artscapeレビュー

2014年10月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:悪魔のしるし『わが父、ジャコメッティ』

会期:2014/10/11~2014/10/19

KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ/京都芸術センター 講堂[神奈川県/京都府]

最近はcore of bellsとの共作『子どもを蝕む“ヘルパトロール脳”の恐怖』でその無気味な才能を発揮していた悪魔のしるしの危口統之。今作は、彫刻家の父・木口敬三と危口本人が出演する。おそらくリアルな(血縁関係のある)二人の人生と演劇というフォーマットとが重ねあわされたところでどんなことが起きるのかという、ひとつのドキュメンタリー演劇の試みとして注目できる。とはいえ、危口のことである。先述したcore of bellsとの共作では緻密なルールを課したアドベンチャーゲームのように会場を設えつつ、結果的には観客をただただ混乱させ、ひたすら目を瞑った状態でその場歩きをさせる、そういう拷問のごとき「悪巧み」を仕掛ける作家だ。きっと観客はおちおち座っていられまい。ただし、今作でぼくが期待しているのは、観客ではなく危口本人に「悪巧み」の矢が向けられているかもしれぬということだ。この場が危口演出のお化け屋敷のようになるのか? それとも危口本人が自らの変容を促されるトラップを用意しているのか? 観客への仕掛けと危口本人への仕掛けとがあるテンションを生み出しつつ共存していたら、それはそれは面白そうである。

横浜公演=2014/10/11~2014/10/13
京都公演=2014/10/16~2014/10/19


悪魔のしるし×KAAT 『わが父、ジャコメッティ』

2014/09/30(火)(木村覚)

PAGE ONE 西田光男の鍛鉄仕事

会期:2014/09/11~2014/09/23

あるぴいの銀花ギャラリー[埼玉県]

鍛鉄工芸家・西田光男と、その工房PAGE ONEの作品展。埼玉県秩父市に工房を構える西田光男は、小さな箱物から実用的な門扉やフェンス、さらにはオブジェやモニュメントまでを手がける鍛鉄(ロートアイアン)の作家。棒状あるいは板状の鉄を熱し、叩き、伸ばし、曲げて形をつくってゆく。ムーミンの物語世界をモチーフにした「あけぼの子どもの森公園」(埼玉県飯能市)の建物の窓枠やフェンス、橋やベンチ、オブジェなどの鉄仕事はそれと知らずに知っている人も多いのではないだろうか。最近の仕事としては、京王線吉祥寺駅上にオープンした「キラリナ吉祥寺」の5階女子トイレに鳥籠をモチーフにした化粧ブースなどを設置したという(女性でなければ見ることができないのが残念!)。展示はオブジェや箱などの小物を中心に、ベンチ、門扉のサンプル、屋外には大きな恐竜の親子がいる。この恐竜は東日本大震災の翌年、トラックに乗せて被災地の保育園や幼稚園、学校をめぐり、子どもたちを楽しませてきたものだという。作品を貫く特徴はユーモア(駄洒落好きでもあるらしい)。実用的な門扉やフェンスはエレガントな造形であるばかりではなく、添えられた小さな動物たちなどが楽しく見ていて飽きることがない。クライアントの要望を聞いてスケッチをつくり、一つひとつを手作りする。鋳物と違って型を用いないので、似たモチーフはあっても同じものはひとつとしてない。仕事に合わせてハンマーや木型を自作。工房にはそうした自作の道具がずらっと並んでいるのだという。住宅や店舗の仕事を数多く手掛けていて、筆者の住む街にも設置された作品があると聞いた。街を歩くときに気を付けて観察してみよう。[新川徳彦]


展示風景


恐竜ファミリー

2014/9/2(火)(SYNK)

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