artscapeレビュー

2015年01月15日号のレビュー/プレビュー

誰が袖図──描かれたきもの

会期:2014/11/13~2014/12/23

根津美術館[東京都]

だれの袖なの? という意味の「たがそで」図屏風には妙に惹かれるものがある。理由のひとつは、衣桁に掛けられた着物の柄が前面に出て屏風自体の意匠になると同時に、それが画中画の役割も果たしていること。もうひとつは、人物画でも風景画でもなく強いていえば風俗画なのだが、女性が着ていた衣服だけに残り香が漂ってるように感じられることだ。今回展示されているのは3件で、2件は人物が登場しないが、1件には珍しく遊女らしき女性が描かれている。こういう風俗画に描かれた女性がたいてい遊女であることも興味深い。浮世絵の美人画でもモデルは遊女が多いし、「誰が袖図」と同じ17世紀のオランダ風俗画に描かれる女性もだいたい遊女だ。ほとんど「フーゾク画」と称してもいいくらい。しかし袖と遊女といえば、やっぱりイングランド民謡「グリーンスリーヴス」だ。美しい旋律の歌だが、なぜ「緑の袖」かといえば、貧しい娼婦が青姦によって袖が緑に染まったからだという。話がそれたが、「誰が袖屏風」にはそんな美醜・清濁を合わせ飲む深さがある。

2014/12/12(金)(村田真)

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神蔵美子「たまきはる──父の死」

会期:2014/12/12~2015/01/25

NADiff Gallery[東京都]

『たまゆら』『たまもの』に続く神蔵美子の写真集『たまきはる』の出版記念展。「たま」シリーズ第3弾、というとミもフタもないが、「たまゆら」も「たまもの」も神に通じる高貴な概念であり、「たまきはる」も命にかかる枕詞だそうだ。恥ずかしながら知りませんでした。写真集のほうは、さまざまな人たちとの出会いと別れを聖書と照らし合わせながら綴ったもので、文章だけでも60ページにも及ぶという。展示では父との別れを中心に再構成しており、子どもの神蔵と写ったまだ若いお父さんの写真から、死の床、葬式、焼き場の風景、そして骨になって拾われるお父さんの残骸まで、花や空の写真を挟みながら淡々と並べられている。

2014/12/12(金)(村田真)

池田光宏「Blue Moment」

会期:2014/11/21~2014/12/14

トラウマリス[東京都]

家のかたちや抽象形態など、さまざまな図像の部分に蛍光カラーを塗った絵が壁に何枚か貼ってある。上から照明を当てているのだが、見ているうちに少しずつ色が変わっていく。照明の色によって蛍光カラーの色が微妙に変化していくようだ。だけでなく、色が強くなったり弱くなったり、まるで呼吸しているようにも見えてくるのだ。どこかで拡大して発表するのかしら。

2014/12/12(金)(村田真)

石原友明 展「透明人間から抜け落ちた髪の透明さ」

会期:2014/11/29~2015/01/18

MEM[東京都]

白いキャンバスに細くて黒い曲線が無数に引かれた作品が6点。最初は髪の毛みたいだなと思ったけど、髪の毛のようにドローイングしてるのかも、それにしては曲線がうますぎるな、いやいや藤田嗣治なら面相筆で描けたはず、でもよく見ると手描きではなくプリントみたい、ひょっとしてCGか、などと考えていたら、ギャラリーのスタッフが「これは石原さんの髪の毛です」と教えてくれた。「お風呂に落ちてた髪の毛を集めたものだそうです」と。それをベクタデータ化して作成した「自画像」だそうだ。いろんなことやりよるなあ。

2014/12/12(金)(村田真)

シェル美術賞展2014

会期:2014/12/10~2014/12/23

国立新美術館[東京都]

絵画を対象とする若手作家の発掘を目的とした公募展で、815点の応募作品のなかから52点の入選作品を展示している。15倍強の倍率を勝ち抜いたとはいえピンからキリまであり、しかもキリが多くてピンがほとんど見当たらず、絵画というものが一朝一夕では描けないものだということが再認識される。人物の頭上から木の枝が生えたような田淵麻那の《観葉植物A》は、色彩といい構成といい完成度が高い。これは保坂健二朗審査員賞。ビルの壁の「ル」の字のみクローズアップした大岩雄典の《ル》は、なぜ板に描いてるのかわからないけれど、クリーム色の地に青灰色が美しい。二股に分かれた木の幹のあいだから家族が笑顔を見せる黒木南々子の《華の家系図》は、わざわざ一人ひとり薄い板に描いたものを貼っている。むしろこうした一見無邪気に見える作品に絵画の別の可能性を感じてしまう。奥の部屋では過去に選ばれた作家によるセレクション展を開催。こちらはひとり数点ずつ出品していることもあって見ごたえがある。今井麗は日常的な食卓と人形をサラリと描いて気分がいいし、松尾勘太はできそこないのシュルレアリスムみたいで妙な魅力がある。一方、マンガチックな聖人に金の装飾を施した森洋史と、パイプや金網、噴煙などを描き込んだ吉田晋之介は、それぞれ背景と前面に津波や原発事故を出している。津波・原発はモチーフとして使いやすいし、免罪符にもなりかねないので取り扱い注意だ。ところで、毎年のことだが、会場には英語の作品リストはあるのに日本語のはない(なぜかセレクション展は日本語のリストがある)。以前なぜなのかたずねたら、日本語のリストはカタログに載ってるからということだったが、1000円は大金だ。とても手が出ない。再考を望む。

2014/12/12(金)(村田真)

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