2018年01月15日号
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artscapeレビュー

2017年04月01日号のレビュー/プレビュー

砂連尾理『猿とモルターレ』

会期:2017/03/10~2017/03/11

茨木市市民総合センター・クリエイトセンター[大阪府]

6年前のこの日、この時(開演は14:30。地震発生は14:46)、東日本大震災があった。舞台はゆるやかな女たちの会話で始まる。公民館で駄弁っているかのように、静かにあの日のことを振り返る。そして、客席に向けて黙とうが促される。女たちと観客は一斉に目を瞑る。温かさと悲しさが一挙に去来する。目を開けると女たちの何人かは涙を流していた。砂連尾理が被災地を訪ね、そこで感じたことをダンスに変換したのがこの作品。北九州、仙台と公演は続き、今回は砂連尾の暮らす大阪茨木市での上演となった。テーマにまっすぐ向き合ったダンスは、仙台では客席に緊張を生み出すところもあった。茨木では緊張はまた別のニュアンスを帯びていたというべきかもしれない。頻繁に出てくるモチーフは「別れのダンス」と呼ばれ、二人が手をつなぎ、そのつないだ手だけでバランスをとり背中を重力に任せる。重さに手が離れ、二人は背中を床に倒れる。シンプルな動きだが、それが「東日本大震災」のコンテクストに絡むと、猛烈な絶望感や悲しみが喚起される。とはいえ、砂連尾と垣尾優の男二人がまじめにやればやるほど、滑稽にも見えてくる。実際いくつかの場面では、正直な笑いが会場を包むこともあり、この作品が「被災地」へのステレオタイプなイメージをただなぞるといった類の舞台でないことは、客席がちゃんと受け止めているようだった。とはいえ、被災地から遠いゆえの難しさもあったかもしれない。何度かのワークショップを経て、地元の高校の演劇部がこの舞台には参加していた。取材で知ったことだが、本作を受け止め難く感じた学生の親族もいたようだった。本作の重要なテーマに「継承」がある。直接出来事を経験しなかった者が、その出来事をどう継承し得るか。ほかならぬ砂連尾は非被災者だ。その彼が、出来事のなかの何かを「継承」しようとして、そして高校生たちがそれを「継承」する。この尊くも難しい試みに本作の賭けはある。もうひとつ茨木公演独自の要素にnookの参加があった。nookは仙台に移住して創作活動を行なう団体であり、彼らも砂連尾と同様、非被災者という立場から震災という問題の継承に挑んでいる。本公演の記録を行なう酒井耕はあえて舞台上に入り込んで撮影を実施し、瀬尾夏美は舞台に小説『二重のまち』を持ち込んだ。小説は2031年から震災を見つめる。その言葉を高校生たちが大きな声で読んでいく。高校生はもはや生き物として美しい。この美しさと絶望と悲しみとユーモアとが混ざり溶け合うというよりは同居している。伴戸千雅子と磯島未来が、それらをつないでゆくように踊った。踊りというものは、つながらないものをゆるやかにつないでゆく。ものすごい力技だが、踊りにはそれができる。その力を久しぶりに見たという気がした。

2017/03/11(土)(木村覚)

「ロックウッド・キプリング: パンジャブとロンドンにおけるアーツ&クラフツ」展

会期:2017/01/14~2017/04/02

ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館[ロンドン(英国)]

ジョン・ロックウッド・キプリング(1837─1911)は、英国生まれのデザイナー/彫刻家。『ジャングル・ブック』で知られる小説家のラドヤード・キプリングの父でもある。英領インドに移住し、美術学校長・イラストレーター・博物館長などとして活躍したほか、インドの伝統的な美術・工芸・建築の振興と保全に力を尽くした。これがインドの「ウィリアム・モリス」にたとえられ、さらにラファエル前派第二世代の画家エドワード・バーン・ジョーンズと親戚の関係にあったことなども「アーツ&クラフツ運動」との関わりを示すいわれである。彼はまたサウス・ケンジントン博物館(現:ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館)とも重要な関係がある。今でも見ることができるように、陶製の建築装飾を担当したほか、インドの工芸品のコレクションの充実にも寄与した。本展は、約300点に及ぶ展示品から、ロックウッド・キプリングの業績を回顧する初めての展覧会。1851年のロンドン万博の資料から、当時のデザイン教育者たちから称賛を受けていたインドの工芸品、彼がインドの工人を描いたドローイング、帰国後における英国王室別邸のデザインの仕事などまでが展示され、大変充実した内容。現在においては忘却されることの多かった彼が、英国・インド両国における美術・デザイン界で大変重要な人物だったことを教えてくれる。[竹内有子]


会場風景(筆者撮影)

2017/03/12(日)(SYNK)

マルセル・ブロイヤーの家具:Improvement for good

会期:2017/03/03~2017/05/07

東京国立近代美術館[東京都]

