artscapeレビュー

2016年11月15日号のレビュー/プレビュー

ダリ展

会期:2016/09/14~2016/12/12

国立新美術館 企画展示室1E[東京都]

実はあまり期待していなかったが、いわゆるダリ風の絵が完成する前の作品、すなわちいろいろな流行をコピーした挙句、25歳で突如開眼した経緯を確認できたのが収穫だった。また、映画(ブニュエル、ヒッチコック、ディズニー)、舞台美術、宝飾、挿絵などの仕事のほか、原爆が彼の作品に与えた影響など、多角的な側面からダリを紹介していた点もよかった。すぐに人気者となり、アートのジャンルを超えて、彼が商業的に大成功した意味を考えさせられる。

2016/10/24(月)(五十嵐太郎)

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フェスティバル/トーキョー16 イデビアン・クルー「シカク」

会期:2016/10/21~2016/10/29

にしすがも創造舎[東京都]

映画『ドッグヴィル』風に床にラインを引くだけで、シェアハウスの間取りを設定していたが、ダンスと通常生活のスケール感が違うとはいえ、空間の分節があまり演出に生かされていないのがどうしても気になった。『ドッグヴィル』はじっと鑑賞しているうちに、俳優たちの演技から見えない壁の存在を感じるようになったが、ダンスの方は結局、壁も越境して動いていた。ダンスそのものは楽しいものだったが。

2016/10/24(月)(五十嵐太郎)

TWS-Emerging 2016

会期:2016/10/15~2016/11/13

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

村井祐希、水上愛美、桜間級子の3人。村井は「絵画様式のフォーマリスティックな仕事の可能性を、最強のメディウムである『オムライス絵具』と共に追求している!! オムライス絵具とは、ムライが使用するむにゅむにゅした、まるで卵をかき混ぜたような絵具のことである!」とのことだが、展示空間全体をインスタレーションしていてどうも絵画には見えない。おそらく空間そのものを絵画化しようとしているのだろうけど、ファイルで見たキーファーばりのタブローのほうがいいように思う。まあ心意気は買うけどね。水上は2×3メートル程度の大作絵画を中心とする展示だが、大作は木枠に張らず、壁にとりつけた太いバーからカーテンみたいに吊るしている。内容はともかく、絵画の見せ方としては斬新だ。桜間は女性のヌード写真を7点。作者のセルフヌードかと思ったらモデルだそうだ。胸は大きいが、谷間に吹き出物ができてたり、毛深くてワキ毛やスネ毛が気になるなあ。すいません。

2016/10/25(火)(村田真)

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福島写真美術館プロジェクト成果展+新発田

会期:2016/10/19~2016/11/04

金升酒造二號蔵ギャラリー[新潟県]

会津若松の福島県立博物館を中核として、東日本大震災以後の「文化芸術による福島の復興、未来への模索」をめざして、2012年から展開されているのが「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」。「福島写真美術館プロジェクト」はその一環の企画であり、写真家たちが福島県各地を訪れ、それぞれの視点から写真を撮影・発表してきた。2015年からは、その「成果展」が福島県内だけでなく、長野県大町市、静岡県静岡市・浜松市、京都市などでも開催されている。今回、同展が開催された新潟県新発田町では、2011年から、写真を通じて「まちの記憶」を掘り起こそうとする「写真の町シバタ」というイベントが毎年秋に開催されており、今回の展示は2つのプロジェクトの融合の試みでもあった。
同市豊町の金升酒造二號蔵ギャラリーに作品を展示したのは、高杉紀子、片桐功敦、安田佐智種、本郷毅史、赤坂友昭、赤間政昭、岩根愛、土田ヒロミ、村越としやの9名である。2012年度から参加している作家たちに、今回は高杉、岩根、土田、村越が加わり、より厚みのある成果が披露された。福島県須賀川市の出身で、震災後精力的に故郷を取り続けている村越としやの「福島2015」、奥会津の三島町の「限界集落」を粘り強く記録している赤坂友昭の「山で生きる」、福島県内各地を定点観測的に撮影している土田ヒロミの「願う者は叶えられるか」など、今後もさらに大きく展開していきそうなシリーズが目につく。造り酒屋の蔵を改装したギャラリーの空間も素晴らしく、写真を「見せる」環境の重要性をあらためて感じた。いまのところはまだ「構想」の段階に留まっているが、各地の写真プロジェクトとの結びつきを強めることで、震災の記憶を受け継ぐ「福島写真美術館」が具体的にかたちをとってくることを期待したいものだ。

2016/10/26(水)(飯沢耕太郎)

Chim↑Pom個展「また明日も観てくれるかな?」

会期:2016/10/15~2016/10/31

歌舞伎町振興組合ビル[東京都]

歌舞伎町に行くのはもう20年ぶりくらいだろうか、とんと足が遠のいたなあ。劇場や映画館もすっかりなくなっちゃったし。その歌舞伎町のほぼど真ん中に建つビルをまるごと舞台にしたChim↑Pomの展覧会。入場料1000円とるが、これは見て納得。まずエレベータで4階まで昇り、各フロアの展示を見ながら降りていく。このビルは1964年の東京オリンピックの年に建てられ、2020年のオリンピックを見据えて取り壊すことになったため、約半世紀の時間がテーマになっているようだ。例えば4階は壁を青くしているが、これは半世紀前には建築を設計する際に活用された青写真(青焼き)に由来するという。おそらくその発想源であるこのビルの青焼きも展示。床には正方形の穴が開き、下をのぞくと1階までぶち抜かれている。これは壮観。3階には、繁華街で捕まえたネズミを剥製にしてピカチュウに変身させた《スーパーラット》や、性欲のエネルギーを電気に変換する《性欲電気変換装置エロキテル5号機》といった初期作品に加え、歌舞伎町の風俗店で働くみらいちゃん(18歳)のシルエットを青焼きにした《みらいを描く》も。2階ではルンバみたいな掃除ロボットの上に絵具の缶を載せ、ロボットが床に自動的に色を塗ると同時に掃除するというパラドクスをインスタレーション。そして1階では、ぶち抜かれた4階から2階まで3枚の床板のあいだに椅子や事務用品などを挟んで、《ビルバーガー》として展示している。これは見事、これだけで見た甲斐があった。ちなみにタイトルの「また明日も観てくれるかな?」は、お昼の番組「笑っていいとも」で司会のタモリが終了まぎわに言う決めゼリフで、2年前の最終回の終わりにもこのセリフを吐いたという。このビルの最終回に未来につなぐ言葉を贈ったわけだ。

2016/10/26(水)(村田真)

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