artscapeレビュー

2015年11月01日号のレビュー/プレビュー

花岡伸宏「Statue of clothes」

会期:2015/09/26~2015/10/18

MORI YU GALLERY[京都府]

断片化されたモチーフや異なる素材をコラージュした彫刻作品を制作する花岡伸宏。本展でも、具象的な木彫の一部、布地、板、角材などを組み合わせた作品を発表している。それらは、生理的な反応を誘発する不条理な造形物であり、美術史を参照したクリティカルな表現であり、複数の異なるジャンル(彫刻、絵画、染織など)を融合する独自の試みであるが、その一方で、もっともらしい批評を軽やかにかわすナンセンスな遊戯に見えなくもない。こうした両義性こそ、花岡作品の魅力のコアであろう。ただし、最近の彼の作品は馬鹿馬鹿しさが少し後退して、スタイリッシュな方向に振っている印象がある。初期作品でご飯を用いたときのように、こちらを唖然とさせてほしいのだが、それは浅薄なスペクタクル願望なのだろうか。

2015/10/03(土)(小吹隆文)

有田焼創業400年記念 明治有田超絶の美 万国博覧会の時代

会期:2015/09/05~2015/10/04

そごう美術館[神奈川県]

17世紀初頭に有田で磁器が焼かれはじめて400年。2016年にかけて佐賀県・有田町を中心にさまざまな事業が予定されている。本展もそのひとつで、明治期の有田焼と万国博覧会、そして輸出向工芸品の図案集としてつくられた『温知図録』との関係にスポットをあてた企画である。展覧会図録の帯には「明治のクール・ジャパン」の文字が躍っていることから、これも明治の美術工芸品再評価の流れにある展覧会といえよう。日本政府が初めて参加した1873(明治6)年のウィーン万博に、有田焼は多数が出品されている。その後も政府の殖産興業政策のもとにフィラデルフィア万博(1876[明治9]年)、第3回パリ万博(1878[明治11]年)にも出品し海外で高い評価を受けた。こうした流れのなかで有田に設立されたのが香蘭社(1875[明治8]年設立)で、その後、精磁会社(1879[明治12]年、香蘭社から分離)、深川製磁(1894[明治27]年設立)といった企業が設立されて、明治期の輸出陶磁をリードしていった。本展ではこうした企業と製品、図案によって、明治期有田焼の盛衰を辿っている。同時期の有田焼デザインの特徴は展覧会タイトルにもあるように「超絶の美」。他の明治工芸にも共通することだが、非常に細かい──超絶的な──絵付けが施された製品が生み出され、海外に輸出されていった。展覧会会場に並んだ製品の数々からは、同時代の高い技術水準がうかがわれる。
 さて、近年明治期の美術工芸品の再評価が進んでいる背景には、これら海外輸出向けにつくられた製品を海外で蒐集し、里帰りさせてきたコレクターたちの努力の結果でもある。国内に残されたものが少なく、これまで評価の俎上に載りにくかった製品が里帰りによって人々の目に触れる機会が増え、その特異な意匠と「超絶的な技巧」に注目が集まっている。ただし、国内向け陶磁器の意匠の変化はずっと緩やかであったことは留意しておきたい。「明治維新に伴う西洋化が国民の生活様式を庶民レベルまで一気に変えることはなく、国内向けの食器類は幕末からの様式をそのまま引き継いでいる」。そして「明治の精磁会社によって製作された一連の優れた洋食器は、皇族や新政府要人たちのために作られた特異な需要であり、一般社会に洋食器が定着した訳ではない」のである★1。歴史の分野では江戸から明治にかけては断絶よりも連続性が強調されている昨今、それでも明治の美術工芸がこの時代に特異な存在であるのは国内向けから海外向けへという市場の急激な変化への生産者の対応の結果であること、そしてその隆盛が海外需要の変化へ対応の失敗により明治後期には衰退に至ったことは、このような展覧会ではもっと強調されてもよいように思う。[新川徳彦]

★1──鈴田由紀夫「明治有田の変遷──銘款を中心として」(『明治有田 超絶の美──万国博覧会の時代(論考集)』西日本新聞社、2015、8頁)。

2015/10/03(土)(SYNK)

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星野暁展「土と手の間から」/星野暁展「BLACK HORSE IN THE DARK──始原の知覚」

会期:2015/09/25~2015/10/31

艸居/アートコートギャラリー[京都府/大阪府]

陶土を指や掌で押すプリミティブな行為が集積した形状と、黒陶による漆黒の色合いを特徴とする陶オブジェで知られる星野暁。彼の国内では久々の個展が京都と大阪で開催された。順序が逆になるが、後発の大阪展では上記手法の新作群を出展。なかでも、気象図の台風を思わせる3つの渦巻きを壁面に配し、それぞれの手前に塔柱を配した《走泥──水と土の記憶》は、天地約5.4m×左右約17.6m(2辺合計)の大作ということもあり、強烈な存在感を放っていた。一方、先発の京都展では、釉薬を用いた作品が目を引いた。それらは形状こそ従来と同様だが、オブジェの頂上部から掛けられた白い釉薬が下部まで流れ落ち、窪みに溜まっている。一般的な陶芸の対極を行く作風で知られる星野だが、本作は陶芸への接近が感じられる。今後の展開が気になるところだ。

