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2016年05月15日号のレビュー/プレビュー

─歿後20年─青山義雄展

会期:2016/04/03~2016/06/05

茅ヶ崎市美術館[神奈川県]

「この男は色彩を持っている」とマティスが認めた日本人画家、だそうだが、たまたま画廊でこの日本人画家の絵を見て感想を述べただけで、マティス本人も覚えてないんじゃないか。青山義雄は戦前に滞仏し(マティスに「認められた」のはこのとき)、戦後も精力的に地中海周辺に出かけ、102歳の天寿を全うした画家。たしかに美しい色彩の絵もあるけど、すでにマティスやボナールがいるからねえ。しかも戦前の絵は10点ほどしかなく、残る60点は戦後の作品。特に80年代以降(85歳くらいから)が半数を占める。べつに年寄りの作品が悪いとは思わないが、年老いたら昔と同じように描けるわけがない。個人的にはもっと色彩も形態も破綻してグダグダになった絵も見たかった。

2016/04/10(日)(村田真)

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南京大虐殺紀念館

[中国、南京]

南京大虐殺紀念館を見学した。人骨の発掘現場を囲む第1期は、ランドスケープ的な空間で物静かである。現在、その両サイドに第2期の拡張エリアが継ぎ足されており、導入部はリベスキンド風の鋭角的なデザインによる地下の空間において大量の資料を展示する。悲劇からその克服という流れは、四川大地震の記念館の構成とも似ている。さらに、細い柱が林立する第3期の増築エリアを建設中だった。ここも入場無料であり、多くの中国人観光客が集まって、ひっきりなしに人の波が続いていた。動員+メモリアルが融合した場である。

2016/04/10(日)(五十嵐太郎)

南京

[中国、南京]

都市をまわると、昔の城壁がよく残っており、さすがに歴史のある古都だと感じさせる。また、近代における国民政府の時代をしのばせる建築や太平天国ゆかりの場所も少なくない。昼は市内の巨大再開発によるショッピングモールにおいて、人気の美味しい地元料理を味わう。ここは地上部分に古い映画館の外装のみ保存されていた。その後、中山陵に向かい、大階段をひたすら登る。南京駅と同様、巨大なスケールに中国らしさを感じる。

写真:左上4枚=城壁、左下=《総統府》 右上=ショッピングモール、右中2枚=《中山陵》、右下2枚=《南京南駅》

2016/04/10(日)(五十嵐太郎)

《南京博物院》

南京博物院[中国、南京]

学芸員に《南京博物院》を案内していただく。コンペを行なったものの、審査側の梁思成が設計に深く関与し、遼の時代様式を採用したという。なるほど、梁が両サイドで上に曲がっていく、独特のカーブだ。その後、周辺環境の変化に合わせ、建物の高さを上げている。さすがに歴史の展示が充実していた。また地下にデジタル・コーナーや中華民国ノスタルジーを演出するテーマパーク的なエリアも新設し、昔の町並みが再現されている。夕方、大砲など兵器の歴史が陳列された見晴らしのいい城壁の上を歩く。最後に東南大学を訪問し、ここで3.11以降の日本建築の動向についてレクチャーと質疑応答を行なう。

写真:左、右上=《南京博物院》 右下=《東南大学》

2016/04/10(日)(五十嵐太郎)

樫永創展

会期:2016/04/11~2016/04/16

O ギャラリー eyes[大阪府]

以前は群青などの暗色が支配するモノトーンの画面が特徴だった樫永。それは自身の内面の淵へ至ろうとする意志の表われだった。しかし、昨年の個展から色遣いに明暗が見られるようになり、マスキングテープを用いた空間分割も導入。本展の新作では色数が大幅に増加し、ストロークや飛沫が明瞭になったことで、画面が一気にエモーショナルになった。一方、マスキングテープによる空間分割はさらに複雑化し、感情を制御する役目を果たしている。いわば本能と理性が画面上でせめぎ合っている状態であり、この微妙な均衡から生じるスリルこそ、新作の核心といえるだろう。樫永創の画業は新たな段階に入った。

2016/04/11(月)(小吹隆文)

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