artscapeレビュー

2017年08月01日号のレビュー/プレビュー

田嶋悦子展 Records of Clay and Glass

会期:2017/06/10~2017/07/30

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

陶芸とガラスを組み合わせ新たな造形表現を追求する作家、田嶋悦子(1959年大阪市生まれ)の個展。1980年代の新進作家選抜展「アート・ナウ」に出品された《Hip Island》の陶による巨大なインスタレーションの再現展示は、色鮮やかでポップな表現が楽しい。イタリアの反デザインの旗手/エットレ・ソットサスの《巨大な陶器》(1967年)を想起させる。大きな違いは、田島のモチーフが植物の生命を表す造形であること。1990-2010年代にかけての《Cornucopia》シリーズに見られる、どこか古代の幾何図形を思わせるようでいて有機的な陶の形状とそこに接合される、美しい鋳造ガラスの大胆な造形には目を瞠らされる。作家はこの連作で、通常はやきものの表面を覆うガラス質の釉薬を、ガラスのパーツとして置き換えて造形する手法を確立したという。近作の《Flowers》では、陶でできた黄色い花々の群生に、空に向かって伸びる雄蕊のような透明ガラスのパーツが印象的だ。最新作のインスタレーション《Records》(左上図版参照)には、アジサイの葉が転写された陶に、板ガラスが挟み込まれる。室内には100以上のパーツからなるアジサイの葉が並ぶ。鑑賞者が動くたびに、影と光の反射で作品の表情が刻々と変わる。有機的な生命感を伝え、素材の特性を活かした繊細で透明感のある、立体造形としてのやきものに魅了された。[竹内有子]

2017/07/01(土)(SYNK)

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竹中大工道具館 常設展

竹中大工道具館[兵庫県]

2014年秋に移転して、展示を大きくリニューアルした竹中大工道具館。地下が展示会場となる新しい建物には、伝統的な日本建築に用いられている職人芸が随所にちりばめられている。いわば、ミュージアムそのものが過去から現在に至るまでの建築技術を伝える場となっているのだ。美しい木のドアを入って驚くのが、ロビーのダイナミックな天井。国産杉の無垢材を用いて、船底に用いられる組み上げ技術を応用している。中庭には地元/淡路の敷瓦が使われ、土壁を鏝で削り出した壁や、鍛冶が鍛えた館内の案内サインには手仕事の跡が光る。展示物もまた規模が大きくなり増えた。唐招提寺金堂の実物模型や、茶室のスケルトン模型、千代鶴是秀の鍛冶場の再現など迫力たっぷり。大工道具のみならず、建築技術を駆使して作られた実物があるのは、鑑賞者にはやはり見応えがある。実際に見て、触って、木の香りも嗅ぐことのできる五感を活かした展示が同館の特徴。敷地内には美しい庭と茶室もある。未来の世代に継承すべき木の文化、大工の技、それらの伝統と最新技術の発展形を子供と楽しむことができる、またとない場所である。[竹内有子]


茶室のスケルトン模型

2017/07/01(土)(SYNK)

JCDデザインアワード2017 2次審査

会期:2017/07/01

東京デザインセンターガレリアホール[東京都]

JCDデザインアワード2017の審査員を務めた。今回はあまり票が割れず、最後の投票は中村竜治の《JINS 京都 寺町通店》と、若手の百枝優による《丘の礼拝堂》の建築対決になった。時間と変化を取り込む、かなりひねた新築らしからぬデザインvs教会の建築史に接続しようとする新しい幾何学的な天井の違うタイプだが、結果は前者の圧勝である。ともあれ、21世紀以降の傾向だが、今年もインテリアデザインのアワードにおいて建築家が上位に食い込んだ。中村は3度目の大賞である。なお、五十嵐の個人賞としては、《黄金町バザール》を契機に誕生した柿木佑介+廣岡周平による斜めの壁を挿入したギャラリー、《黄金町の切込》を選んだ。このプロジェクトは森田恭通、香港のHorace Panからも個人賞に選ばれ、トリプルでの受賞、ならびに新人賞となった。金賞は逃したが、思いの強い3票を集めたわけである。ちなみに、「JCDデザインアワード2017」では、銀賞かつ新人賞で、五十嵐研出身の伊藤周平が、竹中工務店で担当した《女神の森セントラルガーデン》も入賞した。

2017/07/01(土)(五十嵐太郎)

