2018年07月15日号
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artscapeレビュー

2017年04月01日号のレビュー/プレビュー

風と水の彫刻家 新宮晋の宇宙船

会期:2017/03/18~2017/05/07

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県三田市にアトリエを構えるベテラン作家、新宮晋(1937~)は、風や水などの自然エネルギーを受けて動く彫刻作品で国際的に知られている。彼は東京藝術大学を卒業したあとに渡ったイタリア(1960~66)で、風で動く作品の魅力に気付いたという。その後世界各国の公共空間などに約160点の作品を設置している。また、欧米の諸都市を巡る野外彫刻展「ウインドサーカス」や、作品設置を通して世界各地の少数民族と交流する「ウインドキャラバン」など、アートプロジェクトにも熱心に取り組んできた。本展では美術館をひとつの宇宙船に見立てて、18点の作品を展示している。また、過去のプロジェクトの紹介や模型の展示も行なわれた。空調の風や微弱な対流を受けて動く作品はとても優雅で、時が経つのを忘れて作品に見入ってしまう。また、館内に専用のプールを設けて設置した水で動く作品も、予測のつかない動きと光の反射が美しかった。本展の会場、兵庫県立美術館は、安藤忠雄が設計したことで知られている。その巨大な空間は時としてアーティストや学芸員を悩ませるが、本展の展示構成は本当に見事だった。安藤も喜んでいるだろう。

2017/03/17(金)(小吹隆文)

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秋岡芳夫全集4 暮らしと家具

会期:2017/02/11~2017/03/19

目黒区美術館[東京都]

工業デザイナー秋岡芳夫(1920-1997)が関わった多彩な仕事をテーマ別に紹介するシリーズの4回目は「暮らしと家具」で、「進駐軍のための家具デザイン」(1946)、『家庭の工作』(1953)、《あぐらのかける男の椅子》(1983)が取り上げられている。時期が異なる3つの仕事だが、いずれもモノのデザインに対する秋岡の視線、思想を知ることができる事例だ。
秋岡芳夫は1939年に東京高等工芸学校に入学し、木材工芸科で木工、機械工学、建築、家具、室内装飾などを学び、卒業後は東京市の建築部学校営繕課に就職して学校家具の改良などに携わった。戦後は、商工省工芸指導所の仕事に関わるなかで、進駐軍家族住宅用家具の設計を行なった。しかしながら、秋岡はここから家具のデザインへとは進まなかった。進駐軍家族住宅用の家具は外国人の生活のための調度であり、進駐軍の担当者から椅子のデザインに幾度もダメ出しされるなかで「生活体験のないモノをデザインするのは間違いだ」ということに思い至ったのだ。秋岡が再び椅子のデザインを手がけたのは1980年代。その前、1977年に秋岡はグループモノ・モノから『くらしの絵本─日本人のイス:テーブル』という小冊子を出し、日本人の住宅と体型に合った寸法についての考えを提唱する。そうした思想から、低めで広い座面の《昼寝のできる女の椅子》(1981)、《あぐらのかける男の椅子》(1983)が生まれた。『家庭の工作』(雄鶏社、1953)は、身の回りにあると便利な日用品50数点のつくりかたを掲載した128ページの本で、秋岡が金子至、河潤之介らと工業デザイングループ「KAK」を結成した3ヶ月後に出版された。完成品だけではなく、モノの使用シーンが写真で示されていることや、ものづくりのための道具が写真入りで解説されているところは、まさしく秋岡がいうところの「関係のデザイン」を象徴する仕事だ。[新川徳彦]

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秋岡芳夫全集3 銅版画|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/03/17(金)(SYNK)

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ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『カーネーション─NELKEN』

会期:2017/03/16~2017/03/19

彩の国さいたま芸術劇場[埼玉県]

わずかな違和感がずっと消えなかった。かつて本作は1989年に日本で上演された(初演は1982年)ことがある。筆者は今回が本作初見、でも、90年代以降のバウシュの上演はほとんど見てきた。違和感の正体は、そこにバウシュ(2009年逝去)がいないという感覚である。だからと言って、あそこがなっていないとか、はっきりと不十分と思われる箇所があるというのではない。けれども、どこかヴァーチャルな上演とでも言いたくなるような感触が、見ている間ずっと消えなかった。もちろん、作家の死後に上演(演奏)される作品などいくらでもある。慣れの問題かもしれないが、バウシュの舞台を見るとき、筆者はバウシュの目を常に意識していた、ということなのだろう。あとひとつ思うのは、バウシュの戦略が今日どう映るかということだ。バウシュの「タンツテアター」は意味の宙づりにその戦略がある。バウシュの舞台はほとんどどの作品も、小さなシーンが複層的に重なり進んでゆく。例えば、本作には、男二人が代わりばんこに頬を殴り、殴った頬にキスをするといったシーンがあった。これは暴力なのか愛なのか。単純に二者択一ではない「宙づり」が舞台を知的に躍動的にする。この「宙づり」をかつての筆者だったら「戯れ」の肯定として受け取っていたことだろう。とはいえ、いまそれは「大人の子供化」に映ってしまう。大人の子供化が凄まじく世界を席巻しているのが、いまだ。その時代の中では、かつての「知的な遊び」は「非知的な後退」あるいは「本質的な問いの回避」に見えてしまう。そう見るのを避けたければ、バウシュの試みを歴史的な遺産として受容するのが賢明な態度といえるのかもしれない。バウシュはいまや懐メロなのである。そして、バウシュが(ある種の)コンテンポラリー・ダンスの創始者であったとすれば、明らかに、コンテンポラリー・ダンスは過去のもの、歴史的なものとなったのだ。

