artscapeレビュー

2014年10月15日号のレビュー/プレビュー

第14回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展(2日目)

会期:2014/06/07~2014/11/23

アルセナーレ地区など[イタリア、ヴェネツィア]

ヴェネツィア・ビエンナーレのもうひとつのメイン会場であるアルセナーレは、イタリア万歳というべき内容だが、多くの映像に撮られたイタリアならではの、映画のシーンを多く使う展示手法が興味深い。過去にもイントロで未来を描く映画を集める、ヴェンダースの映像を見せることはあったが、これだけ全面的に映画を活用したアルセナーレの建築展は初めてではないか。イタリア世界の展示は、両サイドにシエナの善政と悪政の寓意の壁画を配した部屋から始まり、社会、文化、政治、教育などの様々なトピックの展示と映画を並べ、ドンジョバンニで終わる。イタリアにしかできない豊富な引き出しで、建築家の自己表現ではない場を創出していた(内容の理解には相当な予備知識を必要とするが)。またアルセナーレは、本来、直列に部屋をつないだ空間構成なのだが、これを縦に串刺しするように巨大なカーテンを用い、一直線の連続した空間が左(展示)右(映画)を分節したように感じさせつつ、左右を同じテーマでつなげ、全体をスキャンするイメージをよく出していた。また随所にダンスビエンナーレの舞台を挿入する仕掛けも斬新である。アルセナーレでは、2015年のミラノ万博を導入した、68年のミラノ・トリエンナーレなどの概要を含む、ミラノの建築と都市の歴史展示も興味深い。


アルセナーレ展示風景(記事左上の写真も)

結局、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展は、二日で合計15時間以上見たが、それでも全然足りないと感じるくらいの情報量は、さすがにいつもより濃い。パヴィリオンを持たない国は、より多くメイン会場に吸収され、その分、街なかの拠点が減ったように思うが、おおむね展示のレベルはかなり上がっている。一方、大学院生レベルでも気づきそうなミスがすぐに何ヶ所も見つかるような年表をメインで展示したり、単に本のプロジェクションのような国があって、良くも悪くも国際展の幅の広さを改めて感じさせる。

ヴェネツィア・ビエンナーレの会場外の展示では、すでに終了しているものもあり、いつになくポップに住宅の各部を建築キャラ化した台湾館、都市公園の開発を紹介するモスクワ館、人のネットワークをとりあげる中央ヨーロッパ、地域の建築をとりあげるカタロニア、香港などを見る。不穏な感じの外観のウクライナ館は時間があわず、結局、内部に入れなかった。

2014/09/17(水)(五十嵐太郎)

ヴェネツィア散策

パラッツォ・ドゥカーレほか[イタリア、ヴェネツィア]

《パラッツォ・ドゥカーレ》(814、改修1340~1419)へ。ちゃんと入るのは、20年ぶりくらいだろうか。中庭から全体を見渡すと、きわめて複雑であり、一人のデザインでは達成しえない、様式の非統一ぶりが興味深い。各部屋はティントレット、ベリーニ、ヴェロネーゼの作品を含む絵画が、壁から天井までを覆いつくす。余白を良しとする日本的な空間のあり方とは対照的な美意識だ。が、そうした絵は壁の窓であり、天窓でもある。


《パラッツォ・ドゥカーレ》(記事左上の写真も)

カルロ・スカルパが手がけた《クエリーニ・スタンパリア財団》(改修1959~1963)へ。これも学生のとき以来だろうか。心憎い素材と細部のデザインだが、写真で撮影しようとすると、再現が結構難しい。マリオ・ボッタほか、後世の建築家による改修デザインも興味深い。上部の美術館エリアは、ヴェネツィアならではの不整形の部屋が、バロックやロココ風になっていた。
マッジョーレ島にて、ビエンナーレにあわせ、杉本博司が制作したガラスの茶室《Glass Tea House Mondrian/聞鳥庵(モンドリアン)》を訪れた。ガラス工芸美術館のプロジェクトで、水に浮かぶガラス張りの茶室である。現代性と和のテイスト。とてもセンスがいい、キッチュというべき作品だった。


杉本博司《Glass Tea House Mondrian/聞鳥庵(モンドリアン)》

レンゾ・ピアノによる《フォンダツィオーネ・ ヴェドヴァ》(2009)へ。塩の倉庫をエミリオ・ヴェドヴァの個人美術館に改造したものである。一定時間ごとに、収蔵庫から抽象表現主義風の絵画が移動し、フォーメーションを組み、また元に戻る機械仕掛けが見世物だ。メカが面白く、工場のオートメーションを美術化したものと言える。


左:《クエリーニ・スタンパリア財団》
右:《フォンダツィオーネ・ヴェドヴァ》

6年ぶりくらいのペギー・グッゲンハイム・コレクション(1980年開館)へ。戦時下も毎日のように作品を購入して成立した奇蹟的な同時代美術館である。個人コレクターの強みを生かし、迅速に入手し、その作家らしからぬ珍しい作品もちらほら見受けられる。とくに有名なのは、ジャクソン・ポロックの支援だが、日本で開催された大型の回顧展にも来なかった作品群が海辺の部屋に展示されている。

2014/09/17(水)(五十嵐太郎)

川俣正 プロジェクトドキュメント 東京インプログレス 2010-2013

会期:2014/07/26~2014/09/27

MISA SHIN GALLERY[東京都]

東京スカイツリーが完成する前後に、おもに隅田川沿いの3カ所に制作した物見台のドローイングやマケットを展示。これらの物見台は外見こそ木材に覆われているものの、何人もの人が乗っても壊れないように、また数年間は建ち続けていられるように内部は鉄骨で補強されている。スカイツリー本体に比べりゃ屁みたいなもんだが、それまでの川俣のストリート系インスタレーションと比べれば、大きさも強さも破格。もっともドローイングやマケットではあまり違いがわからないが。ちょっと目を上げると、壁や柱に木を組んだ「鳥の巣」が何点か。

2014/09/18(木)(村田真)

原真一「トロリ」

会期:2014/08/23~2014/09/27

山本現代[東京都]

まるで綿か砂糖菓子のようにフワリ、トロリとした触感の大理石彫刻。すごいのは、大理石の固まりを上から彫っていってアヤトリする手を彫り出した彫刻。大理石でアヤトリを彫るか? アンビリーバボーな発想と超絶技巧にあきれる。大きな固まりの内部をくりぬき、表面にいくつか穴をあけた彫刻も見事というほかない。穴をのぞくと、内部はアニッシュ・カプーアの作品のように暗闇になっていて、かなり不気味。つまり量塊感はあるのに内部は空虚感に満たされているということだ。石の彫刻は彫れば彫るだけ重量が減り、持ち運びやすくなる。まさかそのためにここまで彫ったんじゃないだろうけど、でも彫れば彫るほど壊れやすく、持ち運びに注意しなければならなくなる。彫刻家のジレンマだ。

2014/09/18(木)(村田真)

小西紀行「人間の行動」

会期:2014/08/23~2014/09/27

アラタニウラノ[東京都]

相変わらずシャキシャキッと一筆書きみたいに描かれた人物を中心に、背後に水平(または斜めの)線が走り、ベーコンの絵のように室内空間であることが暗示される。以前は背景は黒一色が多かったような気がするのに、画面の隅に壁掛け時計や光の射す窓といった情景描写も入ってきた。人物も椅子に座る人、3人くらい重なる人、寝転ぶ人などポーズが多様化している。この先どこへ行くのか、どこまで行くのか。

2014/09/18(木)(村田真)

2014年10月15日号の
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