2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

2017年09月15日号のレビュー/プレビュー

兼子裕代「APPEARANCE──歌う人」

会期:2017/08/09~2017/08/15

銀座ニコンサロン[東京都]

気持ちのよい波動が伝わってくるいい作品だった。兼子裕代は1963年、青森県生まれ。明治学院大学フランス文学科卒業後、2002年に渡米し、サンフランシスコ・アート・インスティテュートで写真を学んだ。現在はカリフォルニア州オークランドに在住している。
今回発表された「APPEARANCE──歌う人」は2010年から撮影が開始されたシリーズである。タイトルの通りに「歌う人」を近い距離から撮影している。撮影時間はほぼ20分。そのあいだに「目の前で刻々と変化する感情の発露」の様子を観察し、シャッターを切る。モデルは彼女が住むオークランドやサンフランシスコ近辺の老若男女で、彼らが歌っている曲の題名以外はそのバックグラウンドは明示されていない。にもかかわらず、一人一人の出自や、背負っているものが少しずつ見えてくるような気がするのは、「歌う」ことに集中することによって彼らが普段身につけている厚い殻を脱ぎ捨て、無防備になっているからだろう。展示のコメントに、兼子自身が「外国人として疎外と受容とを繰り返してきた私にとって、その道のりを体現するようなプロジェクト」になったと記しているが、それはモデルになっている一人一人にもいえると思う。
プロジェクトの内容自体も微妙に変化してきている。被写体が「子供から大人へ」、カメラのフォーマットが「正方形から長方形へ」になった。おそらくそれは、兼子の視野が以前より大きく広がってきたことのあらわれなのではないだろうか。もう少し続けていくと、さらなる展開が期待できそうだ。なお、本展は9月7日~13日に大阪ニコンサロンに巡回した。

2017/08/11(金)(飯沢耕太郎)

《山元町立山下第二小学校》《南相馬みんなの遊び場》《あぶくま更正園》

[宮城県]

被災地のプロジェクトを3つ見学する。いずれも素晴らしい作品であり、ようやくデザインのクオリティを備えた復興建築が登場してきた。まず佐藤総合と末光弘和+末光陽子による《山元町立山下第二小学校》は、断面の操作に伴う環境調整のスペックはデータでも理解できるが、ユニット群が中庭ひとつを囲む構成によって学校が成立する、木の小さい空間がもたらす親密なスケール感は現場を訪れないとわからない。隣接施設も彼らが手がけたというが、周囲は完全に津波被災によって移転したニュータウンであり、ここが今後のコミュニティの核となるだろう。
続いて、柳澤潤+伊東豊雄による《南相馬みんなの遊び場》は、原発事故が引き起こした放射線量ゆえに、子どもが屋外で安心して遊べない状況から求められた屋内型砂場という希有なビルディングタイプだった。かわいらしい2つの屋根の下に、ひょうたん型プランの砂場がある。柱と屋根の木造架構が、室内において建築的な存在感をもち、安心感を与えるとともに、周囲に張りめぐらせた開口は安東陽子のカーテンでやわらかさを演出している。
宇野享/CAnの《あぶくま更正園》も、原発に近いために移転や仮設を余儀なくされていた障害者施設の復興建築である。10の個室群×3(男性)、ないし2(女性)がそれぞれ昼間を過ごす共有空間を囲む。特徴的なのは、さまざまな大小の屋根を組み合わせ、広さ以上に気積を確保しつつ、ゆったりとした余裕をもたせ、同時に施設であることを感じさせない、家の集合体のような空間を実現したことだろう。

写真=上から、《山元町立山下第二小学校》《南相馬みんなの遊び場》《あぶくま更正園》

2017/08/14(月)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その2

[北海道]

