artscapeレビュー

2017年05月15日号のレビュー/プレビュー

花代「hanayoⅢ」

会期:2017/04/08~2017/05/13

タカ・イシイ・ギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

昨年、ベルリンで生まれた娘の点子をテーマに沢渡朔と共作した写真集(『点子』Case Publishing)を刊行し、写真展(ギャラリー小柳)を開催したことで、花代の写真家、アーティストとしての活動にはひとつの区切りがついたようだ。今回のタカ・イシイ・ギャラリー フォトグラフィー/フィルムでの3回目の個展は、原点に回帰するとともに、新たな方向に踏み出していこうという強い意欲を感じさせるものになった。
長年愛用しているハーフサイズのオリンパスペンで撮影された写真群は、何が写っているかということにはほとんど無頓着に、色彩とテクスチャーの戯れにのみ神経を集中しているように見える。その眩惑的なイメージは、まさに何かが生まれ落ちようとしている未分化のカオスそのものだ。さらに今回は静止画像だけでなく、8ミリフィルムによる映像作品も出品している。生まれたばかりの赤ん坊、ウーパールーパー、唇や指、水面の反射などを写したループ状のフィルムには、引っ掻き傷やドローイングが加えられ、映写機がキシキシ、カタカタとノイズを発しながら壁に映像を投影していた。写真、映像を一体化したインスタレーションは、まだとりとめのないつぶやきの反復の段階だが、むろん目指すべきなのは成長や完成ではなく、この子宮内の胎児の段階に永遠に留まり続けることなのではないだろうか。
ギャラリーに置かれていたプレス用のペーパーには、展覧会の協力者として畠山直哉と手塚眞の名前が挙がっていた。かなり異質なこの2人を取り込んでしまうところに「花代ワールド」の広がり具合を見ることができそうだ。

2017/04/13(木)(飯沢耕太郎)

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝─ボスを超えて─

会期:2017/04/18~2017/07/02

東京都美術館[東京都]

ブリューゲルの《バベルの塔》が来る。もちろん1点だけではなく、ロッテルダムのボイマンス美術館から16世紀を中心とするネーデルラントの絵画、彫刻、版画89点が来るのだが、こういうタイトルだとそれ以外の作品が前座みたいでちょっと哀しい。最初は彩色木彫の聖人たちが並んでいて面食らう。その後、ディーリク・バウツやヘラルト・ダーフィットらの生硬な宗教画が続き、やや眠くなってくるが、ヨアヒム・パティニールの不穏な空気を漂わせる風景画で目が覚め、ボスの謎解きみたいな《放浪者(行商人)》と《聖クリストフォロス》の2点で立ち止まり、版画はサーッと横目で見ながら通りすぎて、ようやく真打ちの《バベルの塔》にたどりつく仕掛け。絵を拡大したディスプレイの向こうに鎮座するホンモノを見て、だれもが思うのは「こんなに小さいの!?」。縦60センチ、横75センチだから20号程度なので、実際はそんなにちっちゃいわけではないけど、なにせ壮大な建造物をこと細かに描き込んであるものだから、つい大作をイメージしてしまうのだ。拡大写真もあるけど、せっかくホンモノが来ているんだから、ここはやはり単眼鏡を持参してじっくり堪能したい。

2017/04/14(金)(村田真)

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横浜美術館コレクション展 自然を映す

会期:2017/03/25~2017/06/25

横浜美術館[神奈川県]

ファッションを堪能したあとで、こんどは自然。このギャップが快い。セザンヌの風景画あたりから始まるが、次に来る日本の近代絵画がすべからく西洋の猿真似に見えてしまうのが悲しいところ。と思ったら、チラシにも使われている丸山晩霞や大下藤次郎の清新な水彩画に救われた。日本人はやはり油より水に親和性があるのだろうか、と短絡してみるのも一興かと。

2017/04/14(金)(村田真)

ファッションとアート 麗しき東西交流

会期:2017/04/15~2017/06/25

横浜美術館[神奈川県]

なぜ横浜美術館で「ファッション」なんだろうと頭に「?」を掲げつつ、会場を一巡して「ああそうか」と納得。ファッションとは洋装のことで、幕末に開港した横浜が西洋文化の窓口として「洋服」を採り入れていったからなのだ。といってもみんなすぐに洋服に着替えるわけでもなく、揺り戻しや和洋折衷があったりして、定着するには長い年月が必要だった。だからサブタイトルに「東西交流」の文字が入っているのだ。でもそれをいえば「食とアート」でも「住とアート」でもよかったはずだが、まあ展覧会として見栄えがするのはなんといってもファッションだからね。そんなわけで、展示は幕末の横浜浮世絵から明治初期の日本製洋服(早くも輸出用!)、洋装の肖像画、鏑木清方の美人画、アクセサリーや陶芸、調度品、そして東西交流のツボともいえるファッションに現われたジャポニスムまで、広範囲にわたっている。キモノの型や柄を採り入れたジャポニスムファッションなどは、いま流行してもおかしくないほどハマってる。ハマだからね。

2017/04/14(金)(村田真)

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KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017

会期:2017/04/15~2017/05/14

二条城二の丸御殿ほか[京都府]

毎年4月~5月に京都市内の各地で開催されるKYOTOGRAPHIEも、5回目を迎えた。昨年くらいから、スポンサーの数も増え、充実した展示を見ることができるようになってきたが、今年はさらに規模が拡大し、国際的な写真祭としての運営スタイルがすっかり定着してきた。
今回の写真祭のテーマは「LOVE」。下手すると陳腐になりがちなむずかしいテーマだが、価値観が極端に引き裂かれたこの時代に、あえてシンプルなメッセージを発するという実行委員会(代表/ルシール・レイボーズ、仲西祐介)のメッセージが伝わってきた。ロバート・メイプルソープ、荒木経惟、ルネ・グローブリなど、国際的に名の知られている写真家だけでなく、老夫婦の日常を6年かけて撮影したハンネ・ファン・デル・ワウデの「Emmy's World」(嶋臺ギャラリー)、失踪して命を絶った従兄弟とその祖母を追った吉田亮人の「Falling Leaves」(元・新風館)、沖縄の戦争の記憶を掘り起こした山城知佳子の「土の唄」(堀川御池ギャラリー)など、地味だが着実な仕事をしている作家にきちんと目を向けている。全体的に、ぎりぎりのバランスで構成されたスリリングなラインナップが実現していたと思う。
歴史的建造物、寺院、町家、蔵などの、京都らしい環境を活かしたインスタレーションに力を入れているのも、KYOTOGRAPHIEの特徴といえる。特に今回は、二条城二の丸御殿台所、東南隅櫓で開催されたアーノルド・ニューマン「マスタークラス─ポートレートの巨匠─」展が出色の出来映えだった。おおうちおさむによる展示構成は、鏡を含めたパネルを巡らせ、観客を魅惑的な視覚の迷路に誘い込むようにつくられていた。写真作品をただ見せるのではなく、どの展示も視覚効果に気を配って注意深く練り上げられていることは、特筆してよいだろう。
実行委員会が主催するメインの展覧会だけでなく、サテライト展示の「KG+」も50以上に増えて、充実した内容のものが多かった。シンポジウム、ポートフォリオレビューなども含めて、これだけの数の企画を一日で回るのはむずかしい。だが、何日かかけてじっくり見てみたいと思わせるような写真祭に成長しつつあるのは確かだ。

2017/04/15(土)(飯沢耕太郎)

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2017年05月15日号の
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