2018年11月15日号
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artscapeレビュー

2015年08月15日号のレビュー/プレビュー

富士定景─富士山イメージの型

会期:2015/01/17~2015/07/05

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

IZU PHOTO MUSEUMの企画展は、いつも高度に練り上げられており、視覚的なエンターテインメントとしても楽しめるものばかりだ。ただ、今回の「富士定景─富士山イメージの型」展は、同美術館で2011年に開催された「富士幻景──富士にみる日本人の肖像」展とかぶる部分が多く、やや余裕のない印象を受けた。特に前半部の富士山を被写体とした古写真、絵葉書、プロパガンダ雑誌などを中心とする「第1部 富士山イメージの型」のパートは、前回の展覧会のダイジェスト版という趣だった。おそらく、次の企画である「戦争と平和 伝えたかった日本」展に全力投球するためだろう。もっとも、前回の展覧会を見ていない観客にとっては、富士山が日本人の感性の「型」を形成する重要なファクターになっていることがよくわかる、充分に面白い展示になっていたのではないだろうか。
今回の展示の中で、とても興味深く見ることができたのは「第2部 富士山と気象:阿部正直博士の研究」のパートである。阿部正直(1891~1966)は、「雲の博士」として知られる気象学者で、1927年に自費を投じて御殿場に「阿部雲気流研究所」を設立し、富士山にかかる雲の研究を開始した(1945年に閉鎖)。その間に、膨大な量の定点観測写真の他、立体写真、映画、スケッチ、地形図なども作成している。科学写真の領域に入る仕事ではあるが、千変万化する雲の動きを見ていると、想像力がふくらみ、伸び広がっていくように感じる。第1部の写真群から続けて見ると、富士山をテーマにした、ユニークな作品としての価値が、あらためて浮かび上がってくるように感じた。IZU PHOTO MUSEUMは、まさに富士を間近に望む絶好のロケーションにある。「富士山」の展示企画は、さらに回を重ねていってほしいものだ。

2015/07/01(水)(飯沢耕太郎)

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ボルドー展──美と陶酔の都へ

会期:2015/06/23~2015/09/23

国立西洋美術館[東京都]

フランス西部の中核都市ボルドーにゆかりのある美術を紹介する展覧会。プロローグに先史時代のヴィーナス像が出ているのがうれしい。通常ヴィーナス像というと獣骨か石を彫った手のひらサイズのものが大半だが、この《角を持つヴィーナス》は大きな岩に浅浮彫りしたもの。つまりもともと手にとって愛でるものではなく、不動産の一部だったわけだ。ほかにも顔料や獣脂ランプ、パレット代わりの平たい石など洞窟壁画を描くときに使ったであろう道具類もある。展示は古代、中世、近世と続くが、目玉はやはりドラクロワの《ライオン刈り》。これは1855年パリで初めて開かれる万博のために描かれた作品で、幅360センチある大作だが、普仏戦争中に上3分の1ほどが焼失。でもボルドー出身のルドンによる焼失前の模写も出品されているので、全体像は想像できる。激しい動きといい鮮烈な色彩といい、まさにロマン主義そのもの。遡ればルーベンスを媒介として、レオナルド・ダ・ヴィンチの《アンギアーリの戦い》に源流を求めることもできる。そのルーベンスによる自分の首を持つ《聖ユストゥスの奇跡》も、ダゴティのミニアチュール(細密肖像画)も必見。最後に、CAPCボルドー現代美術館に生まれ変わる直前の倉庫で制作されたジョルジュ・ルースの作品写真が唐突に展示されている。古いもんばかりじゃなく、現代美術にも力を入れてるんだぞとアピールしたいのか?

