artscapeレビュー

2016年06月01日号のレビュー/プレビュー

Gallerst's Eye ♯2 藤崎了一「Vector of Energy」

会期:2016/04/16~2016/05/29

the three konohana[大阪府]

藤崎了一については、本人と面識はあったものの、作品は知らなかった。と言うのも、彼は一昨年まで京都の複合型スタジオ「SANDWICH」のテクニカル・ディレクターとして、美術家・名和晃平の作品制作に携わっていたからだ。関西初個展となる本展では、主展示室で、立体、写真、パフォーマンスの記録映像とその残骸が展示され、奥の和室では映像作品(約18分)が披露された。それらのなかでとりわけ印象深かったのは映像作品だ。液体に絵具を垂らしてさまざまな複雑な模様が広がっていく様子を捉えたものだが、その神秘的なありさまと色彩美にすっかりやられてしまった。藤崎の活動は、これまでのところ東京が中心だが、地元関西での発表も増やしてもらえればありがたい。

2016/04/24(日)(小吹隆文)

近代大阪職人図鑑 ものづくりのものがたり

会期:2016/04/29~2016/06/20

大阪歴史博物館[大阪府]

さまざまな色を発する金属の組み合わせと彫金技術で、花や虫を生き生きと表現した村上盛之、一般的に金属でつくられる自在置物(関節が自在に動く動物や昆虫などの置物)を木でつくった穐山竹林斎、刀工の月山貞一、漆芸の三好木屑(弥次兵衛)、木彫の山本杏園など、明治維新後の大阪で活躍した職人(アルチザン)たちを、約170件の作品で紹介した展覧会。彼らは優れた技量を持つ職人だったが、活動拠点が東京や京都ではなかったために資料が少なく、埋もれた存在になっていた。そんな“栄光なき天才たち”に再評価の機会を与えたのが本展である。大阪歴史博物館が開館して15年、前身の大阪市立博物館から数えると55年、学芸員たちが地道に積み上げてきた研究成果が花開いた瞬間であり、10年後、20年後も伝説の展覧会として語り継がれるのではなかろうか。素晴らしいものを見せてもらった。

2016/04/28(木)(小吹隆文)

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没後100年 宮川香山

会期:2016/04/29~2016/07/31

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]


明治の陶芸家・宮川香山(1842~1916)といえば、「蟹」(重要文化財《褐釉高浮彫蟹花瓶》)を初めて見た時を思い出す。その異形ぶり、えげつないまでのテクニック。とても人間技とは思えない超絶技巧の仕事を前に、唖然としたまま固まってしまったのだ。本展では、彼の代名詞である高浮彫の作品はもちろん、作風を一転した後期の作品(釉下彩)まで、代表作が網羅されている。高浮彫のスペクタクルな過剰装飾は凄いの一言だが、釉下彩のエレガントなたたずまいも捨てがたい。欧米人が熱狂的に支持したのもわかるし、後のアール・ヌーヴォーに影響を与えたのも頷ける。それにしても、香山を含む明治の工芸家の超絶テクは一体どういうことだろう。彼らは明治時代に活躍したが、そのベースに江戸時代があることを忘れてはいけない。いまさらながら江戸時代の日本文化がどれだけハイレベルだったのかと思い知らされる。本展を鑑賞する際、香山一人ではなく文化的背景にまで思いを巡らせるのが正解だと思う。

2016/04/28(木)(小吹隆文)

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“人間の記憶” 須田一政写真展

会期:2016/04/20~2016/05/08

gallery Main[京都府]

須田一政が1997年に「第16回土門拳賞」を受賞した作品群《人間の記憶》。同作は彼が本格的に写真を始めてから1993年までのモノクロ作品から選びだしたものであり、一作家の写真史とも言える。本展では、須田が1997年にニコンサロンで行なった個展で発表したオリジナルプリントを、約20年の時を経て再展示した。しかも、作品の配置も可能な限り当時の個展を再現したとのこと。作品数は50点以上。当時を知る者はもちろん、初めて同作を見る若い写真ファンにとっても貴重な機会であった。昔の個展を再現する手法自体が魅力的で、今後同様の企画が広まれば写真史の再発掘に資するだろう。なお、本展の画廊主(写真家と兼業)は当時の個展を見ており、自分が写真家を志すきっかけになったという。関係各位の写真愛が垣間見えるという点でも、本展は感動的な企画であった。

2016/04/29(金)(小吹隆文)

森村泰昌アナザーミュージアム(NAMURA ART MEETING '04-'34 Vol.05「臨界の芸術論Ⅱ─10年の趣意書」より)

会期:2016/04/02~04/04、05/03~05/05、06/10~06/12

名村造船所跡地[大阪府]

国立国際美術館の「森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき」展と連動した本展では、森村の作品に使用された舞台セットや背景画、小道具などが展示され、映像作品《「私」と「わたし」が出会うとき─自画像のシンポシオン─》のメイキングシーンを収めたドキュメント映像も上映されている。日頃は立ち会うことができない制作現場を覗けるのは、美術ファンにとって大きな喜びだ。舞台セットや小道具を生で見ることにより、森村の作品が多くのスタッフを擁するプロジェクトであることが実感できた。また、美術史に侵入する森村の作品世界に、さらに自分が侵入することで、もともと複雑な構造を持つ作品世界にさらなるひと捻りが加わるのも面白かった。本展は4月から6月まで開催されているが、各月とも3日間しかオープンしない。筆者は4月に行きそびれて、1カ月待たされたが、出かけた甲斐があった。幸い会期がまだ残っているので(6月10日~12日)、国立国際美術館の森村展を見た人は、こちらも併せて鑑賞するようおすすめする。

2016/05/05(木)(小吹隆文)

2016年06月01日号の
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