artscapeレビュー

2015年12月15日号のレビュー/プレビュー

中村拓志/NAP建築設計事務所《狭山湖畔霊園管理休憩棟》

[埼玉県]

竣工:2013年

西武球場前駅から狭山霊園に向かって歩く。入口で出迎える円形の《管理休憩棟》は、中村拓志が指名コンペで選ばれ、手がけたものだ。木を囲むドーナツ状のプランであり、中央から斜めに下りる屋根が、そのまま水面上の庇となって、風景の眺めを巧みにコントロールする。風を可視化する水と光のリフレクションが記憶に残る体験をもたらす。

2015/11/03(火)(五十嵐太郎)

中村拓志/NAP建築設計事務所《狭山の森 礼拝堂》

[埼玉県]

竣工:2013年

霊園に入り、さらに奥に歩くと、やはり中村による《狭山の森 礼拝堂》が見える。垂直に起立する細い三角形の開口とアルミ鋳物で覆われた曲面屋根、そしてあいだの樹木が印象的だ。内部に入ると、一転して分厚い集成材の空間が広がり、曲面の壁に沿って、ひだ状の懐に包まれる。全体としては、ゴシック的であると同時に、日本の宗教建築も想起させるだろう。

2015/11/03(火)(五十嵐太郎)

SPAC「真夏の夜の夢」

会期:2015/10/31~2015/11/03

にしすがも創造舎[東京都]

シェイクスピアの原作を野田秀樹が潤色したものを、さらに宮城聰が演出した。異なる時代とクリエイターが層をなし、過剰な台詞と飲み込む言葉に彩られたパワフルな作品に仕上がっている。録音された音ではなく、舞台の奥で生の音楽をずっと演奏していることも、作品の迫力を増す。またアフタトークにおける宮城の説明が、とてもうまいのに関心させられる。

2015/11/03(火)(五十嵐太郎)

進藤環「漂泊の地」

会期:2015/10/31~2015/11/28

ギャラリー・アートアンリミテッド[東京都]

昨年(2014年)にはギャラリー・アートアンリミテッドでの個展と東京綜合写真専門学校での公開制作、今年は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」への参加と、充実した活動を展開している進藤環。本展でも、新たな領域に挑戦しようという意欲が充分に伝わってきた。
今回の新作を見て感じるのは、彼女が用いている、自分で撮影した風景をプリントし、切り貼りしていくコラージュという手法があまり目立たなくなってきていることだ。以前の作品では、パースペクティブの歪みやイメージ相互のズレを意図的に残すことで、「ありえない風景」を作り上げていたのだが、新作では、一見普通に撮影されたように見えるものも多い。画面の細部へ細部へと視線が分裂していくよりも、どちらかといえば風景全体の統合性が強まっており、観客を包み込み、一体化するような雰囲気が強まっている。この変化は、むしろポジティブに捉えるべきだろう。
もうひとつは、特定の地域性へのこだわりである。今回展示された作品は、広島県大久野島、長崎壱岐島、愛媛県別子銅山、東京都八丈島などで撮影されている。以前はそれぞれの撮影場所の固有性は、作品の中にほとんどあらわれてこなかったのだが、今回は明らかにそのことが意識されている。それをもう少し強めていけば、それらの土地に根ざした「サーガ」としても成立していくのではないだろうか。進藤は今年から九州産業大学芸術学部写真・映像・メディア学科の専任講師となり、福岡に居を移した。そのことが、作品制作にもいい影響を及ぼしているのではないかと思う。

2015/11/04(水)(飯沢耕太郎)

三好耕三「RINGO 林檎」

会期:2015/10/27~2015/12/26

PGI[東京都]

PGI(フォト・ギャラリー・インターナショナル)は、1979年に東京・虎ノ門にオープンした。日本では1978年開業のツァイト・フォト・サロンに次ぐ、老舗のオリジナル・プリント販売ギャラリーである。1996年には別館のP.G.I.芝浦(田町)をオープン。虎ノ門のギャラリーは2000年にクローズした。その後はずっと芝浦で営業を続けてきたのだが、このたび東麻布に移転し、これまでギャラリーの略称として使われてきたPGIを正式な名称とすることになった。そのリニューアル・オープニング展として開催されたのが、これまでもPGIの看板作家の一人として数々の個展を開催してきた三好耕三の「RINGO 林檎」展である。
16×20インチという超大判カメラを使って、2012年から青森の林檎の樹を撮影したシリーズだが、いかにも三好らしい、風通しのよい作品に仕上がっていた。三好自身の説明を聞いて初めて知ったのだが、林檎の樹のごつごつと歪み、捩じれ、横に広がった樹形は、雪や風のような厳しい自然条件によってでき上がったのではなく、いかにひとつの枝に果実をたくさん実らせるかを追求した結果、人為的な剪定を繰り返してできたものなのだという。そういわれれば、林檎の樹はライフサイズの盆栽を思わせる形状をしている。その武骨な幹や枝ぶりと、つやつやとみずみずしい果実とのコントラストが、モノクロームの豊かな諧調で見事に表現されている。三好の風景写真に特有の、画面全体がゆったりと呼吸しているような感触を、充分に味わい尽くすことができた。
以前に比べてギャラリーのスペースもやや大きくなり、これから先も、若手とベテランとが噛み合った、充実した展示が期待できそうだ。

2015/11/04(水)(飯沢耕太郎)

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