2015/07/01(水)(村田真)

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大島洋「幸運の町・三閉伊」「そして三閉伊」

会期:2015/06/30~2015/07/14

銀座ニコンサロン/新宿ニコンサロン[東京都]

大島洋は、今年、長く教鞭をとってきた九州産業大学芸術学部写真映像学科を退任した。写真家、教育者としての区切りの時を迎えたわけで、今回の銀座ニコンサロン、新宿ニコンサロンでほぼ同時期に開催された個展は、それにふさわしい充実した内容の展示だった。
銀座ニコンサロンの「幸運の町・三閉伊」は、1987年に刊行された写真集『幸運の町』(写真公園林)に収録された写真から、44点を選んで再構成している。エリ・ヴィーゼルの同名の小説からタイトルをとったという『幸運の町』は、「幸運の町」、「三閉伊」、「春と修羅」の3部構成で、まだ写真家の道に進む前の1950年代から80年代まで、長いスパンの間に撮影された写真がおさめられている。その中核となっているのが、岩手県三閉伊地方(上閉伊郡、下閉伊郡、九戸郡)を撮影した写真群で、江戸時代にはこのあたりで大規模な農民一揆が起こったのだという。厳しい風土だが、不思議な明るさが混じり合うこの地方の風景、人物がストレートな眼差しで捉えられ、自伝的な内容を持つ他のパートと響き合って見事なハーモニーを奏でる。まさに代表作にふさわしいシリーズであることを、今回あらためて確認することができた。
2011年の東日本大震災では、三閉伊も大きな被害を受けた。大島は「津波で町や集落の姿が失われても、あるいは大きなダメージを免れることができた地域であっても、三閉伊を隔てなく歩き、隔てなく撮らないわけにはいかない」と思い定め、カラー写真で震災後の状況を記録する作業を開始する。そこから60点余りを展示したのが、新宿ニコンサロンの「そして三閉伊」展である。距離を置いて、あくまでも冷静に撮影した写真群だが、その中の、震災直後の生々しい傷跡が残る写真はやや小さめにプリントして2段に並べた所に、「作品化したくなかった」という思いが滲み出ているように感じた。二つの写真展の同時開催によって、過去と現在とが接続する、より膨らみのある展示が実現できたのではないだろうか。なお、本展は9月3日~9日に大阪ニコンサロン及びニコンサロンbis大阪に巡回する。
銀座ニコンサロン:2015年7月1日~14日
新宿ニコンサロン:2015年6月30日~7月13日

2015/07/02(木)(飯沢耕太郎)

MOMATコレクション 特集:誰がためにたたかう?

会期:2015/05/26~2015/09/13

東京国立近代美術館[東京都]

「No Museum, No Life?」の内覧会のとき見逃したので、もういちど見に行く。ついでに「No Museum」もじっくり見る。いま某女子大で博物館学を教えてるんでとても役立つ。学生にも必ず見に行くようにすすめておいた。コレクション展の「誰がためにたたかう」はもちろん戦後70年を意識した企画で、戦争画は日本画も含めてこれまで最大規模の12点が出ている。なかでも石川寅治《渡洋爆撃》や御厨純一《ニューギニア沖東方敵機動部隊強襲》といった空中戦を描いたなじみの薄い作品もあって、興味津々。でも戦後70年という節目の年なんだから、キリよく70点ご開帳してほしかった。いくら今年は他館への貸し出しが多いとはいえ、まだ100点以上は収蔵庫に眠ってるはずだし。

2015/07/03(金)(村田真)

事物──1970年代の日本の写真と美術を考えるキーワード

会期:2015/05/26~2015/09/13

東京国立近代美術館[東京都]

「もの」「物質」「事物」がキーワードだった70年代の美術と写真の小特集。当時、破壊的な影響力を及ぼした中平卓馬の『なぜ、植物図鑑か』をぼくが文庫で読んだのはつい2、3年前のことだが、一読「これはもの派論ではないか」と勘違いしたほど、美術家と写真家(のごく一部)の思想・心情は接近していたように思う。出品は中平のほか、70年の「人間と物質」展を撮った大辻清司の写真、高松次郎の「単体」シリーズ、榎倉康二の写真、当時のカタログや写真雑誌など。いま、それこそ70年代の標本か図鑑のようにこれらの作品を見せられて、若い人たちはどう思うんだろう。やっぱり死ぬほどつまらないと思うんだろうか、それともつまらなさが新鮮に感じられるとか。

2015/07/03(金)(村田真)

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