2017年12月15日号
次回1月15日更新予定

artscapeレビュー

2017年10月01日号のレビュー/プレビュー

生命の表現力 山下清とその仲間たちの作品展

会期:2017/09/02~2017/10/02

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

1928年(昭和3年)に開園し、来年には創立90年を迎える知的発達障害児入園施設「八幡学園」(千葉県市川市)。 その指導の下で何人もの入園者が美術の才能を開花させた。この展覧会ではその代表的な人物である山下清(1922-71)と、山下より年下ではあるが夭折した3人の仲間たち─石川謙二(1926-52)、沼祐一(1925-43)、野田重博(1925-45)─が残した作品が紹介されている。恥ずかしながら、筆者は山下清をはじめ、八幡学園の人々の作品を実見するのははじめて。そしてこれまで見る機会を逃していたこと、映像や印刷で見る素朴な作品をなんとなく敬遠していたことを後悔した。八幡学園の人々が制作した貼り絵、とくに山下清のそれは、単にちぎった色紙で色面をつくっているだけではない。とても立体的なのだ。たとえば、山下清が16歳のときの作品《汽車》(1938年/昭和11年)には貨車を引く蒸気機関車が行き交う様が描かれているのだが、色紙で埋め尽くされた地面の上に何本もの線路が貼られ、その上に汽車や貨車が貼られ、作業に従事する車夫らが貼られ、画面の下、一番手前には、わずかに姿が見える電車の屋根とパンタグラフ、そして細い架線が貼られている。山下清はこれらの作品をその場では描かず、学園に戻ってから記憶だけで描いたと言われるが、彼の記憶が平面的なものではなく、空間を立体的に把握していただろうということが作品からうかがわれる。映像や印刷では伝わりづらいこの立体感の存在を、筆者はこれまでまったく知らなかった。本展をみて、描写力だけではない山下清の作品の魅力がようやく理解できたように思う。
八幡学園には山下清の他にも豊かな美術的才能を持った人々がいた。かつて住んでいた浅草の情景などをクレパスやクレヨンで描いた石川謙二、山下清とは異なりタイルを貼るように平面的に色面を埋めた貼り絵を残した沼祐一、優れたデッサン力がうかがわれる野田重博のクレパス画。山下清より知的障害が重く、山下清よりもずっと若くして亡くなった彼らが、山下ほどの人生を生きることができれば、その間にどれほど多くの作品を残すことができただろうか。さらには、学園にはこの4人以外にも美術的才能をもつ人々がいたと聞く。八幡学園には彼らの才能を開花させる優れた教育があった。そうした教育の中には、ミシン、縫製、園芸、木工、養鶏など、社会復帰を目指すための実科作業もあった。縫いものが得意な人もいただろう。動物の世話が得意な人もいただろう。その中で絵画作品は残り、作者の名前が記憶されている。しかし私たちは美術以外で才能を発揮していたであろう人々の存在もまた忘れるわけにはいかない。[新川徳彦]

2017/09/02(土)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00041598.json s 10139643

マンチェスター市立美術館

Manchester Art Gallery[イギリス]

産業革命の中心地となった、工業都市のマンチェスター。マンチェスター市立美術館は、シティセンターに偏在する歴史的建築群のなかでも、その威容を誇っている。3棟が連結された建築の主要部は、1823年にチャールズ・バリー卿によって建設されたもの。また同美術館は、とくにラファエル前派のコレクションで知られる。ラファエル前派のメンバーたちと交友関係にあったフォード・マドックス・ブラウンの絵画作品《労働》(1852-1865年)は、その白眉ともいえよう。地方都市に、なぜ19世紀当時の前衛アートが収集されたのか興味深いところであろう。実は同時代美術のパトロンには、中産階級の工場主や製造業者、産業資本家たちが多かった。彼らは、マンチェスターの綿織物に必要なデザインと色彩の美的感覚と趣味を向上させるために、芸術振興にも熱心だったのだ。館内には、ヴィクトリア時代の装飾芸術コレクションもたくさんある。モリス商会やアーツ&クラフツの室内装飾品、唯美主義運動の家具など。筆者が訪れた折には、「南アジアのデザイン」と題された企画展が開催されていた。インド、スリランカやパキスタンの伝統的な工芸品と現代の工業製品が展示され、やはりここでも19世紀に収集されたインドの手仕事による高品質なテキスタイルが際立っていた。[竹内有子]

