artscapeレビュー

2017年06月15日号のレビュー/プレビュー

OSIRIS Egypt’s Sunken Mysteries

会期:2017/02/10~2017/07/16

リートベルク美術館[スイス]

庭園内にあるリートベルク美術館へ。19世紀の本館の横に、装飾的なパターンを伴うガラスのエントランスをもつ、アルフレット・グラジオーリとアドルフ・クリーシャニッツの設計による新館をつくり、地下で両者をつなぐ。その背後に鹿の頭の剥製風彫像が中央につく建物があり、ちょっとジャン・ジャック・ルクーの空想建築風で驚く。リートベルク美術館は、非西欧系のアートを展示する施設である。常設は時計回りに中国、日本と並ぶが、その次がコンゴなどのアフリカにいきなりジャンプしていた(東南アジアやインドは別棟)。が、普通は横に置かないエリアを隣接させていただけに、平面的な表現を洗練させる日本美術と、荒々しいが、抽象的な立体の造形操作に優れたアフリカの違いがはっきりとわかって興味深い。展示のための什器はクールなデザインであり、ガラスケースで見せる収蔵庫も楽しい。企画はオシリス/エジプト展を開催し、神話の基本知識から最近の研究成果までを扱う。石の彫像の丸みを帯びた表面はつるつるのままで、本当に劣化しない最強の素材である。別館では、インドの細密画を紹介している。

写真:左上から=リートベルク美術館本館、ジャン・ジャック・ルクー風の建築、展示のための什器 右上2枚=新館 右下=収蔵庫

2017/05/14(日)(五十嵐太郎)

チューリッヒ動物園

[スイス]

チューリッヒ動物園へ。いわば学術展示+テーマパーク+ランドスケープがミックスされた場だが、生態系ごと見せる工夫された展示が面白い。特にマーカス・シュイッツ・アーキテクトンによる象舎は建築的に特筆すべき空間だった。コンペで選ばれた亀の甲羅みたいなドームである。これは3層のCLTによる木造の大屋根になっており、ランダムな隙間はガラスを嵌めているかと思いきや、じつは小さな空気膜が入っている。

写真:右下3枚=マーカス・シュイッツ・アーキテクトンによる象舎

2017/05/14(日)(五十嵐太郎)

石川賢治「月光浴 青い星」

会期:2017/04/27~2017/06/19

キヤノンギャラリーS[東京都]

石川賢治は1984年に広告写真の仕事で訪れたハワイ・カウアイ島で、明るい満月の夜に空を飛ぶ鳥を見た。それを何気なく撮影したことから、33年にわたる「月光浴」の旅が始まる。大きな反響を呼んだ最初の写真集『月光浴』(小学館、1990)で、彼の月の夜の写真の魅力にはまった人も多いのではないだろうか。今回のキヤノンギャラリーSでの展示は、「パラオの海底からチョモランマまで」、世界中で撮影された同シリーズの集大成といえるもので、デジタルカメラによる新作も含めて、約90点の作品が闇の中で発光するように壁に掛けられていた。
石川の写真の最大の魅力は、青という色のヴァリエーションの豊かさではないだろうか。むろん、実際に月の光を浴びても、写真に写り込んでいる青い色を直接的に体験できるわけではない。それはむしろ、写真という媒体に変換することで、初めてあらわれてくる色である。とはいえ、その深みのある色相に包み込まれていると、古来、われわれが月に寄せてきたさまざまな感情が、そこに集約されて形を取っているという、強い思いが湧き上がってくる。石川の「月光浴」が、彼の個人的な体験を超えた普遍的な力を備えているのはそのためだろう。個人的には、月の光を浴びてひそやかに息づいている、花やキノコたちにうっとりとさせられた。それらはすべて魔術的な次元に移行していて、昼とはまったく違う顔つきを見せているのだ。月光の下での植物や菌類の美しさ、艶かしさはただ事ではない。
なお展覧会に合わせて、小学館から同名の写真集が刊行されている。収録されている作品の数が展示よりも増えているので、より厚みのある「月光浴」の世界を堪能することができる。

2017/05/16(火)(飯沢耕太郎)

YCC Temporary 大巻伸嗣

会期:2017/04/14~2017/06/04

YCC ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

この場所において現代アートを展示する新シリーズの第一弾である。過去に震災と戦争を経験した横浜の昔の地図を床いっぱいに描きながら、両サイドに被災と失われた眞葛焼のイメージ、そして奥にかつてこの建物がキャバレーとして使われた記憶を重ねる。さらに15分の照明の変化によって、鑑賞者が時間/歴史を追体験する気合の入ったインスタレーションだ。なお、ヨコハマ創造都市センターのすぐ近くに槇文彦による新しい市庁舎が完成する予定で、そうなると、このエリアが一気に大勢の人で賑わう未来が待っている。

2017/05/16(火)(五十嵐太郎)

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森山大道「Pretty Woman & Pantomime」

会期:2017/05/02~2017/06/02

ビジュアルアーツギャラリー[大阪府]

ビジュアルアーツギャラリーは、大阪市北区のビジュアルアーツ専門学校・大阪のなかにある写真作品の専門ギャラリー。1999年から、ほぼ月に一度のペースで企画展を開催しており、今回の「Pretty Woman & Pantomime」展で179回目になる。毎回、意欲的なラインナップを組んでいるのだが、今回の森山大道の展示は特に見応えがあった。
最初のパートに並んでいるのは「ぼくが25歳でフリーの写真家になって一等最初に」撮影した「Pantomime」のシリーズ。近所の産科医院からホルマリン漬けの胎児の標本を借り受けて撮影し、『現代の眼』(1965年2月号)に「無言劇」というタイトルで発表した、まさに彼の処女作というべき作品である。今回の展示には未発表だったカットも含まれており、あらためて森山の原風景というべき謎めいた写真群が、どのように形成されていったのかを辿り直すことができた。
さらに「昨年の春ごろから今年の1月まで、主に東京の路上でスナップした」写真を再構成した「Pretty Woman」のシリーズがそれに続く。こちらはカラー写真が中心で、路上を疾走してイメージを捕獲していく森山の能力が、デジタルカメラを使うことで、衰えるどころか、さらに高まっていることが示されていた。どちらかといえば、モノよりも人間のほうに被写体としての比重がかかっており、2020年の東京オリンピックに向けて、増殖する腫瘍のようにグロテスクに変容しつつある東京の空気感が、見事にすくい取られていた。まさに「処女作と最新作」の2本立て興行であり、現役の写真家による、このようなヴィヴィッドな展示を直接見ることは、写真学科の学生たちにとっても大きな刺激になるのではないだろうか。

2017/05/17(水)(飯沢耕太郎)

2017年06月15日号の
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