artscapeレビュー

2017年01月15日号のレビュー/プレビュー

奥山由之「Your Choice Knows Your Right」

会期:2016/11/19~2017/04/02

RE DOKURO[東京都]

東京・千駄木の裏通りにあるギャラリースペースには、モノクロームの写真が23点並んでいた。それらをざっと見て、都市的なモノ、ヒト、風景がちりばめられたカッコいい写真だと思ったのだが、展示のコンセプトがいまひとつ呑み込めなかった。会場に置いてあった、大判の写真集とチラシを手に取ってみて、ようやくそのバックグラウンドがわかった。
写真集は、千駄木を拠点とするファッションショップのウルフズヘッドの25周年を記念した2冊組の特装本(『WOLF'S』と『HWAD』、ブックデザイン=町口覚)で、そのうち『WOLF'S』のパートの写真を奥山が担当している。今回の展示は、特製のハワイアンシャツを着た100人の関係者を撮影したその写真集の副産物だったのだ。といっても、ハワイアンシャツとモデルをフィーチャーした写真は少なめで、むしろその周辺で拾い集められた場面が中心になっている。写真を分割してグリッド状に配置したり、2枚の写真を同じフレームにおさめたり、写真の上に写真を貼ったりする小技も気が利いていて、相変わらずの映像センスのよさが発揮されていた。
とはいえ、2016年1月~2月の個展「BACON ICE CREAM」(パルコミュージアム)でも感じたのだが、奥山にはぜひファッションの引力圏から離脱した写真にチャレンジしてほしい。「いつ、何をどう選び、誰と共に握りしめ、どこへ向かうのか。選択の日々を生きる僕らは、目の前に見えるそれらが即ち自分自身でもあります。自己とは他者のあらゆる事象であることに気が付いた」。展覧会のDMに掲げられたこのメッセージは、彼が自己といまの世界との関係のあり方をきちんと認識し、思考できることを示している。繰り返しになるが、ファッションから遠く離れて、さらに先へ、写真で何ができるのかを手探りで求め続けていってほしい。

2016/12/21(水)(飯沢耕太郎)

プレビュー:山下残『悪霊への道』

会期:2017/02/03~2017/02/05

アトリエ劇研[京都府]

コンテンポラリー・ダンサー、振付家の山下残と、バリ島という異色の組み合わせ。「あえてバリ島に縁が薄そうな振付家への委嘱作品。韓国のAsia Culture Center、Asian Arts Theatre(国立アジア文化殿堂 芸術劇場)とインドネシアのダンスキュレーター、ヘリー・ミナルティによるオリエンタリズム再考プロジェクト」とチラシには紹介されている。山下は、なじみのないバリ島に単身赴き、バリダンスを習いに行くも完全に観光客扱いされてしまう。伝統芸能が観光資源であり、植民地時代の支配を和らげる武器ともなったバリ島において、「コンテンポラリー・ダンサー」と名乗れば、伝統を侵しにきた「現代の悪霊」と見なされ、呪いをかけられる。だが、バリ島では良い霊も悪い霊も等しく祀ることで世界のバランスを保つという話を現地で聞いた山下は、「この島で自分の存在を認めてもらうには悪霊になるしかない」という逆説的な戦略を採ることを決めたというのが、本作の経緯だ。
山下には、異文化交流をテーマにした舞台作品への出演がこれまでにもある。KYOTO EXPERIMENT 2010で上演された『About Khon』では、タイの伝統舞踊「コーン」の踊り手のピチェ・クランチェンと「対話形式」のパフォーマンスを行ない、伝統と現代、アジアと日本といった文脈の差異、歴史的厚みに支えられた身体と技術的熟達を放棄した身体、といったトピックについて示唆的な対話を行なった。本作においても、「観光資源」としての「伝統文化」、異文化への眼差しがはらむエキゾティシズムの構造、「歴史」との切断の上に成立してきたコンテンポラリー・ダンスと伝統・歴史との(再)接続など、多角的な問題に対して、山下ならではのラディカルさとユーモアでもって、どう切り込むのだろうかと期待される。

2016/12/21(水)(高嶋慈)

プレビュー:小森はるか『息の跡』

会期:2017/02/18

ポレポレ東中野(東京都)、横浜シネマリン(神奈川県)、フォーラム仙台(宮城県)、フォーラム福島(福島県)、名古屋シネマテーク(愛知県)、第七藝術劇場(大阪府)、神戸アートビレッジセンター(兵庫県)

