artscapeレビュー

2014年10月15日号のレビュー/プレビュー

しりあがり寿の「どこまでやるら。」

会期:2014/04/05~2015/02/21

静岡市クリエーター支援センター(CCC)[静岡県]

元小学校のギャラリーにて。展示会場である元教室では、机の上に作家のマンガがずらりと並んでいた。デビュー前の作品や学生の頃の写真もあった。学校は、誰の思い出であってもきっと輝く場所。安易にも、作家の原点が机の上の落書きと思わせんばかりの展開をじっくり楽しむことができた。

2014/09/20(土)(松永大地)

山本二三展

会期:2014/08/04~2014/09/23

静岡市美術館[静岡県]

会期:2014/08/04~2014/09/23
会場:静岡市美術館
地域:静岡県
サイト:http://www.shizubi.jp/
執筆者:松永大地
「天空の城ラピュタ」とか、「火垂るの墓」とか日本人なら誰でも見たことがあるくらい有名なアニメの風景。アニメの記憶と一緒に見る風景からは、また別の物語を紡ぐことができるし、そして、そこに秘められていた(原画を見るまでは知る由もなかった)緻密すぎるタッチと繊細な色彩を堪能することができた。人物不在の庭への想像力は大切にしたい。

2014/09/20(土)(松永大地)

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アアルト 《自邸》と《スタジオ》

[フィンランド、ヘルシンキ]

ヘルシンキへ。アルヴァ・アアルトの《自邸》(1936)と《スタジオ》(1955)を見学するため、郊外の住宅地に出かける。すぐ近くにあまり知られていないアアルトやサーリネンによる集合住宅もあるのだが、これら以外でも、普通にまわりの家のデザインのレベルが高い。コモで、テラーニの集合住宅を見たときも同じことを感じたが、本の情報だけではわからないことだ。アアルトの《スタジオ》は、住宅地の外部に対しては閉じつつ、曲線を含む変形L字プランで、斜面を利用しながら、中庭に小さなアンフィシアターを抱え込む。食堂、仕事場、打ち合せ室など、それぞれに異なる性格の空間が、絶妙なスケール感で展開し、図面では想像できない場を生みだす。確かに、天才である。一方、アアルトの《自邸》は、当初事務所に使われた時期もあったが、スタジオが施主に見せるためのハレの演出をもつのに対し、基本的には親密な空間だ。一階はカーテンなどで間仕切り、ゆるやかに各部屋が連続し、二階は小さなリビングを個室群が囲む。《自邸》も《スタジオ》もガイドツアーのみ内部を見学できるのだが、来場者は日本人と韓国人が多く、アジアにおけるアアルト人気がうかがえる。


左:アルヴァ・アアルト《アトリエ》
右:アルヴァ・アアルト《自邸》

2014/09/20(土)(五十嵐太郎)

ヘルシンキ中央駅周辺

[フィンランド、ヘルシンキ]

ヘルシンキの《中央駅》(エリエル・サーリネン/1919)周辺を歩く。19世紀末から20世紀初頭の建築がよく残っており、主な景観を形成している。そしてキアズマの美術館、劇場、改修中の国立美術館など、文化施設がコンパクトに集中している。ストックマン百貨店などの商業エリアでは、アアルトによる2つのビル、サーリネンのビルが並ぶ。
アアルトによる、改修された文化の家、街区をまるごと手がけた国民年金局、「かもめ食堂」の影響によって多くの日本人女性がカフェに集まる《アカデミア書店》(アルヴァ・アアルト/1969)、周辺の建物に比べると新参者のラウタタロ・オフィスビルをまわる。いずれも時間が経過しても、古びれないというか、味わいとかわいらしさが増していく近代建築だった。
ヘルシンキではちょうど西野達さんのアート・プロジェクト「Hotel Manta of Helsinki」が開催中だった。マーケット広場の有名なアマンダ像を構築物で囲み、個人が宿泊するホテルに変えるというものである。ベルギーでも駅の時計塔をホテル化した作品を見たが、今回は地表近くに置く。室内に入ると、ベッドの真ん中から、アマンダ像が突き出ているのが、衝撃的だ。しかし、日本だと、こうしたプロジェクトに許可が出るだろうか。
建築博物館へ。3階の常設展では、20世紀のフィンランドの建築史を紹介し、2階の企画展は、1953年から継続しているフィンランドの建築レビュー展(最近はビエンナーレ)をふりかえる内容だった。図書館も併設しており、こじんまりとした施設だが、近代の建築史を見せる博物館が、日本とは違い、常設で存在していることがうらやましい。お隣のデザイン博物館は、カフェもあり、施設の規模や展示の内容は、建築博物館より本格的だった。1階の常設では、近代から現代までのデザイン史、2階の企画展は、フィンランド航空ほか、家具、玩具、インテリアを手がけたフィンランドの「イルマリ・タピオヴァーラ」展だった。ジョージ・ネルソンとの同時代性を感じる。デザイン博物館の地下では、オランダのアーティスト、DAAN ROOSEGAARDEの展示《デューン》に遭遇した。暗い回廊のような空間において、人の動きや音でほのかに反応する光ファイバーの粒子群によるインスタレーションである。わずかな電力しか使わない、ささやかだけど、大きな空間の作品で良かった。
K2Sアーキテクツが手がけた《カンピ礼拝堂》(2012)を見学した。中央駅近くの雑然とした都市のど真ん中に建っており、外部に対して閉じる木造建築である。広場に面する異形の大きな丸いオブジェのようであり、一見して教会だとわからない。が、室内に入ると、周囲の騒音はシャットアウトされ、静寂な空間が出現し、天井の縁から光が降りそそぐ。


左:アルヴァ・アアルト《アカデミア書店》
右:K2Sアーキテクツ《カンピ礼拝堂》


西野達《Hotel Manta of Helsinki》

2014/09/20(土)(五十嵐太郎)

モダンとコンテンポラリー─1970年代を巡って

会期:2014/09/20

紙パルプ会館3階会議室[東京都]

もの派をはじめ70年代美術の見直しの気運が高まるなか開かれたシンポジウム。スピーカーは70年代にデビューした鷲見和紀郎と高木修、埼玉近美で「70年─物質と知覚」を企画した平野到、モデレーターは東京近美の松本透。話は70年代の美術を巡ってというよりもの派を巡って進行し、当時まだ影響力のあった美術ジャーナリズムや批評の問題とか、アングラやサブカルチャーとの関係とか、各地に建ち始めていた公立美術館の話題とかにはほとんど触れられなかった。これはいかにもの派が70年代のトピックを独占していたか、いいかえれば、いかに70年代の美術が狭い世界だったかということを物語ってもいる。ただ貸し画廊に関しては鷲見さんが触れていた。「当時は貸し画廊が美術を支えていたが、レンタル料が高く作品に金が使えなかった。これがほんとのアルテポーヴェラ(貧しい芸術)」なんてね。しかしこれは冗談ではなく、もの派やポストもの派の作品素材に木材や石が多かったのは、安く手に入り使い回しができるからだろうし、空間を一時的に作品化するインスタレーション形式が多かったのは、貸し画廊で発表し、売れる見込みがなかったからにほかならない。実際アルテポーヴェラだったのだ。そんな経済の話も出なかったなあ。

2014/09/20(土)(村田真)

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