2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2016年03月15日号のレビュー/プレビュー

遠藤美香 展

会期:2016/02/15~2016/02/20

ギャラリーなつか[東京都]

このあと見に行く「FACE 2016」展でグランプリを獲った遠藤美香の個展。最初に彼女の作品を見たのはいつ、どこでだったか忘れたけれど、たしか室内風景を描いた版画で、畳の目の一つひとつまで彫り込んでるのを見てうれしくなったものだ。いるんだよ森を描くのに木の葉の1枚1枚まで描こうとしたり、群衆を描くのに一人ひとりの髪の毛の1本1本まで描き倒そうとする人。越後妻有の廃屋の全面に彫刻刀を入れた《脱皮する家》も同じビョーキかもしれない。今回の展示では、寝そべって新聞を読んでる人を描いた絵の新聞紙の文字の処理の仕方に感心した。さすがに何万字もの文字を一つひとつ再現しないし、かといってただ線で表わすような横着もしない。なんとなく文字のように見えるけど文字じゃないという、そのギリギリの選択がアッパレ。

2016/02/19(金)(村田真)

FACE 2016 損保ジャパン日本興亜美術賞展

会期:2016/02/20~2016/03/27

損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]

公募コンクールの4回目。近年VOCAとかシェルとか企業主催の絵画コンクールが乱立してるけど、いずれもかつてのような日本画・洋画・版画とか具象・抽象といったジャンル分けをせず、絵画表現ならなんでもあり、ときに写真やCGもOKで、しかも審査員がダブることもあるため(本江邦夫氏なんかすべてに絡んでいる)、結果的にどこも同じ作家、似たような傾向の作品が入選・受賞し、どの展覧会もドングリの背比べになってしまう。これではいくらコンクールが増えても、いや増えれば増えるほど同調圧力が働いて表現の多様性が失われてしまいかねない。恐ろしいことだ。といっておこう。さて、審査員や損保ジャパンの学芸課長によれば今年はレベルが低かったようだが、去年初めて見たぼくには今年の入選作のほうが粒よりだった気がする。まず、受賞作品が並ぶ最初の部屋。グランプリは遠藤美香で、モノクロームの木版画が受賞するのは珍しい。画面を草花(水仙)で埋め尽くし、中央やや上にお尻を押さえた後ろ姿の女性を配した図柄。野グソかと思ったが、まさかね。驚くのは画面全体を覆う水仙の葉や花を1枚1枚ていねいに描き尽くしていること。さっきも書いたけど、こういうのを見るとうれしくなる。よくぞグランプリに選んだものだ。受賞者ではあと、小さな円を鎖のように縦につないでレース編みのように描いた松田麗香にも注目したい。画材が日本画のせいかやや工芸的で脆弱な印象はあるけれど、なにか次元の異なる絵画に発展する可能性もあるような気がする。入選者では、抽象化した植物パターンで画面を埋めた浜口麻里奈、横たえた画集を真上から描いた大河原基ら、気になる作家が何人かいたけれど、ひとりだけ挙げるなら、1本の電信柱を濁った色彩と大胆な筆触で描いた井上真友子だ。一見ありがちな絵画だが、この不穏な空気はだれにも真似できないし、だれも真似しようとは思わないだろう。今月ふたりめの村田真賞だ。

2016/02/19(金)(村田真)

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劇的舞踊「カルメン」再演

会期:2016/02/19~2016/02/21

KAAT神奈川芸術劇場[神奈川県]

ビゼーの音楽を再構成しつつ、四つん這いや五本指の足をフル活用する身体の動きによって、古典的なバレエを解体しながら、奔放なジプシーの情熱を表現する。今回は言葉の語り手として、学者の役も一応登場するが、ダンスだけでも十分に人間の複雑な関係が表現されているのに感心させられる。壁設計に田根剛の名前を見つけた。次の作品でも共同するようだ。

2016/02/21(日)(五十嵐太郎)

田附勝『魚人』

発行所:T&M Project

発行日:2015年11月11日

田附勝は2006年頃からデビュー作の『DECOTORA』(リトルモア、2007)や、第37回木村伊兵衛写真賞を受賞した『東北』(同、2011)などの撮影で、東北地方に足を運びはじめる。『その血はまだ赤いのか』(SLANT、2012)や『KURAGARI』(SUPER BOOKS、2013)では、鹿狩りをテーマに撮影を続けた。その田附の東北地方への強い思いが形をとったのが、今回写真集として刊行された『魚人』のシリーズである。「八戸ポータルミュージアムはっち」が主催する「はっち魚ラボ」プロジェクトの一環として、2014年度から約1年かけて八戸市大久喜地区や白浜地区などの沿岸部で撮影された。
写真集は、6×9判の中判カメラでじっくりと腰を据えて撮影された写真群と、35ミリカメラによる軽やかなスナップの2部構成になっている。漁師たちの暮らしの細部を、舐めるような視線で浮かび上がらせた6×9判のパートがむろんメインなのだが、フィールド・ノートの趣のある35ミリ判の写真を、コラージュ的にレイアウトした小冊子もなかなかいい。むしろこちらのほうに、皮膚感覚や身体感覚をバネにして被写体に迫っていく田附の写真のスタイルがよくあらわれているようにも思える。
撮影中に、東日本大震災後の津波で大久喜地区から流された神社の鳥居の一部(笠木)が、アメリカオレゴン州の海岸に流れ着き、ポートランドで保管されているというニュースが飛び込んできた。田附は早速ポートランドに飛び、ガレージに保管されていた笠木を撮影するとともに、当地の漁師たちの話も聞いた。それらの写真が、写真集の後半部におさめられている。そこから「海に対する仕事の姿勢は日本もアメリカも変わらないこと」、つまり「魚人」たちの基本的なライフスタイルの共通性が、見事に浮かび上がってきた。
なお、この『魚人』は赤々舎から独立した松本知己が新たに立ち上げたT&M Projectの最初の出版物として刊行された。丁寧なデザイン・造本の、意欲あふれる写真集になったと思う(デザイナーは鈴木聖)。またひとつ、期待していい写真集の出版社が名乗りを上げたということだろう。

2016/02/22(月)(飯沢耕太郎)

恩地孝四郎 展

会期:2016/01/13~2016/02/28

東京国立近代美術館[東京都]

昨年、同人誌「月映」を軸にした展覧会が開催されていたので、いいタイミングでの回顧展かもしれない。画のプロポーションが絵に介入するグラフィックデザイン的な版画から抒情的・抽象表現へ。音楽に触発されたシリーズなども紹介する。敗戦後に彼の作品は海外でも購入されるようになったが、今回はそれらも一堂に集めていることは、大きな成果だろう。

2016/02/22(月)(五十嵐太郎)

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