映像作家、小森はるかによる劇場長編デビュー作品。小森は、画家で作家の瀬尾夏美とともに、東日本大震災後、岩手県陸前高田市に移住し、アートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」としての活動を開始。土地の風景や人々の声を、色彩豊かなドローイング、詩的なテクスト、ドキュメンタリー映像によって記録する活動を続けてきた。本作『息の跡』は、山形国際ドキュメンタリー映画祭、神戸映画資料館、せんだいメディアテークでの上映を経て、待望の全国劇場での上映となる。
この映画では、津波によって流された種苗店を自力で再建し、ブリコラージュ的な工夫と知恵をしぼりながら経営する「佐藤さん」の日常が、季節の移ろいとともに約1年間かけて映し出される。さらに、佐藤さんは種屋の経営に加えて、もうひとつ別の仕事も行なっている。それは『The Seed of Hope in the Heart』という被災記録の自費出版であり、震災後に独学で習得した英語と中国語で執筆され、作中では英語の第5版を執筆中であるという。「記録すること」のそれほどまでの執念に彼を向かわせるものは何なのか。なぜ彼は、外国語の独習という困難な試みを引き受けて、「非-母語」で書くことを選択したのか。その答えは、ぜひ映画を見てほしい。
『息の跡』というタイトルは詩的で示唆的だ。吹きかけた息のように一瞬で儚く消えてしまうものと、息を発すること、すなわち「声」の痕跡をとどめること、という相反する契機がそこには読み取れる。本作は、単に「震災のドキュメンタリー映画」を超えて、「記録する」行為や衝動それ自体へのメタ的な言及をはらんだひとつの記録と言えるだろう。
公式サイト:http://ikinoato.com/

2016/12/21(水)(高嶋慈)

プレビュー:DANCE BOX ARCHIVE PROJECT vol.1 1995年のGUYS

会期:2017/02/11~2017/03/05

アートエリアB1[大阪府]

関西ダンスシーンの中核を担ってきたNPO法人DANCE BOXは、20周年記念を機に、これまでの膨大で貴重なダンス関連資料を整理するとともに、舞台芸術関係者のみならず、さまざまな立場の人が活用できる仕組みの構築を目指して、「アーカイブ・プロジェクト」を立ち上げている。2016年10月には、「アーカイブ・プロジェクト vol.0」をアートエリアB1で開催。2014年のKOBE-Asia Contemporary Dance Festival #3で上演された、松本雄吉×垣尾優×ジュン・グエン=ハツシバによる『nước biển/ sea water』のアーカイブ展示を行なった。作品映像に加え、衣装、舞台美術、朗読テクスト、ミーティングの音声データなど、複合的な要素を展示空間に再配置し、モノと情報、記憶が交差する場をつくることを試みた。
「アーカイブ・プロジェクト」の本格的な始動となる今回の「vol.1」は、「1995年のGUYS~ダンスボックス設立前夜、関西のコンテンポラリーダンス激動の時代~」と銘打たれている。DANCE BOX設立のきっかけともなった、1995年に伊丹市のアイホールで行われた公演『GUYS』を基軸に展開する。冬樹、ヤザキタケシ、サイトウマコト、由良部正美ら、今も活躍するダンサーをはじめ、関西の男性ダンサー陣が一堂に出演した『GUYS』にまつわるさまざまな資料を振り返り、当時のアーティストが何を志向していたのか、そして彼らが現在に何をもたらしたのかを検証するとともに、関西ダンスシーンのこれからを考えるための場づくりを試みるという。本プロジェクトは、関西ダンスシーンの歴史的検証の場となるとともに、舞台芸術の記録・アーカイブのあり方をめぐって考える機会となるだろう。
また、90年代半ばの関西(とりわけ京都)では、アーティストたちが緩やかに連帯しながら、自分たちの手で環境作りを行なっていったことがひとつの動向として挙げられる。例えば、ダムタイプ周辺のアーティストたちが1992年に立ち上げた自主運営のアートセンター「アートスケープ」や、京都を拠点に活動するコンテンポラリー・ダンスカンパニーMonochrome Circusのメンバーが中心となって1995年に始めた国際ダンスワークショップフェスティバル「京都の暑い夏」がある。DANCE BOXの設立も、単にダンス分野の一団体の設立であることを超えて、そうした同時代的な動向の中で再考されるべきだろう。

関連レビュー

『nước biển/ sea water』特別展示上映 ダンスボックス アーカイブプロジェクト(高嶋慈):artscapeレビュー

2016/12/21(水)(高嶋慈)

「新しい建築の楽しさ2016」展

会期:2016/11/08~2017/03/04

AGC studio 1階エントランスギャラリー[東京都]

バンバタカユキの会場デザインが軽やかに模型が宙に浮くような雰囲気、そして外の風景も混ざっていくような効果を巧みに生み出す。今回は6組の若手建築家が出品しているが、リノベーションの多さに時代を感じる。山岸綾によるあいちトリエンナーレ2016の豊橋会場、神本豊秋の品川ビル再生計画などである。

写真:上から、バンバタカユキの会場デザイン、山岸綾によるあいちトリエンナーレ2016の豊橋会場、神本豊秋の品川ビル再生計画

2016/12/21(水)(五十嵐太郎)

2017年01月15日号の
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