artscapeレビュー

2017年11月15日号のレビュー/プレビュー

《ダンシング・ビル》

[チェコ、プラハ]

前回の訪問時はオフィスだったフランク・ゲーリーの《ダンシング・ビル》は、現在一部がホテルとなったので、少し高かったけど宿泊してみた。ダンサーのフレッドとジンジャーに形態をなぞらえた踊るビルである。ジンジャーのガラスのスカートあたりの部屋なので、180度くらいのワイドビューが確保され、めちゃくちゃ視界がよく、川の向こうのプラハ城まで見える。最上階のバーでは、ひっきりなしに観光客が来て、眺望を楽しむ。ゲーリーの建築は、やはり当初は古都プラハの景観を破壊するという反対が多かったらしい(実物は意外に両隣の建物との関係も考慮しつつ、ヴォリュームの構成などよく練られていると思うけど)。が、いまや土産屋でプラハ城と並んでミニチュアがあったり(チェコ・キュビスムはないのに)、新しい街のランドマークとして認知されている。

2017/09/20(水)(五十嵐太郎)

チェコ・キュビスム建築

[チェコ、プラハ]

《黒い聖母の家》ほか、幾つかのチェコ・キュビスムの建築を再訪する。展示でオットー・グートフロイントの彫刻もあるのはよいのだけど、キャプションなどで、キュビスムとの関連をあまり説明していないのは残念だ。とはいえ、ゴチャールやヤナークらの家具をこれだけまとめて見られる場は貴重である。チェコ・キュビスムのデザインは、アールデコの前哨戦のようにも見える。

写真:左上・左中=《黒い聖母の家》 左下=ロンド・キュビスムのアドリア宮 右上=家具の展示 右中=オットー・グートフロイントの彫刻 右下=キュビズムの街灯

2017/09/20(水)(五十嵐太郎)

プラハ城

[チェコ、プラハ]

プラハ城を再訪するが、目的は古建築ではなく、プレチェニックによるヘンタイ的な改修のみだ。前回見落としていた箇所が複数あったことに気づく。ものすごくヘンなデザインをあちこちに挿入しているのに、膨大な数の観光客で他にそれを見ている人が誰もいない。ガウディほど明らかにヘンでもない、ぎりぎりのラインか。ワグナーの影響を受けたデザインもあるが、日本では古建築のある環境にプレチェニック的な操作をしたら怒られそうだ。彼とその弟子が継承した改修のデザイン展も城の一角で開催中だったが、そこだけ見事に閑古鳥である。続いてプレチェニックの《聖心教会》へ。前回なんじゃこりゃと一番のけぞった建築である。モダニズムを切り開く《トゥーゲンハット邸》と完全に同時代なのだが、お前はいつの時代から来た人間なのかと言いたくなるような時空を超えたデザインだ。今回は修復中のため、両サイドのオベリスクを含む外観一部とあの奇妙な照明を吊り下げた内観は見ることができなかった。

写真:左・右上・右中上=プラハ城 右中下・右下=《聖心教会》

2017/09/20(水)(五十嵐太郎)

《聖ミクラーシュ教会》

[チェコ、プラハ]

ディーツェンホーファーが設計した《聖ミクラーシュ教会》は、東欧ゆえに、逸脱が激しいバロック建築である。一部修復中のためか、今回は上階も上がることができ、単眼鏡で天井近くの細部を観察した。おかげで、石材、木材、漆喰、絵画の空間イリュージョンという四種類の仕上げで、精度のレベルを巧みに使い分けしていることが確認できる。同じバロックでも、ボロミーニは精密だけど、結局、ここまで巨大な空間をつくらなかった。またサンティーニは東欧の片田舎できわめて独創的な形態ながらも、低予算で仕上げに難ありの作品を手がけている。これらと比べることで、大都市のプラハでディーツェンホーファーがなしえた教会建築の意味がだいぶわかった。

2017/09/20(水)(五十嵐太郎)

窓学10周年記念 窓学展「窓から見える世界」

会期:2017/09/28~2017/10/09

スパイラルガーデン(スパイラル1F)[東京都]

青山のスパイラルにて、筆者が監修した窓学10周年記念展がオープンした。内容は二部構成になっており、ひとつはこれまでの10年のリサーチの成果から、小玉祐一郎、五十嵐、中谷礼仁、村松伸+六角美留、佐藤浩司、塚本由晴の研究展示である。もうひとつは、窓に触発された新作を発表するレアンドロ・エルリッヒ、ホンマタカシ、鎌田友介による現代アートだ。会場がせっかくのスパイラルなので、ただの研究発表とせず、窓に関係する現代アートを軸にしながら、研究の展示という形式に挑戦し、建築以外の人も楽しめるような内容を目指した。最終的には入場者が1万5千人を超え、大盛況となったのも、アートの力が大きかったと思われる。

写真:上=研究室展示 左中=レアンドロ・エルリッヒ 右中=ホンマタカシ 下=鎌田友介

2017/09/27(水)(五十嵐太郎)

2017年11月15日号の
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