2018年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

2015年12月01日号のレビュー/プレビュー

琳派からの道 神坂雪佳と山本太郎の仕事

会期:2015/10/23~2015/11/29

美術館「えき」KYOTO[京都府]

明治・大正・昭和初期の京都で活躍した画家・図案家の神坂雪佳(1866~1942)と、古典絵画と現代風俗をミックスした「ニッポン画」を標榜する山本太郎(1974~)による、時空を超えた2人展。神坂は、絵画、版画、木工、漆芸、陶芸、図案など約50点、山本は、絵画、版画、陶器約40点という構成であった。両者をつなぐキーワードは、山本が神坂を「敬愛」していることと、今年で誕生から400年を迎えた「琳派」である。琳派は私淑により時代を超えて受け継がれてきた芸術様式なので、本展における2人の関係性は、まさに琳派的と言えるだろう。作風は、神坂が琳派直系の雅(みやび)さを有するのに対し、山本は諧謔(かいぎゃく)精神が持ち味。尾形光琳の《紅白梅図屏風》をモチーフにした《紅白紅白梅図屏風》や、俵屋宗達の《風神雷神図屏風》に今年30周年を迎えたゲーム「スーパーマリオブラザーズ」を掛け合わせた《マリオ&ルイージ図屏風》はその好例である。しかし、敢えて1点を挙げるとすれば、山本の《信号住の江図》(版画)を推したい。神坂の《住の江図》の版木と自分の版木を重ね摺りした本作こそ、この展覧会の意義を体現しているからだ。

公式サイト http://www.rimpa400.jp/

2015/10/22(木)(小吹隆文)

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鉄道芸術祭 vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車~alternative train~

会期:2015/10/24~2015/12/26

アートエリアB1[大阪府]

京阪電車「なにわ橋駅」のコンコース内という特異な立地で知られるアートエリアB1では、鉄道をテーマにした芸術祭を毎年企画している。5回目の今回は、写真家のホンマタカシをプロデューサーに迎え、写真、映像、立体、インスタレーションなど多彩な展示を開催中だ。出品作品は、ホンマが編集した映像(リュミエール兄弟と小津安二郎とヴィム・ベンダースへのオマージュ)、建築家のドットアーキテクツによる京阪電車車両1/1模型内でのホンマのピンホール写真と蓮沼執太の音作品の展示、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフによる抒情的な映像作品、街中でヘッドフォンやイヤホンから音漏れさせている人に近づき、漏れている音に合わせてダンスする小山友也の映像作品、電車内で居眠りしている人をテーマにしたPUGMENTのインスタレーションなど。また会期中のイベントも、貸切電車を用いたカメラオブスキュラ車両&ライブパフォーマンス&ファッションショー(12/12)、京阪光善寺駅内にホンマが設営したカメラオブスキュラを訪ねるツアー(12/4・6・26)など、凝ったプログラムが用意されている。

2015/10/23(金)(小吹隆文)