没後90年 萬鐵五郎展

会期:2017/07/01~2017/09/03

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

萬鉄五郎の没後90年記念展。1997年には没後70年の回顧展が東京国立近代美術館で行なわれたが、10年後にはキリよく没後100年記念展が開かれるだろうか。生誕でいうと、1985年には生誕100年展が鎌倉などを巡回したが、別に10年とか100年単位で企画しなければならない決まりはないので、来年生誕133年記念展を開いてもかまわないわけだ。だれも企画しないだろうけど。ちなみに、萬の初の本格的な回顧展は1962年に鎌倉で開かれたもので、画家が亡くなってから35年もたっていた。そんなわけで今回、約20年周期の大規模な回顧展となる。
萬というと乱暴にいってしまえば、東京美術学校の卒業制作として描かれた《裸体美人》が、日本におけるポスト印象派やフォーヴィスムの代表作とされ、5年後の《もたれて立つ人》が日本のキュビスムの受容を体現する作品として知られている。美術史の教科書にもこの2点がしばしば掲載されるが、そのどちらも東京国立近代美術館の所蔵だから、さすがお目が高いというか、いいとこどりというか。まあ東近が持ってるから日本近代美術史の代表作として祭り上げられた面もあるかもしれない。ともあれ、それ以外の大半の作品は故郷の岩手県立美術館か、萬鉄五郎記念美術館の所蔵品だが、故郷の美術館に大量に入ってるということは、作品がほとんど売れず画家の手元に残っていたことの証でもあるだろう。生前はあまり評価されていなかったのだ。
出品は、油彩が131点、水彩・素描・版画が157点、水墨画が75点の計363点、資料を加えれば442点。途中展示替えがあるとはいえ、これだけのボリュームの展覧会はめったにない。意外なのは水墨画が多いこと。特に故郷に戻ってからと晩年に集中しているのは、売る目的で描いたからか。田舎では(東京でもそうだが)油絵より水墨画のほうが確実に売れるからだ。モダンアートの先駆者という顔を持ちながら、生活のために伝統的な水墨画もこなしたとすれば、画家としての評価に響いたはず。それが美術史的な評価の遅れにつながった可能性もある。
しかし一方で、萬のモダンアートは、先の代表作以外にも《風船をもつ女》にしろ《裸婦(ほお杖の人)》にしろ、日本独特(あるいは東北特有?)の泥臭さが目立ち、それは水墨画との関連で見ていかなければならないかもしれない。特に「水浴」シリーズは素描でも水彩でも版画でも水墨画でも油彩画でも試みられているが、いずれも素材が違うというだけで様式的には大差ない。むしろ初期のころは油彩と水墨を別ものとして描き分けていたのが、相互に影響し合いながら近づいていったといえそうだ。そのへんを水沢勉館長は、「それは二者択一されるべきものではなく、また、そうできるものでもなく、いうならば画家の内部に共生していた」ものであり、それが「萬鐵五郎の創作活動に楕円状の動きをあたえたように思われる」と述べている。たしかにモダンアートだけならわかりやすいが、それだけだとあまりに教科書的すぎてつまらないともいえる。そこに水墨画という異質な要素が介入することで焦点がブレ、モダンアートそのものをも撹乱させる。それが萬の芸術なのだ。と、ここまで書いてふと、これって近代日本の画家の多くにも当てはまるんじゃないかと思ったりして。

2017/07/01(土)(村田真)

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川内倫子『Halo』

発行所:HeHe

発行日:2017/06/27 (限定版)

光背、光輪を意味する「Halo」をタイトルにした川内倫子の新作写真集は、これまでにないほどの強度と緊張感を感じさせる力作だった。冬のヨーロッパで撮影された、巨大な生き物のように空を動き回る鳥の群れ。中国・河北省の、灯樹花と呼ばれる灼熱した鉄屑を壁に打ち付けて火花を散らせる行事。出雲・稲佐の浜の神在月の行事の海──それぞれの写真に直接的な繋がりはないが、全体を通してみると、それぞれの場面に何か大きなエナジーがうごめき、渦を巻いているように感じられる。あとがきにあたる文章(詩)が素晴らしい。

「すべては闇の中にかすかに見える塵のようだ/マイナスの世界できらきら光るさまはほんとうだ/すぐに消え去ってしまうことは残酷な事実だ
塵も雪も雨も鉄くずも同じひとつの球だ/車のボンネットの鳥の糞/それも同じ水玉模様だ
銀河系と渦潮が同じかたちなのは偶然ではない/美しいものが見たいという気持ち/見えないけれど在るものへの畏れ/いくつもの感情を混ぜて抱えて進む/遠くに小さく光るなにかを灯火にして[以下略]」

川内は昨年女の子を出産したと聞いたが、そのような身辺の変化を含めて、より確信を持って写真を撮り、まとめあげていくことができるようになっているのではないだろうか。「見えないけれど在るもの」を感じとることの震えるような歓びが、一枚一枚の写真から伝わってくる。なお、写真集の出版に合わせて、東京都内の2カ所、森岡書店(銀座、6月27日~7月16日)、POST(恵比寿、6月30日~7月23日)で展覧会が開催された。

2017/07/02(日)(飯沢耕太郎)

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