artscapeレビュー

2015年03月15日号のレビュー/プレビュー

倉谷拓朴、ポール・モンドック「黄金町通路 第二期:記録」

会期:2015/02/07~2015/02/22

高架下スタジオSite-Aギャラリー[神奈川県]

かつては性風俗店が並んでいた横浜市中区黄金町の大岡川沿いの一帯は、2006年以降にアートによる街の再生を図って大きく変貌していった。2009年に設立された黄金町エリアマネジメントセンターが展開してきた国内外のアーティストたちが交流するアーティスト・イン・レジデンスの活動「黄金町バザール」も、ようやく地に足が着いたものとなり、3期にわたってその成果を発表する展覧会シリーズ「黄金町通路」が開催された。
2015年1月開催の「第一期:再訪」ではこれまでの参加アーティストを再度招いて彼らの新作を紹介したのだが、今回の「第二期:記録」では二人の写真家の黄金町のドキュメント作品が展示されていた。2011年から黄金町でアートスペースmujikoboを主宰している倉谷拓朴は、地域の住人たちを白バックで撮影したポートレートのシリーズ「White Light」を、フィリピンのアーティスト、ポール・モンドックは、黄金町滞在中に撮影したモノクロームとカラーのスナップショットのシリーズ「Summer Days Come」を発表している。倉谷の大判カメラによる緻密な描写のポートレートと、モンドックの街の気配に寄り添うようにシャッターを切り続けたスナップショットは、まるで対照的な作品だが、両者が合わさることで黄金町という土地の特異な磁場が立ち上がってくるように感じる。互いの作品を、混じりあうように交互に展示していく会場構成も、とてもうまくいっていたのではないだろうか。
2015年3月7日~22日には、黄金町を拠点としてきたアーティストたち、6名(Atsuko Nakamura、岡田裕子、小畑祐也、久保萌菜、関本幸治、吉本直紀)の作品を展示する「第三期:成果」展が開催される。地域密着型のアート・プロジェクトとして新たな展開が期待できそうだ。

2015/02/10(火)(飯沢耕太郎)

津田直「NAGA」

会期:2015/02/03~2015/02/22

POST[東京都]

津田直の写真の発表のスタイルが明らかに変わったのは、本展の前作にあたる「SAMELAND」(POST、2014年)からである。それまでは、一点一点の独立性が高い少数の作品を、それぞれ屹立させるように提示していたのだが、「SAMELAND」ではより緩やかな流れの中で、彼自身の旅や移動の移りゆきに即して写真を見せるようになっていった。そのスタイルは、2013年と14年に、ミャンマー北部のインドとの国境に近いザガイン管区に住むナガ族の人々の暮らしと祭礼を撮影した、今回の「NAGA」のシリーズでも踏襲されている。ただ、今回の展示は、書店に併設する展示スペースの大きさの問題もあって、数自体は7点とそれほど多くない。むしろ、73点の作品をおさめて、同時刊行された同名の写真集(limArt刊、デザインは前回と同じく田中義久)の方に、津田の意図がよくあらわれているように感じた。
津田の写真の叙述のスタイルは、人類学者の「フィールドノート」を思わせる所がある。つまり、飛行機とジープを乗り継いでナガ族の村に入り、いつもの旅と同じようにメンター、すなわちよきガイドの役目を果たす人物と出会い、彼の導きによって未知の精神世界の深みへと入り込んでいく、そのプロセスが細やかに、ほぼ時間的な経過を踏まえて辿られているのだ。その「フィールドノート」を、整理、推敲して整えていくのではなく、むしろより「生の」形で提示しようとするのが「SAMELAND」や「NAGA」の試みなのだ。ただ、その試みがうまくいっているかどうかについては、まだもう少し判断を留保したい。むしろ以前の、一枚の写真に視覚的な情報をぎっしりと埋め込んでいくやり方の方が、効果的に思える場合もあるからだ。いずれにしても、さまざまな方法論を模索していく中で、津田の写真の世界は、もう一つスケールの大きなものに脱皮していくのではないだろうか。

2015/02/11(水)(飯沢耕太郎)

神々のたそがれ

アレクセイ・ゲルマン監督の遺作『神々のたそがれ』を見る。ある惑星が舞台というSF的な設定だが、まったく未来的ではなく、暮らしぶりやその背景となる建築は、まるで西欧の中世だ。しかも全編にわたって、ただならぬ悪臭が漂い、細部の描写に至るまで驚くべき実在感がある。絶えず、視界をさえぎる障害物があるという独特の映像だ。地球人は、この惑星の人々から神と崇められるのだが、ただただ、世界の退行を傍観するしかない。しかし、ここで起きている反知性主義の動向は、遠い世界の出来事だと思えない。

2015/02/12(木)(五十嵐太郎)

映像芸術祭 MOVING2015

会期:2015/02/06~2015/02/22

京都芸術センター 講堂ほか[京都府]


京都芸術センター・ギャラリーを使った八木良太、毛原大樹作品は、どちらも研究対象としての映像表現といった趣。作品自体はとても興味深いのだが、同センター内に配置された、坂西未郁や水野勝規、浦崎力の作品らとともに、全体を際立たせるキュレーションがあってもよかったのでは、と感じてしまう。大きく括る必要はないとも思うが、別会場、ARTZONEでの山城大督による濃いめのメッセージが詰まった映像作品や、ギャラリーの大きさを生かした大画面で迫る児玉画廊の宮永亮など、作品のパワーが溢れ出していた連携プログラムに本プログラムがやや見劣りしてしまう印象。

2015/02/13(金)(松永大地)

IMA CONCEPT STORE

IMA CONCEPT STORE[東京都]

六本木AXISのIMAコンセプトストアにて、企画の打ち合わせを行なう。ARを活用し、デジタル・メディアと連動させることで、紙の書物に魅力を加える展示と、カラフルな水谷吉法写真展「Colors / Tokyo Parrots」を開催していた。ここのギャラリーを設計したのは、名和晃平のSANDWICHである。ヒンジで大きく可動壁が回転するのが、特徴だ。

2015/02/14(土)(五十嵐太郎)

2015年03月15日号の
artscapeレビュー