2018年12月01日号
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artscapeレビュー

2017年02月01日号のレビュー/プレビュー

アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国

会期:2017/01/11~2017/02/26

兵庫県立美術館[兵庫県]

アドルフ・ヴェルフリ(1864~1930)は、アール・ブリュットを代表する作家であり、ジャン・デュビュッフェがアール・ブリュットという概念を提唱するきっかけとなった作家の一人でもある。彼は精神病院で全45冊・25,000ページにおよぶ膨大な物語を綴った。それらは絵、文字、楽譜などで構成されており、本展では彼の最上級の作品74点を見ることができる。その感想を一言で述べると、やはり「圧巻」の一言。妄想的イマジネーションによるディープな物語世界が、凄まじい強度と執拗さで展開されており、画面を埋め尽くす図柄、文字、楽譜から目が離せなくなる。一方、彼の作品にはある種の中毒性があり、没入するのは危険だとも思った。現在日本では、アール・ブリュットを単に障害者アートとして取り上げることが多い。そこでしばしば語られるのはSMAPの楽曲『世界に一つだけの花』的な心あたたまる世界だが、そんな価値観を持つ人にこそ、本展を見てもらいたい。アール・ブリュット(生の芸術)とは本来どういうものかが分かるはずだ。

2017/01/11(水)(小吹隆文)

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後藤靖香個展「必死のパッチ」

会期:2016/12/16~2017/01/21

京都精華大学ギャラリーフロール[京都府]

後藤靖香は、祖父や大叔父など親族の戦争体験をもとに、戦争の時代を生き抜いた人々や、さほど知られていないエピソードを描く若手作家だ。作品の特徴は、丹念な取材を行なうこと、画風が漫画調なこと、極端な構図を用いる場合があること、巨大な作品が多いこと、である。筆者は後藤の作品に対し、魅力と疑問の両方を感じてきた。魅力は、先に述べた作品の特徴による。疑問は、戦争を知らない世代が戦争を描くことである。戦争を否定するのであれ賛美するのであれ、未体験者が戦争を扱うのはいかがなものかと。しかも彼女は1982年(昭和57)生まれ。義務教育中に東西冷戦もバブル景気も終わっていた世代なのだ。しかし最近、考えが変わった。戦後世代が戦争をテーマにした例などいくらでもあるし、むしろ若い世代のほうがイデオロギーの呪縛が希薄なので、ニュートラルかもしれない。しかも後藤はきちんと取材を行なっているし、描く内容も一個人に密着している。いわばオーラルヒストリーとしての絵画であり、イデオロギーが前面化した人たちとは一線を画した、新しい戦争画なのである。

2017/01/13(金)(小吹隆文)