戦後、パリの《ユネスコ本部》やニューヨークの《旧ホイットニー美術館(現メトロポリタン美術館分館)》を設計したデザイナー、建築家・マルセル・ブロイヤー(1902-1981)の家具デザインを紹介する展覧会。ブロイヤーの家具といえばイメージされるのはスティールパイプを使った《クラブチェアB3》(ワシリーチェア)。1925年、23歳のときに考案したこの椅子をブロイヤーは自転車のハンドルから着想したといわれている。それ以前から鋼管を用いた家具は存在した。ジークフリート・ギーディオンによれば、1830年頃にはベッドに鉄パイプを用いる試みがなされ、1844年には鉄パイプを曲げてつくった椅子が現れている。しかしながらその椅子は木製の椅子を模倣し、パイプは木や象嵌に見えるように塗装され、座面にはクッションがはめ込まれていた(榮久庵祥二訳『機械化の文化史』鹿島出版会、2008、456-457頁)。これに対してブロイヤーの椅子は継ぎ目がないようにみえるパイプで構造をつくり、座面と背もたれはテンションをかけた布あるいは革によって構成され、非常に軽く見える。鋼管パイプを用いたとはいえ、木製のデザインを踏襲した椅子とはまったく異なる思想によるものだ。その思想は、バウハウスのウォルター・グロピウスが1921年頃から取り組んでいたユニット住宅案に呼応している。すなわち、部材の規格化、共通化によるコストダウンである。これらは素材や技術の問題であるが、他方で当時現れてきたモダンな建築にふさわしい新しい家具への需要があった。会場に掲出されているインテリア写真にロココ調猫脚の椅子、ソファがあったらと考えてみれば、その要求が切実なものであったことが理解できよう。建築家たちはしばしば自ら家具をデザインしたが、ブロイヤーの場合は家具からスタートして建築へと向かった。そこにもまたグロピウスの思想が大きく影響している。
本展では、主として時系列順に、ブロイヤーがヴァイマール時代のバウハウスで手がけた木製家具から始まり、デッサウ時代のスティールパイプの椅子やネストテーブル、スイス・イギリス在住時代のアルミニウムの椅子や、同様の構造を持ったプライウッドの椅子、1937年にアメリカに渡り建築へと仕事の比重を移す中で手がけた家具と住宅建築を見せ、最後にブロイヤーと日本──芦原義信──との関わりが紹介されている。見所はスティールパイプ以前の木製の家具と、バージョンが異なる4つの《クラブチェアB3》だろう。特に後者の微妙な差異(たとえば溶接がビス留めに変更されている)からは、量産に向けて行われたデザインの調整と合理性追求のプロセスが垣間見えて興味深い。
さらに本展では展示デザインに力が入っていることを付記しておきたい。モノトーンでシンプルに見える展示台は、よく見ると色や素材感にこだわっていることが分かる。ガラスケースを用いて資料、写真、テキストをレイヤーに重ねた年表のデザインも面白い。会場構成はLandscape Products。サンセリフ書体で統一されたモダンなデザインの図録は、資料集としても充実した内容だ。[新川徳彦]


展示風景


展示風景

2017/03/15(水)(SYNK)

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里見宗次─フランス・日本・タイのグラフィックス

会期:2017/03/06~2017/04/22

京都工芸繊維大学美術工芸資料館[京都府]

大阪に生まれたグラフィックデザイナー 里見宗次のフランス・日本・タイにおける仕事の全容を紹介する展覧会。同大学美術工芸資料館は、作家自身と遺族より寄贈された資料を多く所蔵している。本展では113点の展示品を通して、アール・デコ様式のダイナミックなグラフィックに留まらない多様な作品群、これまで比較的知られることのなかったタイでの活躍の様子までをも見ることができる。里見家と交流のあった小出楢重の影響からパリ行きを決意、エコール・デ・ボザール(パリ国立美術学校)で油絵を学んだ際のデッサン、デザイナーに転換して「ムネ・サトミ」の名のもと活躍してゆく作品(《ゴロワーズの煙草》(1928)ほか、藤田嗣治や宮本三郎、小磯良平らとの交流を示す資料などがまず展観される。このパリ時代には、消費文化に供する楽しげなイラストレーションを用いた作品も印象的だ。また一時帰国後、日本の商業美術界の発展に尽力、日本郵船やミキモト等から依頼されたグラフィック作品をはじめ、国内外における展覧会やデザイナーたちとの交流を示す資料が展示されている。興味深いのは、バンコクでの仕事。外務省からサイゴンを経てタイへ派遣された里見は、終戦を迎えるまで同地で仕事を行なった。シャム航空のポスターや、現地の人々を描いた水彩画などが目に新しい。タイ抑留中に作家が所有していた作品は、憲兵に没収されてしまったため、里見は自らの作品を再制作した。同館には60点に及ぶ再制作作品があるそうで、本展ではポスター作品とコラージュ・描画によって再び作られた作品とが併置される工夫がなされている。里見の確かな記憶力と作品へのこだわりや愛情を感じる。[竹内有子]

2017/03/16(木)(SYNK)

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小出麻代「うまれくるもの」

会期:2017/03/10~2017/04/09

あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]

2015年に旧公民館を活用して開館した、兵庫県尼崎市のアートセンター「あまらぶアートラボ A-Lab」。そのオープニング展「まちの中の時間」に出展した3作家、ヤマガミユキヒロ、小出麻代、田中健作には、展覧会終了後に約1年かけて同市でフィールドワークを行ない、2016~17年に順次個展を行なうことが、あらかじめプログラムされていた。本展はそのひとつである。今回小出が発表した作品はインスタレーションと言葉(詩)で、3つの部屋と廊下にそれぞれ1点ずつ展示されていた。素材は、印刷物、紙、サイアノタイプ(青写真)、照明、鏡、シリコン製の家型オブジェなどである。本展の印象を一言で述べると「残響のよう」であった。空間に素材としての物質はあるものの、それらの存在感は控えめで、むしろ純化されたエッセンスが充満しているように感じられたからだ。もともと小出はポエティックな表現を得意としている、今回もその資質が十分に発揮されたと言えるだろう。美しい音楽や詩を聞いたあとのような、繊細な余韻に浸れる展覧会だった。

2017/03/17(金)(小吹隆文)

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