鴻池朋子 展 根源的暴力

会期:2015/10/24~2015/11/28

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

鴻池朋子の新作展。東京では2009年に東京オペラシティアートギャラリーが催した「インタートラベラー」展以来、6年ぶりとなる大規模な個展である。しかも展示されたのは、すべて東日本大震災以後に制作された新作で、新たな出発点を刻む展観だった。
「根源的暴力」と「インタートラベラー」は好対照である。後者の中軸がエンターテイメント施設のような動的な外向性にあったとすれば、前者のそれは博物館のような静的な内向性にあったように見受けられるからだ。事実、抑制された照明のもとで整然と陳列された作品の数々は、鑑賞者の視線をそれらと正面から対峙するように働きかけていた。後者の作品がある種の全体的な流動性のなかに位置づけられていたとすれば、前者のそれはそれぞれの個別性によって細かく分節されていたと言ってもいい。
むろんその視線は、「インタートラベラー」での視覚体験がそうだったように、きわめて濃厚な触覚性を帯びていた。鉛筆のドローイングがざらついた感触を醸し出しているだけではない。粘土をこねた立体作品は何かをまさぐり出そうとする鴻池自身の手の運動性を如実に物語っていたし、牛革の表面に描かれた動植物のイメージも、獣の皮膚の生々しさと相俟ったせいだろうか、まるで新たに変身した別の生物のように私たちの眼前にその姿を露わにしていた。思い返せば「インタートラベラー」では狼の毛皮によって触覚性を直接的に体感させていたから、鴻池の関心はこれまで以上に視線の触覚性に集中しているのかもしれない。
だが重要なのは、その触覚的な視線の質である。20メートルにも及ぶ《皮緞帳》は、火山や臓器、動植物など、この地球上の生きとし生けるもののイメージを凝縮させた大作だが、いくつもの牛革を縫合して支持体を形成しているせいか、それらのイメージが有機的に連結しながら全体を構成しているように見える。飛翔する鳥のイメージを見せた《着物 鳥》にしても、着物の外形を保ちながらも、背景を本物の鳥の羽で埋め尽くしているため、地と図が反転しうる自他同一の地平を垣間見たような気がしてならない。美術にかぎらず、人類の知的な営みの根底に「分ける」ことと「つなぐ」ことがあるとすれば、鴻池の手は明らかに後者をまさぐり出そうとしていたのではなかったか。
しかし、本展の重心が「接合」あるいは「縫合」に置かれていたことは事実だとしても、結果として逆説的に強調されたのは、むしろ「分節」や「断絶」であったように思う。そこに、本展の複雑かつ豊穣な魅力がある。
鴻池は言う。「もはや同じものではいられない」。この言葉が意味する広がりは大きい。全国の美術館を渡り歩きながら庶民とはかけ離れた「現代美術」を再生産するアーティストのありようが打ち棄てられているのか。あるいは、震災によって決定的な断絶を経験したにもかかわらず、その裂け目を直視することから逃避し続けている私たち自身の自己保身が撃たれているのか。いずれにせよ、この世界を構成する生命体が有機的に接合したイメージを全身で体感すればするほど、ある種の大きな切断面が心の奥底に広がるのである。「根源的暴力」とは、鴻池が言うように、美術に代表されるものづくりが自然からの収奪や自然への背馳を宿命的に抱え込んでいることを意味しているだけではない。それは、そのような決定的な断絶を容易には受け入れがたい私たちを、有無を言わさず、その裂け目に直面させるように仕向ける力のことでもあるのではないか。
その冷徹で加虐的な働きかけに耐えられない者は、視線を覆い隠して逃散するほかない。だがあらゆる危機が新たな局面を切り開く契機でもあるように、決定的な断絶は新たな運動の萌芽でもある。そのような断絶からの再生を鮮やかに示していたのが、会場の随所に展示された牛革をポンチョや着物に仕立て上げた作品である。それらの大半が空虚なマネキンに被せられていたことから、これらは本体がどこかへ脱皮した後に残された抜け殻として見ることもできよう。けれども、そもそも衣服が「第二の皮膚」であることを思い返せば、鴻池によって縫合された獣の革は、もしかしたら「第三の皮膚」ではないのか。「おまえのその身体は、果たしてこの皮膚にふさわしいのか?」。会場の随所で出会うたびに、そう問いかけられているような気がした。私たちが「もはや同じではいられない」のだとしたら、みずからの身体を第三の皮膚に収めるべく新たな身体につくりかえるのは、ほかならぬ私たち自身である。

2015/10/24(土)(福住廉)

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唐画(からえ)もん─武禅に 苑、若冲も─

会期:2015/10/31~2015/12/13

大阪歴史博物館[大阪府]

江戸中期の上方は、伊藤若冲、曽我蕭白、円山応挙など個性的な絵師を多数輩出した。しかし、彼らはいずれも京の絵師であり、大坂の絵師をクローズアップする機会はほとんど無かったのではあるまいか。本展では当時の大坂で活躍した墨江武禅(1734~1806)と林 苑(生没年不詳、1770~80年代に活躍)を取り上げ、中国絵画から大きな影響を受けた彼らに「唐画(からえ)もん」なるニックネームをつけて、売り出そうと試みている。とはいえ、2人の作風はそれぞれ異なる。武禅は光を意識した山水図や西洋絵画の写し、占景盤(石、や苔などを用いた盆景の一種)にも才を発揮し、 苑は卓越した筆さばきと大胆な構図(現代のグラフィックデザインに類似)が特徴である。本展では、2人の作品約100点を中心に、彼らの師の作品、同時代の若冲、蕭白、応挙、与謝蕪村、松本奉時らの作品もあわせて紹介された。想像以上に見応えのある展覧会であり、これを機に18世紀大坂の絵師への注目が高まれば面白い。

2015/10/30(金)(小吹隆文)

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Open Storage 2015 ─見せる収蔵庫─

会期:2015/10/31~2015/11/23

MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)[大阪府]

大阪市南部のベイエリアの工場・倉庫跡を流用したMASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)。ここは巨大な美術作品を保管・展示するスペースであり、昨年に行なわれた初の一般公開では、ヤノベケンジ、やなぎみわ、金氏徹平、久保田弘成、宇治野宗輝による作品展示、パフォーマンス等が行なわれた。2度目の公開となる今回は、上記5名に名和晃平がNHK交響楽団のコンサートのために制作した舞台セットが加わり、メインアーティストとして宇治野宗輝が新作の滞在制作を行なった。また最終日には宇治野がメンバーの一員を務める「野宮真貴&BIBA」のスペシャルライブも行なわれた。作品の価値と大きさは無関係だが、巨大な作品が一度にこれだけ集結すると感動を禁じ得ない。この分かりやすさは良い意味で大阪的だ。取材時には家族で来場した観客も少なからずおり、子供がアートに興味を持つきっかけになったかもしれない。

2015/10/31(土)(小吹隆文)

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