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2016年12月15日号のレビュー/プレビュー

黄金町バザール2016 アジア的生活

会期:2016/10/01~2016/11/06

黄金町エリアマネジメントセンター[神奈川県]

毎年恒例のイベントとなり、アジアの作家が多く参加する平常運転の展示だった。個人的にはユ・ソンジュンや津川奈菜の絵が印象に残る。ハツネウィングでティエムラボやパーシモンヒルズアーキテクツがリノベーション的な空間デザインを行なう。横浜にぎわい座では、西倉潔、安田博道、敷浪一哉、青島琢治らの建築家が展示していた。ただし、模型はケース越しではなく、生で見たかった。

写真:左=上から、パーシモンヒルズアーキテクツ、ティエムラボ 右=上から、津川奈菜、西倉潔、ユ・ソンジュン

2016/11/05(土)(五十嵐太郎)

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スマートイルミネーション横浜2016

会期:2016/11/02~2016/11/06

象の鼻パーク、横浜市開港記念会館ほか[神奈川県]

スマートイルミネーション横浜2016へ。わりとゆるい光のアートが多かったけれど、すごい人出に驚かされた。昼だと興ざめみたいな作品も、夜だとあまりよく見えないので、相当下駄を履かせることができるかもしれない。東京藝大による馬車道の歴史博物館ファサードへのプロジェクションは、古典主義建築の枠組を生かした映像表現になっており、よかった。

2016/11/05(土)(五十嵐太郎)

倉敷フォトミュラルf

会期:2016/10/21~2016/11/16

倉敷駅前アーケード、倉敷アイビースクエア内アイビー学館[岡山県]

2004年からスタートした「倉敷フォトミュラル」。商店街のアーケードのバナーに、大きく引き伸ばした布プリントの写真を飾る公募企画だが、2014年から「倉敷フォトミュラルf」と名前を変えて、美観地区の倉敷アイビースクエア内アイビー学館で開催される「個展部門展示」を併催するようになった。ほかに高校生が対象の写真ワークショップ「PHOTO STADIUM」や、親子で参加する「親子バトルだ!ワクワク写真展」の参加者の作品なども展示されており、倉敷の秋の観光シーズンの真っ只中ということもあって、多くの観客が訪れていた。実質的な運営を担当している岡山県立大学デザイン学部のSAKURA Projectの学生さんたちの献身的な努力もあり、参加型の写真イベントとしてすっかり定着したといえるだろう。
「旬」をテーマに公募された57点の商店街の展示もなかなか充実した内容だが、アイビー学館での個展部門のレベルが相当に上がってきている。今年の出品者は、伊藤雅浩、高木直之、坂本しの、新宅巧治郎、葛西亜理沙、関谷のびこ、菅泉亜沙子、早苗久美子、平井和穂(WAPO)、近藤優斗の10名。キャリアも作風もバラバラだが、若い写真家たちが次のステップに進んでいくきっかけになるといいと思う。モノクロームのスナップショットの新たな方向性を模索している坂本しの「speculum/反射鏡」や菅泉亜沙子「かつて、まなざしの先に」、日常の場面のズレや揺らぎを「モヤチッチ」という絶妙なネーミングで捉えた早苗久美子の作品など、今後の展開が大いに期待できそうだ。「PHOTO STADIUM」の参加作品からグランプリに選出された大原理奈「はばたけ!」も新鮮な切り口の力作だった。
今後の課題は、やはりほかの地域イベントとの連携を図ることではないだろうか。瀬戸内国際芸術祭などとのかかわりも深めていけるといいと思う。

2016/11/06(飯沢耕太郎)

頭と口「WHITEST」

会期:2016/11/05~2016/11/06

KAAT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

ジャグリング公演というので、大道芸の好きな息子と行ってみる。でも想像していたものとずいぶん違って、たしかにジャグリングの要素もあるけど、舞踏的でもあれば新体操っぽくもあるし、あまつさえカーリングの要素まで入っていて、おもしろいといえばおもしろいのだが、ジャグリングとして見ても舞踏として見ても物足りなさが残る。息子は満足しなかった模様。

2016/11/06(日)(村田真)

大西みつぐ「ニューコースト」

会期:2016/11/02~2016/12/22

PGI[東京都]

大西みつぐは1985年に「河口の町」で第22回太陽賞を受賞したあとに、荒川と江戸川が注ぐ東京湾岸(江戸川区臨海町)を、中判のネガカラーで集中的に撮影し始めた。ちょうどバブル経済がピークに達しつつあり、「ウォーターフロント」の再開発が急ピッチで進んでいた時期である。
今回、約30年という時を経て、PGIであらためて展示されたその「NEWCOAST」のシリーズ(32点、ほかに2015年に再撮影された4点も展示)を見ると、大西が明らかに同時代のアメリカの写真家たちの「ニュー・カラー」の仕事に強い共感を持ち、撮影を進めていたことがわかる。ウィリアム・エグルストン、スティーブン・ショア、ジョエル・スターンフェルドといった「ニュー・カラー」の写真家たちと同様に、大西もまた時代とともに大きく姿を変えていく「社会的風景」の細部の様相を、カラー写真の鮮やかな発色と細やかな描写力を活かして捉えようとしていた。
だが、むろん両者には違いもある。アメリカの乾いた風土やクリアーな空気感はそこにはなく、写真に写っているのは、「アメリカ西海岸あたりの土産物屋で売っていそうな安っぽいポスターイラストの絵柄」のぺらぺらの光景なのだ。人工干潟で束の間の休日を楽しむ家族や、サンオイルで体を焼く若者たちの姿には、確かに「切なげでちょっともの哀しい」気分が色濃く漂っている。30年後にそれらを見直すと、単にノスタルジアを誘うだけでなく、あの時代の深層の構造をあぶり出すさまざまな指標がしっかりと写り込んでいることが見えてくる。大西の写真を、東京の下町を定点観測的に撮影し続けてきた、質の高いドキュメンタリー作品として捉え直す視点が必要になってくるのではないだろうか。
なお、展覧会にあわせるように、大西の新作写真集『川の流れる町で』(ふげん社)が刊行された。荒川放水路の周辺を撮影した「放水路」、荒川の両岸の町の佇まいにカメラを向けた「眠る町」の2章から成る力作である。ドキュメンタリー写真家としての彼の視線は、明らかに東日本大震災以後の「社会的風景」の変貌に向かいつつあるようだ。

2016/11/07(飯沢耕太郎)

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