artscapeレビュー

2017年01月15日号のレビュー/プレビュー

畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景

会期:2016/11/03~2017/01/08

せんだいメディアテーク[宮城県]

前半は作品の軌跡を再構成、後半は陸前高田を時系列で。ほとんどの作品はすでに見ているので、どう配列するかに興味。最大の横幅をとって、チューブ列で会場を前後2分割。空間をうまく生かす。後半で海の水平線写真のみ日時の記載がない。これだけ奥尻だった

2016/12/15(木)(五十嵐太郎)

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エレナ・トゥタッチコワ「In Summer, Apples, Fossils and the Book」

会期:2016/12/09~2016/12/29

POST[東京都]

ロシア・モスクワ出身で、現在東京藝術大学大学院美術研究科で学んでいるエレナ・トゥタッチコワの「林檎が木から落ちるとき、音が生まれる」のシリーズも厚みを増してきた。今回のPOSTでの個展は、torch pressから同名の写真集が刊行されたのにあわせてのもので、同時に渋谷区富ヶ谷のnaniでも映像作品を中心にした「In Summer, With My Dinosaurs」展が開催された。
これまでは、彼女の少女時代の記憶を、ロシアの夏の別荘、ダーチャで撮影した写真と重ね合わせてきた。だが今回の作品では、彼女自身は一歩距離を置いて、モスクワ郊外の川の近くに住む3人の兄妹、トーリャ、アーニャ、サーシャの夏の日々にカメラを向けている。もちろん、彼らがエレナの分身であることに違いはないのだが、父親と化石や「恐竜の骨」を拾いに行ったり、水の中で「サメ」に出合ったりするそれぞれの体験が、写真だけでなく文章でもいきいきと浮かび上がるように構成されていた。以前よりも、物語的な要素がより強まっていることは注目してよい。化石と水の流れ、炎、部屋の中に置かれた水槽などの象徴的なイメージも効果的に使われている。
写真展の会場の壁には、エレナの手書きの字で、テキストの一部が記されていた。それらを読むと、あらためてその日本語能力の高さに驚かされる。
「──林檎が木から落ちた、それだけのこと。木にいたときも誰の目にも触れず、落ちても草の中に隠れたままの小さな林檎。その音だけがいつまでも記憶に残った。アーニャが11歳になった年の夏の終わり。彼女の髪の毛が一番長く伸びた8月のことだった」。
こうなると、これまでのように写真(映像)が主で、文章が従という関係だけでなく、その逆もありえるのではないだろうか。われわれは、日本語で書くロシア人の小説家の誕生前夜に立ち会っているのかもしれない。

2016/12/16(金)(飯沢耕太郎)

蔵真墨「Men are Beautiful」

会期:2016/12/10~2017/01/28

nap gallery[東京都]

明らかにゲイリー・ウィノグランドの名作『Women are Beautiful』(1975)を意識したタイトル。だが蔵真墨のこのシリーズは、路上スナップということ以外にはあまり共通性がない。アメリカの、白人の、魅力的な若い女性、つまりウィノグランド本人の性的な嗜好を、ぬけぬけと打ち出して撮影した『Women are Beautiful』に対して、蔵の「Men are Beautiful」は、たしかに彼女にとっての異性を被写体に選んではいるが、その選択の幅はかなり広い。いわゆる「イケメン」だけではなく、中年の男性や少年を含み、撮影場所も東京が中心だが、パリやニューヨークやメキシコ・シティーの写真もある。撮り方も、モノクロームのスナップショットの美学を隅々まで貫くウィノグランドに対して、かなり場当たり的でいい加減だ。肝心の「男」がどこに写っているのかほとんどわからないようなロングショットもある。
となると、蔵がどんな基準で「男」を選んでいるかが気になってくる。展覧会にあわせてクラウドファンディングで刊行されたという同名の写真集(Urgent Press)で、彼女はそのことについて「異性としての魅力だけでない何か人としてのきらめき」と書いている。これだけでは曖昧でよくわからないが、写真と照らし合わせてみると、少しずつ彼女なりの尺度が見えてくる。「人としてのきらめき」というのは、生命体そのものから発するオーラのようなものではないだろうか。国籍や年齢や顔立ちや体型を超えた(別に無視するというわけではないが)「何か」を路上で感じとったときに、蔵は躊躇なくシャッターを切っているということだ。「男」という縛りは、逆にそののびやかで自由なスナップショットへの向き合い方を確保するために設定されているように思える。
写真集の出版で一応の区切りはついたようだが、味わい深いシリーズとして育ちつつあるので、もう少しこの先を見てみたい。

2016/12/16(金)(飯沢耕太郎)

ようこそ!横尾温泉郷

会期:2016/12/17~2017/03/26

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

お風呂が恋しい季節に合わせて、横尾忠則が銭湯や温泉を描いた絵画、版画、ポスターが集められた。展示の主体になったのは2つのシリーズ。ひとつは2004年に元銭湯の画廊SCAI THE BATHHOUSEで個展を行なった際に発表した「銭湯シリーズ」、もうひとつは2005年から約3年間にわたる誌連載のために描かれた「温泉シリーズ」だ。その合間に、1970年代から現代までの全国各地を描いた作品も配置された。筆者が注目したのは「銭湯シリーズ」である。横尾が子供の頃に母に連れられて入った女湯の記憶を元にした同作では、画中に鳥居清永、ピカソ、ドローネ、デュシャンらの引用が散りばめられており、作品の上下左右が繋がるように描かれるなど仕掛けが満載だった。また本展では城崎温泉などから協力を仰ぎ、会場内に蛇口、洗面器、脱衣籠、脱衣箱、扇風機、体重計などが配置され、観客が座って観覧できる座敷や浴槽、さらには温泉卓球ができる卓球台まで用意されていた。こうした演出もあり、本展は非常に楽しい展覧会に仕上がっていたのだが、記者発表時には横尾からは「まだまだ遊びが足りない」と駄目出しが出ていた。学芸員はつらいよ。でも、毎回作家から厳しいチェックを受けることで、彼らは鍛えられていると思う。

2016/12/16(金)(小吹隆文)

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第2回南相馬ワークショップ

会期:2016/12/16

南相馬市集会所[宮城県]

塔と壁画のある集会所の南相馬の仮設住宅地にて、ワークショップを開催した。巨大な壁画を描いた彦坂尚嘉を迎え、その思いを語ってもらう。またあらかじめ住民に使い捨てカメラ「写ルンです」を配布し、暮らしの風景を撮影してもらい、糸崎公朗によるフォトモのワークショップを行なう。それぞれの風景が立体化され、住民の記憶に刻まれた。なお、ここはすでに前の週に自治組織の解散式を終えたが、まだ暮らす人は残り、建物は使われる。

2016/12/16(金)(五十嵐太郎)

2017年01月15日号の
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