2024年03月01日号
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artscapeレビュー

2016年02月15日号のレビュー/プレビュー

阿部淳『1981』(上・下)

発行所:VACUUME PRESS

発行日:2015/12/31

阿部淳、野口靖子、山田省吾が共同運営する大阪の出版社、VACUUME PRESSから刊行されてきた阿部淳の写真集も、これで8冊目と9冊目になる。今回は阿部が大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校・大阪)を卒業した年である1981年に撮影した写真群を、2冊組の写真集にまとめて刊行した。
阿部は専門学校在学中から現在に至る路上のスナップ写真を撮影し続けているのだが、そのあり方がこの時期からほとんど変わっていないことを、あらためて確認できた。被写体になっているのは大阪の街の雑然としたたたずまいと、そこを行き交う人物たち、そこここに溢れ出し、増殖するモノの群れなのだが、阿部が鋭敏に反応しているのは、むしろそれらのあいだに漂う不穏な気配なのではないかと思う。建物やヒト(ゴーストのようだ)やモノは、固定した意味づけから遊離して、何か訳のわからない異物と化し、光と闇のあわいを漂いはじめる。川田喜久治の路上の写真にも同じような感触があるが、阿部のほうがより重力を脱した浮遊性が強いのではないかと思う。
阿部はこのところ、『2001』(2013)、『プサン』(2014)と、過去に撮影した写真群を再プリントして写真集として刊行し続けている。撮影時から時間を経て、写真を見る目が変化し、あらためて新たな気づきがあるという意味で面白い試みだと思う。ただ、そろそろ新作が出てきてもいい時期ではないだろうか。旧作と新作を対比させて提示するというのも面白いかもしれない。

2016/01/26(火)(飯沢耕太郎)

奥山由之「BACON ICE CREAM」

会期:2016/01/22~2016/02/07

パルコミュージアム[東京都]

奥山由之は1991年東京生まれ。2011年の第34回写真新世紀で優秀賞を受賞し、広告、ファッションの分野で最も若い世代の写真家の一人として注目を集めつつある。今回のパルコミュージアムでの個展「BACON ICE CREAM」は、本格的なデビュー写真展であり、展覧会にあわせて同名の写真集(PARCO出版)も刊行された。
「この世界の色、かたち、光ぜんぶ。」を、軽やかに採集し、まき散らしていく写真群にはまったく迷いがなく、ポジティブなエネルギーが溢れ出ている。途中に冷蔵庫の扉を設置して、そこから次のパートに進んでいく会場インスタレーションや、写真のプリントを何枚か重ねあわせてクリップ止めした展示のアイディアなども、なかなか気が利いている。彼が業界で重宝がられる理由もよくわかる気がした。
ただ、写真そのものにはどこか既視感がつきまとう。あえて銀塩カラー写真の柔らかみのある手触り感を強調していることもあって、デジタル世代の割にはノスタルジックな雰囲気が漂っている。ストップモーションで被写体を止める手法や、ハレーションの表現が、どこかHIROMIXを思わせるところがあると思ったら、なんとHIROMIX本人が写真新世紀で優秀賞に選んでいた。1990年代にHIROMIXや蜷川実花が打ち出していった、現実世界との親和性、幸福感を基調とする写真表現が、意外なかたちでより若い世代に受け継がれているということだろうか。才能の輝きは疑い得ないので、次はさらなる大胆なチャレンジを期待したいものだ。

2016/01/26(火)(飯沢耕太郎)

レオナルド・ダ・ヴィンチ──天才の挑戦

会期:2016/01/16~2016/04/10

江戸東京博物館[東京都]

タブローが1点でもあればその人の名を冠した展覧会が成立するのは、フェルメールとレオナルド・ダ・ヴィンチくらい。それだけ寡作で貴重で、しかも人気が高いということだ。いま六本木で開かれてる「フェルメールとレンブラント」展でもフェルメールは1点のみ。レオナルドの展覧会でも、2007年には《受胎告知》、2012年には《ほつれ髪の女》、2015年には《アンギアーリの戦い》といったように、それぞれ1点ずつで成り立ってきた。で、今回は《糸巻きの聖母》。レオナルドのなかでもマイナーな、真筆にしてもかなり加筆修正が加えられているとしか思えない作品だ。空気感としては《聖アンナと聖母子》に近いが、前景の聖母子と背景の描写が合っておらず、まるで切り貼りしたような印象を与える。この《糸巻きの聖母》も含めて、同展にはレオナルドの《岩窟の聖母》や《洗礼者聖ヨハネ》などのコピーも多数出ているので、ちょっとした「偽レオナルド展」としても楽しめる。これだけコピーをつくられた画家も少ないのではないか。偉大な芸術家の証だろう。ちなみにレオナルドの手稿もいくつか出ているが、一部はファクシミリ版(コピー)なのに気づかない人が多い。

2016/01/29(金)(村田真)

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大久保如彌──THIS IS NOT MY LIFE

会期:2016/01/16~2016/02/13

ギャラリーMoMo両国[東京都]

ギャラリーは手前と奥のふたつの空間に分かれていて、手前には大きめの室内風景画が3点ほど展示されている。さらりとしたタッチのいまどきの絵だ。奥の空間には壁に小さめの自作の絵が20点ほど掛けられてるほか、床には絨毯が敷かれ、テーブルや椅子、鏡、観葉植物などが配置され、リビングルームのように仕立てられている。そこに掛けられた絵も色彩感覚がよく、ファッショナブルだ。さてもういちど手前に戻ると、3点の室内風景画が奥の部屋を三つの角度から描いたものであることに気づく。これはよくできている。おそらく数カ月前にいちど奥の部屋をしつらえてスケッチするか写真に撮り、手前の3点の絵に仕上げたのだろう。しかもよく見ると、1点は鏡に映したように左右逆転している。また奥の部屋には絵が飾られているため、手前の室内画には画中画が描かれることになるが、その画中画の額縁の影が薄紫色に塗られているだけでなく、その絵の実際の影の部分にも薄紫色のスプレーが壁に直接吹きつけられていたりする。虚像と実像が入り交じった魅力的な絵画インスタレーション。今年見た展覧会のなかでベスト1だ。まだ1カ月もたってないけど。

2016/01/29(金)(村田真)

インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンス・カンパニー「DUST─ダスト」

会期:2016/01/28~2016/01/31

彩の国さいたま芸術劇場[埼玉県]

涙を流す目と洪水のイメージのアニメーションから始まり、明るくなると、机が並ぶ教室のような舞台が出現する。そして奥に外界への扉がひとつ。集団で連鎖しながら、流れるような踊りが繰り広げられ、クラシックの大音響が侵入する。終わりと始まりのアレゴリーを感じさせるダンスだった。

2016/01/29(金)(五十嵐太郎)

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