各会期:
「土と手の間から」艸居[京都府]2015/09/25~2015/10/11
「BLACK HORSE IN THE DARK──始原の知覚」アートコートギャラリー[大阪府]2015/10/06~2015/10/31

2015/10/03(土)/2015/10/06(火)(小吹隆文)

古代エジプト美術の世界展 魔術と神秘 ガンドゥール美術財団の至宝

会期:2015/10/06~2015/11/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

スイス・ジュネーブで活動するガンドゥール美術財団が所蔵する古代エジプト美術コレクションから、大小の彫刻、石碑、レリーフ、アミュレット(お守り)など、いずれも日本初公開となる約150点を古代エジプト人の生活・信仰・精神世界の視点から「魔術と神秘」を主題に「ヒエログリフの魔術」「素材の魔術」「色の魔術」の三つの章に構成して展示している。松濤美術館でのエジプト美術の展覧会は初めてとのこと。展示室はいつもと違った雰囲気になっている。展示の監修は、ニューヨーク・メトロポリタン美術館、ブルックリン博物館を経て現在はガンドゥール美術財団の考古美術部門長を務めているロバート・スティーヴン・ビアンキ博士。展示パネル、図録のテキストは丁寧に書かれていて、(筆者のように)古代エジプト美術になじみのない者にも、動物を模った神の姿、素材や色彩の意味がわかりやすく解説されている。展示品には多数のアミュレット(護符・お守り)が含まれている。そのサイズは小さいものでは1センチ前後、大きいものでも数センチ。図録にはその写真が大きく引き伸ばされているのだが、写真を先に見てしまうと実物がそれほど小さいものとは信じられないほど精緻に細工されている。素材は金や銀などの貴金属、貴石、あるいはファイアンス(陶器)。これらの品々が3000年から4000年前(日本では縄文から弥生時代にあたる)につくられたことを思えば、古代エジプト文明の技術力と造形力の高さに感嘆させられるばかり。2階展示室にはミイラの木棺や花崗岩や石灰岩の大きめの彫刻が展示されている。なかでも《ホルエムアケトの人型の棺》はかつてイヴ・サン=ローランのコレクションだったという興味深い来歴のものだ。レバノン杉から彫り出された棺は現在は木の地のままだが、かつてその顔は金箔で覆われていたらしい。どのようにしてサン=ローランの手に渡ったのだろうか。
 ヒエログリフ、動物神、さまざまな儀式を描いたレリーフに見られる独特のイメージは、貴金属としての価値、あるいは歴史的、骨董的価値や知識を知らなくても、ヨーロッパの人々(もちろん日本人も)を魅了してきたことは想像に難くない。本コレクションを所蔵するガンドゥール美術財団の創設者ジャン・クロード・ガンドゥール氏もまた幼少の頃からその魅力に取り憑かれ、コレクションを形成してきたという。ガンドゥール氏はオイルビジネスで財をなしたスイスの実業家で、『Forbes』誌によれば2015年には世界894位の億万長者となっている(スイスでは20位)★1。2010年に設立された財団には古代エジプト美術を含む考古美術部門の他に、戦後ヨーロッパ絵画、中世から近代までの工芸がコレクションされているという。
 東博で開催されたエジプト展(クレオパトラとエジプトの王妃展、2015/7/11~9/23)や森アーツセンターで開催されているエジプト展(国立カイロ博物館所蔵 黄金のファラオと大ピラミッド展、2015/10/16~2016/1/3)と比べると、本展はプロモーションの点でやや地味な印象があるが、先に巡回した北海道立旭川美術館では3.5万人、福井県立美術館では7万人近い入場者があったとのこと。松濤美術館展のあとは、群馬県立館林美術館に巡回する(2016/1/5~3/21)。[新川徳彦]


地下1階展示室


2階展示室

★1──Jean Claude Gandur - Forbes URL=http://www.forbes.com/profile/jean-claude-gandur/

チラシクレジット=(c) Foundation Gandur pour l'Art, Geneva, Switzerland. Photographer: Sandra Pointet 

2015/10/05(月)(SYNK)

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琳派イメージ展

会期:2015/10/09~2015/11/23

京都国立近代美術館[京都府]

今年の京都は琳派400年を記念した企画が目白押しだが、本展もそのひとつ。琳派の影響が色濃い近現代の絵画、工芸、版画、ファッション、グラフィックなど80件を紹介している。出展作家は、加山又造、田中一光、神坂雪佳、十五代樂吉左衞門、冨田渓仙、上村淳之、池田満寿夫、福田平八郎など。展覧会末尾にはマティスの作品もあったが、これはいかなる解釈だろうか。マティスは極端にしても、「この人が琳派?」と首をかしげる作品がいくつかあり、我田引水の感を抱いた次第。その一方、「自分はどれほど琳派を知っているのか」と自省することもしばしば。私淑で受け継がれてきた琳派は、そもそも曖昧な部分を持っている。しかし、それを言い訳にするのは良くないだろう。筆者にとって本展の意義は、我が身を振り返る機会を得たことだ。

2015/10/08(木)(小吹隆文)

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2015年11月01日号の
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