artscapeレビュー

2016年03月15日号のレビュー/プレビュー

村上隆のスーパーフラット・コレクション

会期:2016/01/30~2016/04/03

横浜美術館[神奈川県]

これは驚き。個人はもちろん、美術館でもこれほどのコレクションを有するところはあまりないんじゃないか。まずエントランスの奥に置かれたキーファーの3点セットに度肝を抜かれ、李禹煥がわざわざ床に描いた絵画に唖然とさせられる。どんだけ金使ってんだ!? 階段を上ると、長さ10メートルほどもありそうなジャン・ホァンの毛皮の巨大彫刻や、ウォルフガンク・ライプの米のインスタレーションが鎮座。2階の展示室は蕭白の水墨画や縄文土器をはじめとする陶器類、家具や雑巾などの骨董品、白隠、仙厓らの書といったように古美術に占められている。小便するヌードモデル彫刻をデッサンするというデイヴィッド・シュリグリーのインスタレーションを経て、後半はホルスト・ヤンセン、ウォーホル、シュナーベル、大竹伸朗、中村一美といった村上が影響を受けたアーティストや、奈良美智、ダミアン・ハーストといった同世代のライバルの作品が並び、さらに進むとぼくの知らない若手作家の作品も大量に買い込んでいることがわかる。最後のパートは常設展示室まではみ出し、出口では福島第一原発の「指差し作業員」がこちらに向かって指を差してくる。このあと同館のコレクション展を見たら「熱」の違いに寒々とした気分に陥ってしまった。出品点数約1,100点、コレクション全体で5千点以上あるというが、その大半はおそらくここ10-15年で集めたものだろう。ならせば1日1点ずつ増やしていった計算だ。1点平均100万円としても50億円! これじゃあ美術館はかなわないよ。ところで、同展にはカタログもなければ作品解説も出品目録もない。村上の意向なのか美術館の都合なのかは知らないけれど、カタログがないのはともかく、出品目録がないのは残念というより不親切じゃないか?

2016/02/01(月)(村田真)

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NODA・MAP第20回公演「逆鱗」

会期:2016/01/29~2016/03/13

東京藝術劇場プレイハウス[東京都]

松たか子、瑛太らのキャスティングで華々しいが、前半はコミカルかつシュール、そして言葉遊びによる人魚と水族館の話で謎めいており、物語の流れがよく見えない。人魚が生成する解釈もとても奇妙である。だが、後半はベタに1945年の太平洋戦争の世界に転換する。人魚とは「人*魚*」だったのかと膝を打つ。ここで前半の寓意的な伏線が一気に氷解し、悲壮だが、美しい水底の終焉へとなだれ込む。

2016/02/02(火)(五十嵐太郎)

第10回 shiseido art egg「川久保ジョイ展〈インスタレーション〉」

会期:2016/02/03~2016/02/26

資生堂ギャラリー[東京都]

資生堂ギャラリーへ。川久保ジョイ展は、やはり放射線を感知したフィルムの作品が紹介されていたが、個人的に興味をもったのは、壁の白い塗装をはがしてコンクリート面を露出させる試みのほうである。1階のウィンドウでは、中村竜治によるディスプレイ作品の「風景」が設置されていた。厚さ9ミリの針葉樹合板を積層させて、それが自然に導くジグザグの形状をつくるという小さな建築である。また資生堂銀座ビルでは、花椿のロゴのデザインの変遷を紹介する「百花椿図」展が開催されていた。

写真:左上=川久保ジョイ展、左下・右=中村竜治「風景」

2016/02/03(水)(五十嵐太郎)

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試写『もしも建物が話せたら』

この奇妙なタイトルの映画は、ヴィム・ヴェンダース監督が総指揮をとり、ヴェンダースを含め6人の監督に建物を主役にした映画を撮ってもらったオムニバス・ドキュメンタリー。ヴェンダースはベルリンのフィルハーモニー、ミハエル・グラウガーはサンクトペテルブルクのロシア国立図書館、マイケル・マドセンはノルウェイのハルデン刑務所、ロバート・レッドフォードはサンディエゴのソーク研究所、マルグレート・オリンはオスロのオペラハウス、カリム・アイノズはパリのポンピドゥー・センターを選択。基本的にそれぞれの建物がみずからについて独白するという趣向だ。どの映像も、というよりどの建築も興味深いが、とくにルイス・カーン設計のソーク研究所は四角い箱を並べた無機的なモダニズム建築に見えるのに、ここで働いた人はだれも辞めたがらないという。なにがそんなに惹きつけるのか、その空間的魅力が画面から十分に伝わってこないけれど、行ってみたいと思わせる映像ではある。逆に18世紀末に建てられたロシア国立図書館は、いかにもヨーロッパの歴史的図書館の趣を残した建築だけど、建築そのものよりおびただしい量の本が織りなす特有のアウラに圧倒される。「薔薇の名前」がそうだったように、図書館を主役にした映画はもうそれだけで引き込まれてしまう。ひとり30分足らずの短編集だが、6本あるので3時間近くになり、ちょっとツライ。単に長いというだけでなく、建物が動かない分カメラが移動するため、見るほうも動いた気分になって疲れるのかもしれない。


映画『もしも建物が話せたら』予告編

2016/02/04(木)(村田真)

梁丞佑「新宿迷子」

会期:2016/01/15~2016/02/10

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

梁丞佑(ヤン・スンウー)は韓国出身の写真家。1996年に来日し、2006年に東京工芸大学大学院芸術学研究科を修了した。同大学在学中から、被写体に寄り添うように撮影するプライヴェート・ドキュメンタリー作品を発表して「写真新世紀」等のコンペに入賞し、注目を集めるようになる。2012年のZEN FOTO GALLERYでの個展「青春吉日」(同名の写真集も刊行)は、韓国のアウトローたちを記録したシリーズで、体を張った彼らの生き方への、切ないほどの共感が伝わってくる佳作だった。
今回展示された「新宿迷子」は、1998~2006年に新宿歌舞伎町界隈で撮影されたスナップ写真を集成したもので、「青春吉日」の続編にあたる。ヤクザ、警察官、ホームレスなど、いつもながら「よくここまで撮れるものだ」と感じてしまう過激な写真が並ぶが、その中に路上で遊んだり、寝ころんだりしている子供たちの姿が目についた。親が歌舞伎町で働いているので、その帰りを待ちながらたむろしているのだという。とはいえ、彼らに全面的に感情移入するのではなく、リスペクトしつつも、むしろ突き放すような撮り方をしているのがいかにも梁らしい。
これらの写真に撮影された、血を騒がせるような光景は、東京オリンピックに向けた「浄化作戦」で、表面的には消えてしまっている。だが逆に、どこかに奥深く潜伏しているのではないかとも思う。撮りにくくなっているとは思うが、ぜひ新宿で撮影を続けていってほしいものだ。

2016/02/05(金)(飯沢耕太郎)

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