すすきの北専プラザ佐野ビルは、雑居ビルの5階と地下で展示を行なう。端聡はあいちトリエンナーレ2016と同じく循環系のインスタレーションも出品していたが、光の様態が変化するグレードアップ・バージョンだった。なお、この展示環境を実現するため、天井に相当数のスプリンクラーが新設されていたことにも驚かされた。地下は場の特性を生かし、怪しげな展示の四連発である(まだ営業しているお店も残っており、それをあいだに挟んでいた)。特に印象に残ったのは、キャバクラの内装を残した空間に設置された山川冬樹による福島の映像作品である。本人が山口小夜子のお面をつけて廃墟を歩くのだが、猿が能面をかぶって福島の廃墟を歩く、ピエール・ユイグの映像作品『ヒューマン・マスク』を想起させるだろう。今回のサブテーマが「ガラクタの星座たち」とあるように、レトロスペース坂会館別館、居酒屋てっちゃん、北海道秘宝館の展示は、サブカル・コレクションだった。その結果、横浜トリエンナーレのハイアートによるガラパゴスの星座と好対照をなす(言葉はかぶるが)。なお、春子の部屋の天井内装も凄い。中国風の格天井の下に、45度回転させた格天井を重ねている。シャッターが定期的に上下するAGS6・3ビルでは、建築空間に絡んでいく堀尾寛大の自動機械インスタレーションを挿入する。ただし、地下は調子が悪く、暗闇の中でバチバチと発光しなかった。数年間空きビルだったせいか、外壁を見上げると窓辺に大量の鳩がいつも安心してとまっているのが(実際、入口に鳩の糞注意という表記あり)、とても不気味な風景だった。札幌地下ギャラリー500m美術館の中崎透「シュプールを追いかけて」は、青森のACACで見たスキー展示の延長戦的なものだった。そして資料のリサーチを経て、札幌の冬季オリンピックの記録やスキー用具の変遷を紹介する。やはり本物の歴史は面白い。それにしても、よくオリジナルを公共空間の展示に持ち出せたと感心した。

写真:左上=すすきの北専プラザ佐野ビル 左下=端聡 右=レトロスペース坂会館別館

2017/08/15(火)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その1

[北海道]

札幌国際芸術際2017は、前回とは違って、ビルの空きフロアを活用した街なか展示が増えたのはよいのだが、きちんとしたマップがないために(公式ガイド本もいらいらする内容)、各会場をまわるのに苦労する。まず前回も会場だった札幌市資料館からスタート。ここの三至宝は素晴らしかった。いずれもアーティストの作品ではなく、郵便局長が描いた昭和新山の火山画、実はスイスの発祥らしい木彫り熊コレクション、そして赤平住友炭鉱の資料展示である。特に巨大な坑内模式図は見たことがない複雑さで、美しい図面だった(リベスキンドのマイクロメガスよりカッコいいのでは)。

写真:上から、札幌市資料館、木彫り熊コレクション、坑内模式図

2017/08/15(火)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その4

[北海道]

都心に戻り、再びまちなか展示をめぐる。CAI02では、クワクボらの札幌ブルーラインとさわひらきの過去作の展示を行なう。前者は、これまでのような日用品の集合ではなく、ベタに札幌のランドマークのミニチュアを置き、やたらノスタルジックな音楽を流している。大衆受けはすると思うけど、これではさすがに作品としては後退しているのではないか。またガラクタに注目する芸術祭の趣旨とも違う。金市館ビルの梅田哲也の展示は、上部が空っぽになったデパートのワンフロアをまるごと使い、あいちトリエンナーレの岡崎や豊橋の会場に近い雰囲気だ。おそらくカプセル状の円窓に触発され、球をモチーフにしつつ、ガラクタがメカニカルに連動するインスタレーションである。音響の発生とガラクタの再利用という意味において、今回の札幌芸術際らしさが最もよく出ていると思う。北海道教育大の文化複合施設HUGにて、さわひらきが北海道で制作した新作の映像とインスタレーションを見る。この会場も探すのにえらく苦労した。公式ガイドの粗い地図と鑑賞ガイドと住所一覧をつき合わせても、札幌の一街区は大きいので、結局、近くに来るとしばらく迷う。これは正確に場所をプロットした適度な縮尺の地図がひとつちゃんと用意してさえあれば、解決することなのに。駅前で「サッポロ発のグラフィックデザイン~栗谷川健一から初音ミクまで」展を見る。デザインから切り取る札幌の歴史であり、五陵星や七陵星などのシンボル、オリンピックなど内容は興味深い。札幌の建築もここで少し紹介している。ただ、会場を「プラニスホール」と地図で書かれても、たどりつくのに苦労する。なぜなら、この名称は11階の部分のみを示すものであって、建物全体の名称ではないからだ。地元の人にとっては常識なのかもしれないが、少なくともタクシーの運転手はわからなかった。

写真:上から、札幌ブルーライン、梅田哲也、北海道教育大の文化複合施設HUG

2017/08/16(水)(五十嵐太郎)

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