artscapeレビュー

2016年07月15日号のレビュー/プレビュー

富士ゼロックス版画コレクション×横浜美術館 複製技術と美術家たち─ピカソからウォーホルまで

会期:2016/04/23~2016/06/05

横浜美術館[神奈川県]

6月5日(日)
富士ゼロックスの版画コレクションに、横浜美術館の写真コレクションなどを加えた「複製芸術」の展示。なぜ富士ゼロックスかというと、横浜美術館と同じ、みなとみらい地区に本社があるから。しかもコピー機の会社だからコレクションは版画。主催者からすれば近い、軽い、安い、の3拍子そろってるので、こりゃ便利。でも見る側からすれば、タイトルにある「複製技術」と聞いただけで行く気が萎える。同じ作品が複数あるので、アウラ(平たくいえば、ありがたみ)が薄く感じられるからだ。それが最終日まで行くのをためらった言い訳だ。で行ってきました。ピカソ、マティス、デュシャン、斎藤義重、リキテンスタイン、荒川修作、ドナルド・ジャッドなどがあり、最後はウォーホルのポラロイドによる9点組の肖像シリーズで、そのうちの1枚は亡くなったばかりのモハメド・アリだった。懐かしかったのは、ゼロックスコピーを使った高松次郎の《日本語の文字(この七つの文字)》と《英語の単語(These Three Words)》という作品。最初にこれを見たとき(もう40年以上前だが)、めまいがするほど感動した。あの感動はいまどこに?

2016/06/05(日)(村田真)

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BankART AIR オープンスタジオ 2016

会期:2016/05/27~2016/06/05

BankART Studio NYK[神奈川県]

50組のアーティストが2カ月間BankARTの2フロアをスタジオとして使用、その成果を発表している。成清北斗は苗字の「成」の字を円で囲んで大きな看板にし、赤く塗ってBankARTの外壁に飾った。2カ月間これつくってたんかい。台湾から来た廖震平は、横浜の風景をフレーミングして半抽象画に仕上げている。なかなか丁寧な仕事だ。片岡純也は透明な四角柱の上からコピー用紙を1枚ずつ落下させる装置を制作。紙はバランスよく水平を保ったままゆっくりと落ちていく。それだけだけど、お見事。アートファミリー(三田村龍神+わたなべとしふみ)の三田村は寺の坊主でもあり、仏教に親しんでもらうために映像を制作。お堂のなかで笑いながらパフォーマンスしていてなんだか楽しそうだ。河村るみは、壁にドローイングしているところを映像に撮り、それを壁に投射しているところにドローイングを重ね……という行為を延々繰り返していくパフォーマンス映像。時間と空間のズレが視覚化されていておもしろい。以上、50組中5組に注目。打率1割、まあまあだ。

2016/06/05(日)(村田真)

奥村雄樹による高橋尚愛

会期:2016/06/04~2016/09/04

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

奥村はベルギーのある画廊の活動をまとめた本を通じて、60年代にそこで個展を開いた高橋尚愛というコンセプチュアル系のアーティストを知る。彼に興味をもった奥村は、当時の画廊主を探し出して、倉庫で作品に対面し、作家本人に会うことにも成功。高橋はミラノでルーチョ・フォンタナ、その後ニューヨークで長くラウシェンバーグのアシスタントを務めたという。なぜ高橋に興味をもったかといえば、奥村と同じく「私の作品」「作者」という概念に批判的な問題意識を持っているからだ。ここからふたりのコラボレーション、というより奥村による高橋への自己同一化の試みが始まる。今回のふたりの「個展」では、高橋としてインタビューに答える奥村の映像、ラウシェンバーグらとともに撮った写真から高橋だけを浮き上がらせた画像、高橋がラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、ジョセフ・コスースら22人のアーティストに記憶だけで描いてもらったアメリカ地図などを出している。この地図の作品は、サイ・トゥオンブリは極限まで単純化し、荒川修作は女の横顔に見立てて描いていておもしろいのだが、彼らの作品であると同時に高橋の作品であり、また今回は奥村の作品にもなっているのだ。この方法を拡大すれば「ひとり国際展」も不可能ではない。ちなみに高橋の若き日のポートレートを見ると、どことなく奥村に似ている。

2016/06/06(月)(村田真)

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美を掬(すく)う人 福原信三・路草─資生堂の美の源流─

会期:2016/04/05~2016/06/24

資生堂銀座ビル1、2階[東京都]

資生堂初代社長であり写真家としても活動した福原信三と、弟の路草の未発表写真展。作品は兄弟別ではなく、木、風景、人物などテーマ別に分かれているが、信三は黒、路草は白と額縁の色で区別している。兄弟だから似たような写真ばかりだろうと思いながら見ていたが、しっかり違いがわかった。信三はきわめて真っ当な美しい芸術写真を目指したのに対し、路草はディテールにこだわったり抽象的な画面構成を試みたりどこか斜に構えているのだ。信三が調和のとれた全体を目指す古典主義だとすれば、路草はそこからの逸脱を試みるバロックにたとえられるかもしれない。まあだいたい兄弟ってそんなもんでしょ。

2016/06/06(月)(村田真)

考古資料展示開催記念対談 松木武彦×五十嵐太郎「先史のメディア論」

会期:2016/06/06

東北大学トンチクギャラリー[宮城県]

朝日新聞の書評委員会で松木武彦『美の考古学』に最優先の花丸をつけたにもかかわらず、担当をとれなかったために本を購入したのだが、五十嵐研の縄文展示プロジェクトを担当する学生に推薦したら、読書会が盛り上がり、とうとう著者を招く企画が実現した。松木は、文字がない時代ゆえに、土器や石斧などのモノと徹底的に対峙し、人間の普遍的な認知パターンと絡めて、当時の思考を読みとく。上部構造から歴史をとらえ返す試みでもある。彼の考え方は、デザイン、建築、アートの関係者にとっても興味深いだろう。

2016/06/06(月)(五十嵐太郎)

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