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2017年06月01日号のレビュー/プレビュー

東北大五十嵐研のゼミ合宿5 東京国立博物館

東京国立博物館[東京都]

ゼミ合宿の2日目は、上野の国立博物館にて、学芸企画部企画課デザイン室長の木下史青の案内によって、照明、治具、什器、空間との関係など、詳しく案内していただく。本館の展示ケース、リニューアルした東洋館、平成館の照明、法隆寺宝物館の谷口吉生のこだわりなど、普通に作品を鑑賞する環境を整える背後の努力を学ぶ。日本の博物館で常勤のデザイン担当がいるのはまだ珍しい。

2017/04/22(木)(五十嵐太郎)

誕生 日本国憲法

会期:2017/04/08~2017/05/07

国立公文書館[東京都]

今年は1947年5月3日に施行された日本国憲法の70周年。本展は、日本国憲法の原本のほか、マッカーサーによる憲法草案、憲法の作成で使用された英語辞典、国務大臣への任命書など、日本国憲法にかかわる関係資料を展示したもの。理念としての存在を感知することはあっても、日頃その存在を具体的にイメージする機会に乏しい者にとっては、それを目の当たりにすることのできる絶好の機会であった。
とりわけ昨今、これを敵視する一部の政治家によって、日本国憲法はかつてないほど大きな危機に瀕していると言わねばならない。ましてや政治の現場において虚言と虚妄の身ぶりが言葉を次々と破壊している現状にあっては、原理的には言葉の集積にすぎない憲法は、思いのほか脆くも儚い。それが政治権力の野放図な暴走を戒めるための「構成的権力」であったとしても、言葉で構成されている以上、政治権力の横暴を実質的に拘束することは極めて難しいと言わざるをえない。
だからこそ必要なのは、憲法の日常への下降である。それを、世界に類例を見ないコンセプチュアル・アートのひとつとして位置づけることもできなくはない。だが芸術という価値を付与するだけでは、他の芸術的価値の多くがそうであるように、たちまち日常のなかで雲散霧消してしまいかねない。私たちの日常が憲法によって守られているというより、それが憲法によって構成されているという事実を、つねに召喚する仕掛けが必要なのではないか。本展は、そのための機会として極めて重要である。多くの現代人にとっては明文化された憲法を目にする機会じたいが乏しいからだ。
本展で展示されていたように、昭和天皇は日本国憲法公布の日(1946年11月3日)、貴族院本会議場で次のような勅語を下した。「本日、日本國憲法を公布せしめた。この憲法は、帝國憲法を全面的に改正したものであつて、國家再建の基礎を人類普遍の原理に求め、自由に表明された國民の總意によつて確定されたのである。即ち、日本國民は、みづから進んで戰争を放棄し、全世界に、正義と秩序とを基調とする永遠の平和が實現することを念願し、常に基本的人権を尊重し、民主主義に基いて國政を運営することを、ここに、明らかに定めたのである。朕は、國民と共に、全力をあげて相携へて、この憲法を正しく運用し、節度と責任とを重んじ、自由と平和とを愛する文化國家を建設するやうに努めたいと思ふ」。
今も昔も、美術や芸術に携わる者が政治を忌避することは事実だとしても、その美術や芸術そのものが、昭和天皇が宣言した「文化国家」の一部である以上、少なくともそれらが憲法と無縁であることは到底ありえない。日本国憲法を唾棄する者ですら、よもや昭和天皇の言葉を破壊することまではできまい。これらの言葉は私たちの耳にいつまでもこだまするだろう。

2017/04/23(日)(福住廉)

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忘れる日本人

会期:2017/04/13~2017/04/23

KAAT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

三浦基演出、松原俊太郎作「忘れる日本人」@KAAT。突き刺すような凄まじい音圧とヒップホップのごとく、畳みかける言葉の渦。もはや物語は解体され、寓意の波に身を委ねる感じだ。見えない壁に囲まれた閉鎖的な空間において演劇は進行し、終盤に皆で担ぎ上げた中央の舟が右旋回で動く挙句に、カタルシスを迎える。

2017/04/23(金)(五十嵐太郎)

齋藤隆太郎/DOG《対行政住宅》

[神奈川県]

齋藤隆太郎が設計した戸塚の《対行政住宅》を見学する。傾斜した住宅地のややこしい法的条件をクリアすべく、車庫棟と住宅棟に分離して後者の高さを確保し、全体に大きな片流れの屋根を架ける。これが建物のルックを大きく決定している。また室内からは軒下の水平なスリットが気持ちいい。現在、被災地の陸前高田でもプロジェクトに関わっているという。

2017/04/23(金)(五十嵐太郎)

2017 宮本承司展

会期:2017/04/15~2017/04/30

京都・アートゾーン神楽岡[京都府]

半透明の握り寿司という、衝撃的な作品で鮮烈なデビューを飾った木版画家・宮本承司(ほかには、果物、アイスキャンディ、かき氷なども)。個展やグループ展などの度に彼の作品を見てきたが、近年は東京での発表が多く、寂しい思いをしてきた。それだけに期待大で本展に臨んだ訳だが、宮本はその期待を軽々と超えてくれた。モチーフ単体の作品はもちろんだが、寿司ネタの数々やあがり(お茶)などの連作を木箱に納め、竹皮で包んだ《すし折》や、過去作のボツを切り抜いてコラージュした《輪廻その1》(画像)など、ユニークな作品が数多く見られたのだ。宮本の特徴は鋭利なまでにシャープな技術と感性だが、そこに木版画特有の柔らかみ、温かみが加わることにより、バランスの良い作品が生み出される。さらに本展では、旧作を再利用したコラージュという新たな展開が加わった。待った甲斐ありだ。

2017/04/25(火)(小吹隆文)

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