2017/09/02(土)(SYNK)

Plywood: Material of the Modern World展

会期:2017/07/15~2017/11/12

ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館[イギリス]

成型合板の椅子は、戦後家具の代表的存在といっていい。軽くて丈夫で廉価、そして曲面の美しい造形を可能にした。本展は、「合板」という素材がいかに現代の生活に貢献してきたかについて、デザイン文化に係る多様な資料をもって検討している。そもそも各種資材としての合板が普及したのは19世紀。第二次世界大戦下の米国では軍需産業でも使われた。本展では、19世紀のシンガーミシンのカヴァーに使われた合板、チャールズ・イームズが傷ついた兵士のためにデザインした合板の添木、マルセル・ブロイヤーやアルヴァ・アールトらモダン・デザインの旗手たちによる流麗な形の椅子、車などの乗り物、図面などが展示されている。木の切削、成型、コンピュータ数値制御システムによるカット作業(CNC Cutting)という、加工プロセスに準じた章立てで展示品を構成しており、近代から21世紀までの製造技術にフォーカスしている。デジタル時代における合板の意味に配慮しながら、ものの「素材性」を際立たせた展覧会。[竹内有子]

2017/09/03(日)(SYNK)

サーペンタイン・パヴィリオン2017

会期:2017/06/23~2017/11/19

サーペンタイン・ギャラリー[イギリス]

ロンドンの夏の風物詩、今年のサーペンタイン・パヴィリオンを手がけたのは、アフリカ出身でベルリンを拠点に活躍する建築家、フランシス・ケレ。筆者は2012年、ヘルツォーク&ド・ムーロンのパヴィリオンを見て以来、訪れるのは2回目。その限られた経験でいうと、最初はとてもコンパクトでシンプルな構造の建築に見えた。アフリカの布の幾何学的パターンを思わせるようなデザインで木造ブロックを組んだ外壁の色は、インディゴ・ブルー。ハイドパークという緑の木々に囲まれた立地では、非常に鮮やかな色彩だ。上に向かって張り出す木の天蓋は、雨や暑さをしのぐ働きをするのみならず、その機能は建物全体へと拡張している。出入口は多く(4つ)、オープン・エアで、漏斗状の屋根の中央では雨を集めて床に逃がしたうえに、公園敷地の注水に資する仕組み。シンプルな構造に見えながら、変化しやすいロンドンの天候に合わせた合理的な建築だ。建築家は、故郷の自然の「木」をインスピレーションにしたという。アフリカでは、大きな木の下で人々は語り合う。それはいわば日常生活に根差した必須の「場」である。その企図を知ってか知らずか、夏のロンドンの日差しのもと、人々は屋内のカフェでお茶を飲みながら語らい、屋外の芝生では子供たちが楽しそうに遊びまわっていた。[竹内有子]

2017/09/04(月)(SYNK)

人長果月展─Biosphere─

会期:2017/09/05~2017/09/16

galerie 16[京都府]

人長果月はインタラクティブなビデオインスタレーションをつくり続けているアーティストだ。今回の作品は「biosphere」(生物圏)と題されており、森の木々や草花、動物たち、池の水面や魚などを撮影した映像が幾重も重なったものだ。そして画面の前を人が横切る、動くなどすると映像のレイヤーがほころんで、隠れていた映像が垣間見える。また展示室の端には光源と回転するレンズが設置されており、そこから放たれた光が映像に干渉する仕組みにもなっている。タイトルからも窺えるが、本作のテーマは近年変調が著しい地球環境への危機感であろう。また本作のもうひとつの特徴は、音楽の効果的な使用だ。レガートな和音から成るオリジナル楽曲は、「カノン進行」と呼ばれる有名なコード進行でつくられており、映像に荘重さを加えていた。それはまるでレクイエムのようであり、作品を見続けるうちに、自分が人類滅亡後の世界にひとり生き残って、失われた自然を懐かしんでいるかのような気持ちにさせられた。

2017/09/05(火)(小吹隆文)

2017年10月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