2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

2016年02月15日号のレビュー/プレビュー

《マーシャルフィールドビル》《カーソンピリースコット百貨店》

[アメリカ、シカゴ]

三度目のシカゴだが、まずは昔のこの街らしさを最も感じるループエリアを歩く。初めて訪れたのは、もう20年以上前だが、ほとんど変わっていない。店子は変化しても、建築は同一性を維持している。せっかくの資産を自ら壊し、オウンゴールを続ける横浜と違い、近代建築の発祥の地を本当によく残している。特にダニエル・バーナムによる《マーシャルフィールドビル》を見てから、ルイス・サリヴァンが設計した《カーソンピリースコット百貨店》に入ると興味深い。前者は古典主義の意匠を採用しているが、近代的な構造のデパートのために、空間の縦横比が違い、西欧の古建築に見慣れていると、プロポーションのおかしさが気になってしまう。一方、後者は中世的な新意匠を開発し、比例の奇妙さをうまく回避している。

写真:上段=《マーシャルフィールドビル》、下段=《カーソンピリースコット百貨店》

2015/12/27(日)(五十嵐太郎)

シカゴ美術館 本館、モダン・ウィング

[アメリカ、シカゴ]

1893年の万博時にオープンした建築を使う、シカゴ美術館へ。いったん中央の細い展示エリアを介して、奥に新棟が続くが、ここはなんと線路の上を横断している。増築されたのは、レンゾ・ピアノによるモダン・ウィングだ。洗練されたワンパターンのデザインだが、ミレニアムパークへの見通しが抜群の、気持ちのよい展示空間である。ただし、湖への眺めはない。ここはヨーロッパの近代、古美術、家具、アジアのコレクションも充実しているが、やはりアメリカが強い。シェーカー教の家具特集展示のほか、サイ・トゥオンブリーの彫刻、ジャスパー・ジョーンズの懸垂線シリーズなどである。またジョセフ・コーネルによる箱や額の作品をこれだけまとめて揃えた常設はあまり見た記憶がない。

写真:左上=シカゴ美術館、右上=シェーカー教の家具、下段=レンゾ・ピアノ《モダン・ウィング》

2015/12/27(日)(五十嵐太郎)

「Making Place: The Architecture of David Adjaye」ほか

会期:2015/09/19~2016/01/03

シカゴ美術館[アメリカ、シカゴ]

建築の展示エリアでは、1/1インスタレーション込みで、2フロアを使う気合いの入ったデイヴィッド・アジャイ展を開催していた。生活空間=住居系/公共施設に分けながら、世界各地で進行中のプロジェクトも含めて紹介している。鋭角を使う造形、入れ子的構造、装飾的なスキンを組み合わせる彼は、間違いなく、次世代のトップアーキテクトになるだろう。デザインのエリアでは、ニューヨーク世界博、大阪万博、マン・トランスフォーム展、メンフィス、マッシヴ・チェンジ展など、デザイン史に残る展覧会を紹介していた。また美術館内にアドラー+サリヴァンの株式取引所のインテリアを再現するほか、1909年のバーナムらによるシカゴ計画のドローイング、シカゴの近代建築から採集された断片のコレクションなどもある。日本美術のエリアでは、安藤忠雄がインテリアを設計した展示室を楽しめる。16本の柱を立てた暗い空間だ。これがアメリカにおける最初の安藤作品らしい。アフリカのエリアでは、個展を開催中のデイヴィッド・アジャイがセレクションしたマークを付けて、彼の解説を付す。巨大美術館ならではのコラボレーション企画である。

画像:左=上から、「Making Place: The Architecture of David Adjaye」、同上、デザインのエリア、安藤忠雄によるインテリア 右=上から「Making Place: The Architecture of David Adjaye」、同上、アドラー/サリヴァン「株式取引所」、シカゴの近代建築から採集された断片のコレクション

2015/12/27(日)(五十嵐太郎)

《モナドノックビル》ほか

[アメリカ、シカゴ]

竣工:1893年

激しい風と雨と雹が吹きすさぶなかで街歩きを敢行する。こうした天候だからこそ、シカゴの建築には、厳しさを和らげる軒下を歩ける場所が多いことに気づき、空間的な工夫のありがたさを実感する。ミースの《連邦政府センター》は、複数の建築群がもたらす都市空間が見事なアンサンブルになっているが、さらに広場に設置されたカルダーの赤いパブリック・アートが絶妙のバランスで参加している。これは成功例と言えるだろう。《連邦政府センター》に隣接して、RC造なのにミースと調和させようと色まで合わせた90年代建築もあるが、これは微妙だった。シカゴの街では、赤ミースほか、ミースもどきをいっぱい目撃できる。バーナムの《モナドノックビル》は、技術の発展期ゆえに、南北で構造が違う。ここの一階に入っているお店が年季を帯び、しかもこだわりのあるものばかりで感心させられる。

写真:上から、カルダーのパブリックアート《フラミンゴ》、ミース《連邦政府センター》、ミース《郵便局》、バーナム《モナドック・ビル》

2015/12/28(月)(五十嵐太郎)

シカゴ・ビエンナーレ国際建築展

会期:2015/10/01~2016/01/03

シカゴ文化センターほか[アメリカ、シカゴ]

2015年から始まった第一回シカゴ・ビエンナーレ国際建築展が、今回のシカゴ訪問の目的である。以前この企画の学芸員が、あいちトリエンナーレ2013の視察に来ており、シカゴで建築ビエンナーレを準備中と述べていたが、無事、実現したわけだ。まずはメイン会場のシカゴ文化センター(1897)へ。世界の若手建築家が参加し、1/1のインスタレーション(VO TRONG NGHIA、MOS、ALBORIほか)、家具(RAAAF、KÉRÉ ARCHITECTURE、PEDRO&JUANAほか)、模型、ドローイング、イワン・バーンの写真、シカゴ改造計画(PLAN Bほか)、リサーチ、サラセノのアートなど、さまざまな表現が展開する。印象に残ったのは、パキスタンのベアフット・アーキテクチャーによる震災後のシェルター住居や、ラカトン&ヴァッサルによる集合住宅リノベーションなど、社会性の強いプロジェクトだった。日本からは、アトリエ・ワンによるポップ・ピラネージ的なインスタレーション、藤本壮介の「これも建築だ!」の模型群、石上純也によるKAITのプロジェクト、大西麻貴+百田有希による《Children's Town》が出品されていた。

写真:左=上から、シカゴ文化センター、PEDRO&JUANA、イワン・バーン、MOS 右=上から、ベアフット・アーキテクチャー、アトリエ・ワン、藤本壮介、大西麻貴+百田有希

2015/12/28(月)(五十嵐太郎)

2016年02月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