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デザインの解剖展 身近なものから世界を見る方法

会期:2016/10/14~2017/01/22

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

デザインの方法論ではない。デザインの解説でもない。「デザインの解剖」である。すなわちデザインの腑分けである。すなわち、外側から内側へと順々に商品を構成する部位を取り出し、一つひとつをデザイン的な視点から分析してゆく。そういう展覧会である。「解剖」の対象は、株式会社明治の5つの製品──きのこの山、明治ブルガリアヨーグルト、明治ミルクチョコレート、明治エッセルスーパーカップ、明治おいしい牛乳。「解剖」のフォーマットはほぼ共通。最初に商品とその市場、歴史の解説からはじまり、ネーミング、ロゴタイプ、商品コピー、イラストレーション等々、表面的に観察可能な要素を分析する。ここまではよくあるデザインの展覧会だ。しかし「デザインの解剖」が解剖たるゆえんは、それが表面的な観察にとどまらないところにある。視点は商品の皮膚の下、すなわちパッケージの素材、構造、内袋・内蓋へと進み、中身──チョコレートや牛乳、アイスクリームなどの製法、組成の分析に至る。とくに最後のそれは一般的な意味での「デザイナー」による仕事ではないが、菓子、加工食品において、かたち、味、舌触り、食感もまた入念に「デザイン」されていることが示される。広義の「デザイン」は視覚だけではなく五感すべてに訴えるものなのだ。
グラフィックデザイナー・佐藤卓の企画による「デザインの解剖」シリーズの最初の展覧会は2001年。銀座松屋7階デザインギャラリー1953で開催された「デザインの解剖①=ロッテ・キシリトールガム」だ(今回は大人の事情によりこの「解剖」は展示されていない)。以来、富士フイルムの「写ルンです」や「タカラ・リカちゃん」等々の「解剖」が行なわれてきた(こちらは展示されている)。また佐藤は武蔵野美術大学の客員教授として、カリキュラムに「デザインの解剖」を取り入れている(本展でもその成果が紹介されている)。「解剖」の対象が私たちに身近な大量生産品であることや、外から内へと分析を進める手法はシリーズを通して変わらない。担当者へのインタビューがなされている部分もあるが、基本的には外部からの目線で考察されている。
本展で取り上げられている商品はいずれもロングセラーブランド。5つのうち最も新しい商品「明治おいしい牛乳」でも発売は2002年で、若干のデザイン修正を経ながらすでに14年にわたって売られ続けている。それゆえ5つの商品はいずれもデザインとしても成功していると言ってよいと思われる。しかしながら、興味深いことにここではデザインの理由は分析されても、その評価には言及されていない。これを、良いデザインには理由がある、と読むこともできるかもしれないが、それは本展の本質ではないだろう。展覧会導入部の解説パネルの佐藤卓によるテキストによれば、本展の意図するところは「ものを通して世界を見る」ための「方法」であり「OS」なのだ(改めて展覧会のサブタイトルを見よ)。「商品を外側からとらえていくと、商品と社会との関係を広くとらえること」ができ、「商品開発の歴史的な経緯、社会や市場の中での位置づけ、不特定多数の人々の嗜好、そして販売される国の言語や文化がなんらかの形で反映されていることが浮かび上が」る。ひとつの商品が世の中に出て行くまでにいったいどれほど多くの制約、要求を乗り越えていかなければならないのか。売られ続けていくなかでどのような変化が生じているのか。そうした制約や変化は、商品やパッケージ、それらの原材料を取り巻く環境、社会の変化、技術の変化にどれほど深く関わっているのか。作家性が強いデザイナーの仕事ではなく(もちろんデザイナー自身、時代と社会の産物ではあるが)、多くの人々がそれがデザインされているということを意識しないようなありふれた商品に焦点を当てて詳細に分析することによって、私たちは社会をより深く知ることができるのではないか。「解剖」のプロセスを順に追ったあとで、こんどは展示を逆順に見ていくと、本展がデザインを見せる展覧会であると同時に、「世界を見る方法」を「デザイン」したものであることがよく分かるだろう。[新川徳彦]

2017/01/16(月)(SYNK)

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南繁樹・大石早矢香展

会期:2017/01/14~2017/01/22

祇をん小西[京都府]

ともに30代の若手陶芸家夫婦が2人展を開催。キーワードは「装飾」だ。南の作品は白磁で、表面を覆う幾何学的な凹凸模様が大きな特徴。きわめて精緻な仕事であり、磁器特有のクールな性質との相性もきわめて良い。一方、大石の作品は陶芸で、花、植物、生き物などの有機的なモチーフが過剰なまでに装飾されている。初めて作品を見たときはマイセン人形のような可愛らしいものかと思ったが、実際はアニミズム的というか、有機性で艶めかしいものだ。特に女性の素足をモチーフにした作品は、かかと部分がハイヒール状にびっしりと装飾で埋められており、背徳的なエロティシズムを感じた。また、トロフィーのような大作も、女性のボディや手足と装飾が複雑に絡み合っており、非常に見応えがあった。という訳で、やや大石の説明に偏ってしまったが、2人の作家がそれぞれの個性を出し切った気持ちのよい展覧会だった。それにしても2人が夫婦だったとは。画廊で大石から教えてもらい、本当に驚いた。

2017/01/17(火)(小吹隆文)

大和美緒個展「VIVID-STILL 静か。鮮烈で_」

[京都府]

会期:2017/01/06〜2017/01/22 Gallery PARC

会期:2017/01/14〜2017/02/04 COHJU contemporary art

大和美緒は、シンプルな行為を反復することで豊かな世界をつくり出す新進画家だ。例えば、無数の赤い点から成る作品では、最初に打った点の隣に次の点を打ち、その次は下に点を打つという作業を延々と繰り返す。すると画面には布地のドレープ(ひだ)を思わせる有機的な波模様が現われるのだ。また、黒い線による作品では、最初に引いた線のすぐ隣に次の線を引く作業を繰り返す。すると線は徐々に曲線を帯びはじめ、最終的には山地の地図のような画面ができあがる。ほかには板ガラスにインクを垂らしたカラフルな作品もあった。彼女は制作中に画面全体を見ないように心がけている。つまり人為を封じた絵画ということだ。だとすれば作品に現われる模様は、フラクタルや1/fゆらぎのように自然界の法則を体現したものと言えるだろう。一方、いくら人為を封じると言っても、人間には欲望があるし、制作時間が長引けば疲労も蓄積する。作品にはそうした心身の軌跡も刻まれており、複数の揺らぎが同一画面上で響き合う点に、作品の面白さが凝縮されている。

2017/01/17(火)(小吹隆文)

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