2017/03/17(金)(木村覚)

岩渕貞太『DISCO』

会期:2017/03/17~2017/03/19

あうるすぽっと[東京都]

JCDN(ジャパン・コンテンポラリー・ダンス・ネットワーク)が主催する「踊りに行くぜ!!」II(セカンド)は、今年度のプログラムで一旦終了するそうだ。全国をコンテンポラリー・ダンスの上演が巡回する「踊りに行くぜ!!」は、これまで振付家を鍛え、地域にダンスを紹介する大きな役割を果たしてきた。今年度は、アオキ裕キ、山下残、黒田育世と並んで岩渕貞太の上演があって、これが凄まじいものだった。タイトルから連想される通り、アップテンポのポップソングが爆音で流されるなか、岩渕がひとりで踊った。これまでの岩渕は、緻密な身体へのアプローチによって生み出される運動に定評があり、その分、方法に忠実でストイックな印象も受けていた。今作では、そうした活動の軌跡を一旦脇に置きそこから距離をとって、まるで皮が破けて剥き出しの岩渕が出現したかのようだった。途中、リミックスの施された『ボレロ』を背景に流しながら、ニジンスキー『牧神の午後』のポーズをゆったりとした動作で決めると(ライブで岩渕を撮影した映像が舞台奥の壁にディスプレイされ、複数の岩渕の姿が群舞を形作っていた)、官能的なエネルギーが岩渕の身体に充填されてゆくようだった。音楽に刺激されて、岩渕の身体が痙攣の波立ちを起こす。すると美しく柔軟な岩渕の身体が異形の怪物に見えてくる。舞台というものが、どんなケッタイなものでも観客の目の前に陳列してしまう貪欲で淫らなものでありうることを、久しぶりに確認できた時間だった。ダンスは「表象」という次元を超えて生々しく、怪物を生み出す。岩渕の「怪物性」はとくに「呼吸」にあった。音楽の合間に低く(録音された)呼吸音が流れた。それと舞台上の岩渕が起こす呼吸の音。呼吸は命の糧を得る行為であるだけではなく、声や叫びのそばで生じているもの。だからか、吐く息吸う息は観客を翻弄し、縛り付け、誘導する。その意味で白眉だったのは、顔を客席に向けた岩渕が何か言いたそうに微妙に口を震わすシーン。声が出ず、しかし、声が出ないことで観客は出ない声の形が知りたくなり、ますます岩渕が放っておけなくなる。魔法のような誘惑性が舞台をかき乱した。さて、岩渕のではない呼吸音は、どこから、誰が発したものなのだろう。結論はないが、二つの呼吸音が響くことで、舞台は重層化し、舞台の読み取りに複数性を与えていた。尻餅をつき、脚が上がると不思議な引力がかかってでんぐり返ししてしまうところや、とくに四つん這いの獣になって徘徊するところは、故室伏鴻の踊りを連想させられた。「踊りに行くぜ!!」のプログラムとしては、ほかに路上生活経験者との踊りを東池袋中央公園で見せたアオキ裕キ、力のこもった美意識をみっちりと詰め込んで「鳥」をモチーフにして踊った黒田育世、「伝承」をテーマに師匠から振り付けを伝授される人間の戸惑いをコミカルに描いた山下残の上演があった。どれも、わがままで強引な振付家の意志が舞台に漲っており、舞台芸術としてのダンスの異質性を再確認されられる力強い作品だった。ダンスってヘンタイ的でキミョーなものなのだ。そうだった。

2017/03/18(土)(木村覚)

プレビュー:KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017

会期:2017/04/15~2017/05/14

京都市内16カ所[京都府]

京都の歴史遺産、寺社、町家、近代建築などを会場に行なわれるフォト・フェスティバル「KYOTOGRAPHIE」。過去4回の総入場者数は約25万人を数え、年々注目度が上がっている。優れた写真作品と国際観光都市・京都の魅力を同時に味わえるのだから、人気を博するのも道理だ。今年は16会場を舞台に国内外の写真家やコレクションを紹介する。なかでも、二条城二の丸御殿台所東南隅櫓の「アーノルド・ニューマン展」、誉田屋源兵衛 竹院の間の「ロバート・メイプルソープ展」、両足院(建仁寺内)の「荒木経惟展」は注目を集めるだろう。また、美術館「えき」KYOTOの「アニエスベー フォトコレクション」(会期はほかと異なる)も見応えがありそうだ。なお、同フェスティバルでは毎年テーマを設定しているが、今年のテーマは「LOVE」。恋愛や種の保存だけでなく、さまざまな文化的背景を持つ多種多様な愛の姿を提示するとのこと。昨今の国際的な世相に対するメッセージも兼ねているのだろうか。

2017/03/20(月)(小吹隆文)

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