2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2016年10月15日号のレビュー/プレビュー

公文健太郎「耕す人」

会期:2016/08/25~2016/10/11

キヤノンギャラリーS[東京都]

公文健太郎は1981年、兵庫県生まれのドキュメンタリー写真家。1999年にネパールを訪れて以来、ブラジルやセネガルなどにも長期滞在し、被写体になる人々との個人的な関係に根ざしたドキュメンタリーのあり方を模索してきた。今回キヤノンギャラリーSで開催された「耕す人」では、一転して北海道から沖縄八重山諸島まで、各地の農家を訪ね歩いて撮影を続けた。ブラジルの日系人農家まで足を伸ばしたのだという。2013~15年にかけて撮影された本シリーズから浮かび上がってくるのは、後継者に悩み、TPP参加の問題に翻弄される現代の農家の暮らしぶりであり、日本の農業環境のドラスティックな変化(むしろ解体、崩壊)の様相だった。公文の撮り方は決して肩肘張ったものではなく、軽やかなスナップ写真のスタイルだが、農業を取り巻く現場の危機的な状況は切々と伝わってくる。作業中の農民たちの「身振り」を抽出する視点の取り方も、とてもうまくいっていた。
気になったのは写真展示のインスタレーションである。会場は観客同士が知らずにぶつかりそうになるほど暗く、小さめの写真が壁にほぼ一列に並んでスポットライトで照らし出されている。プリント自体もやや暗めなので、画像の細部の情報を読み取るのはとてもむずかしい。しかも展示の総数は181枚とかなり多く、一点一点に目を凝らしながら会場を巡っていくのは、観客にかなりの負担を強いることになる。また、写真にはキャプションがないので、それがどこでどのように撮られたかは画面から想像するしかない。
公文は従来のドキュメンタリー写真とは一線を画した“表現”志向の強い展示を試みた。それは結果的にはうまくいかなかった。だが、僕はむしろこの失敗をポジティブに考えたい。今回は展示に過剰なバイアスがかかってしまったが、それをうまくコントロールできれば、写真による視覚伝達の新たな方向性が見えてくるのではないだろうか。なお、展覧会にあわせて平凡社から同名の写真集が刊行された。

2016/09/07(水)(飯沢耕太郎)

1900年代美術館

[イタリア、ミラノ]

ドゥオモの横にある1900年代美術館へ。未来派、アルテ・ポーヴェラ、見晴らしがいい最上階のフォンタナを展示した空間など、充実したイタリアの近現代美術のコレクションを楽しめる。ただし、狭い空間のリノベーションのために、動線はかなりややこしい。なお、ムッソリーニの演説のためのバルコニーに続く外部階段もあり、ファシズム建築の雰囲気をもつ。隣接するパラッツォINAも同時代の古典テイストの建築である。

写真:上から、《1900年代美術館》、フォンタナを展示する最上階、《パラッツォINA》

2016/09/08(木)(五十嵐太郎)

サンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ聖堂

[イタリア、ミラノ]

ブラマンテが設計したサン・サティロ教会を久しぶりに訪れる。奥行きがないために、内陣の空間を確保できず、遠近法を利用したレリーフ状のモチーフを設け、T字プランを十字であるかのように錯覚させた建築だ。ルネサンスが街中にひっそりと当たり前のように残るのは、やはりよく考えると、すごいことである。一方、観光客が大挙して押し寄せるドゥオモは、大聖堂なのに、とうとう入場料をとるようになり、京都・奈良の社寺に近づいてきた。

写真:《サン・サティロ教会》

2016/09/08(木)(五十嵐太郎)

《モンテドリア集合住宅とオフィスビル》ほか

[イタリア、ミラノ]

今回はジオ・ポンティをいろいろめぐるつもりだが、まずはガレリア近くのアニェーロの建物、中央駅近くの《モンテドリア集合住宅とオフィスビル》を訪れた。いずれも小さい写真だとわかりづらいが、実物は凹凸のあるタイルがファサードに豊かな表情を与えている。また窓のパターンや微妙な屈曲をもつ造形のデザインも面白い。ポルタ・ヴェネツィア駅近くの《カーサ・エ・トーレ・ラシーニ》は、ジオ・ポンティの1934年の作品であり、モダンな大理石のキューブは周囲から際立つ。また《カ・ブルッタ》の建つ交差点に面して、ジオ・ポンティの第1と第2《モンテカティーニ・オフィスビル》が並ぶ。前者が1938年、後者が1951年だが、いずれも平滑な面に仕上げたファサード、開口部の配置、アルミや大理石など素材の組み合わせが美しい。特に前者はミース型でないビルとして白眉と言える。

写真:左=上から、《ガレリア》、ジオ・ポンティによるアニェーロの建物、《カ・ブルッタ》 右=上から、《モンテドリア集合住宅とオフィスビル》《第1モンテカティーニ・オフィスビル》《第2モンテカティーニ・オフィスビル》

2016/09/08(木)(五十嵐太郎)

エクセルシオール・ミラノ

[イタリア、ミラノ]

ジャン・ヌーヴェルによるエクセルシオール百貨店は、パサージュに面した建物の改装で制限を伴うプロジェクトだが、街路からも見える大きな電光スクリーン群、未来的に光るエスカレーターなど、彼らしい空間になっている。20世紀半ばのコルソ・エウロパの複合施設は、まさに建築群が都市をつくっている。サン・バビラ駅周辺のトーレ・SNIAヴィスコーサは80年前の建築だが、日本と違い、昔の文化遺産という扱いではなく、普通に都市景観に参加している。

写真:左=《エクセルシオール百貨店》 右=上から、コルソ・エウロパの複合施設外観、内観、《トーレ・SNIAヴィスコーサ》

2016/09/08(木)(五十嵐太郎)

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