2018年12月01日号
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artscapeレビュー

2014年11月15日号のレビュー/プレビュー

迫川尚子「置いてけぼりの時刻」

会期:2014/09/30~2014/10/09

コニカミノルタプラザ ギャラリーA[東京都]

迫川尚子は、新宿駅地下で営業していて、毎日お客が1500人も入るという人気カフェ、ベルクの副店長をつとめている。そのかたわら、東京・四谷の現代写真研究所で写真を学び、『日計り』(新宿書房、2004年)、『新宿ダンボール村』(DU BOOKS、2013年)の2冊の写真集を刊行した。
主に店に通う行き帰りの路上で撮影されている彼女の写真は、特定の被写体を狙ったものではない。だが知らず知らずのうちに、同じような被写体が多くなっていた。自分が何を撮っているのだろうかと自問自答し、その結果「私の撮る時刻はもっとひそやかな、どこかに忘れてきた時刻です」という答えに至る。それが今回の写真展の「置いてけぼりの時刻」という、とても印象的なタイトルの所以ということになる。
たしかに、今回の写真展には、取り残されてどこか寂し気な子供の姿、ドラム缶やビールケースや自転車などがぽつんとたたずむ片隅の光景が多いような気がする。だが、とりたたてて喪失感のみが強調されているわけではない。原発反対と右翼のデモの写真が両方とも展示されているのを見てもわかるように、何が起こるかわからない路上の出来事を、いきいきとした好奇心を働かせて撮影しているのだ。写真がモノクロームからカラーに変わったことも、いい方向に働いているのではないだろうか。このシリーズもぜひ写真集にしてほしいが、その時には迫川自身の肉声を記したテキストも一緒につけてもらいたい。迫川の写真を見ていると、言葉が欲しくなってくるのだ。

2014/09/02(火)(飯沢耕太郎)

建築文化週間2014 建築夜楽校「東京オリンピック2020から東京を考える」第1夜「新国立競技場の議論から東京を考える」

会期:2014/10/01

建築会館ホール[東京都]

日本建築学会、建築夜楽校のシンポジウム「新国立競技場の議論から東京を考える」にコメンテーターとして出席する。司会の松田達は、まずこの錯綜している問題に関する、さまざまな論点を整理し、続いて青井哲人は議論すべきことを指摘した。また浅子佳英は、311以降の文脈から大胆な穴掘りによるスタジアム案をオルタナティブとして提示する。そして一連の議論のきっかけをつくった槇文彦は、ザハ案の阻止を訴え、コンペの審査員をつとめた内藤廣はすぐれたものをつくるべきという。多くの聴衆の関心を集めたように、この問題に関して、槇と内藤が初めて同じ場において議論したことが最大の成果である。とはいえ、結論が出たわけではない。ザハ案の反対派が強固なことが再確認された。またシンポジウムにあわせて、関連企画展「東京オリンピック2020から東京を考える」展が開催された。

左:森山高至によるキャラ建築
右:浅子佳英によるショッピングモールのモデルなどを応用した選手村案

2014/10/01(水)(五十嵐太郎)

ホンマタカシ「NINE SWIMMING POOLS AND A BROKEN I PHONE」

会期:2014/09/30~2014/10/30

POST[東京都]

アメリカの現代美術アーティスト、エド・ルシェの『NINE SWIMMING POOLS』は1968年に刊行されたアートブックである。例によって、クールな視線でアメリカ西海岸の9つのプールを撮影して、小ぶりな写真集にまとめている。ホンマタカシは、そのルシェのコンセプトをそのまま引用して、まったく同じテーマ、大きさ、レイアウトで写真集を制作した。会場には200部限定で刊行されたその写真集『NINE SWIMMING POOLS AND A BROKEN I PHONE』の印刷原稿がそのまま並んでいた。
こういう引用/編集系の作品には、まさにホンマの本領が発揮されていて、実にうまくまとめている。単純な引き写しというわけではなく、ルシェの写真には写っていない人物の姿があらわれてきたり、子供用のビニールプールを撮影したり、水没して壊れたiPhoneをさりげなく画面に取り込んだりして、しっかりとホンマタカシの作品として成立させているのだ。そういわれてみれば、エド・ルシェとホンマの被写体への視線の向け方、作品化のプロセスには重なり合う所が多いのではないだろうか。オマージュの捧げ方にまったく無理がなく、自然体に見えるのはそのためだろう。
ホンマはこれから先も、同じコンセプトで何冊か写真集をつくる予定だという。もちろん、それぞれクオリティが高く、読者、観客を楽しませてくれる本になることは間違いないだろうが、引用/編集系の作品は、やはり何か大きな仕事への助走であってほしい。

2014/10/03(金)(飯沢耕太郎)

原芳市「光あるうちに」

会期:2014/09/27~2014/11/03

POETIC SPACE[東京都]

原芳市の『光あるうちに』は2011年に蒼穹舎から刊行された写真集。写真集と同時期に東京・新宿のサードディストリクトギャラリーで開催された個展を見て、この写真家の作品世界が新たな高みに達したと感じたことをよく覚えている。1970年代以降の「私写真」の流れを受け継ぎつつ、よりその陰翳を濃くして、生(性)と死とのコントラストを強めた原の写真の世界が、この頃からすとんと腑に落ちるようになったのだ。その後の彼が『常世の虫』(蒼穹舎、2013年)、『天使見た街』(Place M、2013年)と力作の写真集を次々に刊行しながら、旧作の「ストリッパーもの」も精力的に発表してきたことには、本欄でもたびたび触れてきた通りである。
今回のPOETIC SPACEでの展覧会には、写真集に使用された写真に未発表の1点を加えた17点が並んでいた。その意味では、それほど新鮮味のある展示ではないが、どちらかといえば若い写真家たちにスポットを当ててきたギャラリーでの企画展であることは注目してよい。つまり、原の仕事がこれまでの自主運営ギャラリーを中心とした展示から、大きく広がりつつあることのあらわれといえる。実際に、写真展の会期中にはスイスのギャラリーからの問い合わせがあったそうで、次はヨーロッパやアメリカでの本格的な展覧会につながっていくのではないだろうか。
会場で、1978年に自費出版した原の最初の写真集『風媒花』を購入することができた。被写体に向ける眼差しのあり方は、この頃からほとんど変わっていないのだが、じわじわと眼に食い込んでくる浸透力は確実に増している。こうなると、もっと大きな会場で、1970年代以来の彼の作品をまとめて見たくなってくる。

2014/10/03(金)(飯沢耕太郎)

戦後日本住宅伝説──挑発する家・内省する家

会期:2014/10/04~2014/12/07

広島市現代美術館[広島県]

広島市現代美術館に「戦後日本住宅伝説」展が巡回されるので、設営現場に向かう。同じ黒川紀章の建築だが、埼玉県立近代美術館に比べて、広い空間なので、没入感のある巨大写真タピスリーのインスタレーション、塔の家の1/1スケール図面などがパワーアップした。ほかに新規で追加した資料の展示物も増え、さらに充実した内容となった。






会場風景

2014/10/03(金)(五十嵐太郎)

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2014年11月15日号の
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