の爬虫類的ゴジラも文化的な誤読として興味深かったが、今回は畏怖すべき自然の象徴として描く。原発事故、情報隠蔽も交え、現代的なテーマを組み込んでいるが、怪獣ムートーの出番が多過ぎかもしれない。暗がりのなかで出し惜しみしながら、全体をあまり見せない戦闘シーンは印象的だった。トランスフォーマーが晴天のもと、うんざりするくらい超速で変形バトルが延々と続くのとは対照的である。直接すぐに見せない、引張って引張っての演出は、途中、なかだるみもなくはないが、ゴジラの聖性を高めている。やはり1954年の第一作がベストだとは思うが、これだけのクオリティのゴジラをハリウッドでつくられると、もう日本で制作することは今後難しいかもしれない。

2014/08/01(金)(五十嵐太郎)

思い出のマーニー

映画『思い出のマーニー』(監督:米林宏昌、製作:スタジオジブリ)は想像以上に良かった。あまりジブリに出てこない、こじれた女性の主人公が療養の地で体験する奇譚であり、一夏の成長物語になっている。そして鍵となる水辺の幻想的な湿っ地屋敷も、存在感を放つ重要な登場キャラだ。とくに窓辺に哀しげにたつマーニーの姿が印象的であり、窓映画といえる。心に残る細かい意匠設計は、映画美術の種田陽平が手がけたものだ。

2014/08/01(金)(五十嵐太郎)

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