2017年12月15日号
次回1月15日更新予定

artscapeレビュー

2017年12月01日号のレビュー/プレビュー

美術工芸の半世紀 明治の万国博覧会展[III] 新たな時代へ

会期:2017/10/21~2017/12/03

久米美術館[東京都]

幕末から明治期にかけて日本が参加した万国博覧会と美術工芸を取り上げる3回シリーズの最後は、第5回パリ万博(1900年/明治33年)とセントルイス万博(1904年/明治37年)への日本の参加を、出品された美術工芸品や久米美術館が所蔵する資料などで見る。
アール・ヌーヴォーの全盛期に開催された19世紀最後の万博となった1900年のパリ万博は、歴代のパリ万博と比べて規模、出品数、入場者数において最大規模となった。日本は法隆寺金堂をイメージした日本館を建造し、そこに791点にのぼる美術工芸品を展示している。この万博で日本は初めて美術部門に正式出品し(それまでは工芸、装飾品として扱われていた)、日本画、油画、彫塑あわせて191名の美術家が作品を寄せた。満を持しての出品だったが、評価は低かった。展示スタイルもひどかった。残された写真を見ると壁面の上部まで何段にもわたって作品がかけられており、とても鑑賞に適しているように見えない。とりわけ油彩画は凡庸との評価だった。しかしながら日本の洋画家たちはめげなかったようだ。この万博の事務官であり出品者でもあった久米桂一郎は欧米人の日本趣味をセンチメンタルと一蹴。当時パリに集った日本の洋画家たちは帰国後、自らの画業を犠牲にして美術教育、美術行政に尽くすことになったのだという(本展図録、107-109頁)。
他方で1904年に開催されたセントルイス万博は、フランスからのルイジアナ州購入100周年を記念したものだった。日本は日本庭園に平安時代の寝殿造りを模した本館、金閣寺を模した喫茶店などを設置。また二代川島甚兵衛は伊藤若冲の絵画を綴れ織りで再現して展示した「若冲の間」を制作、金賞を受賞している(この作品は閉会後にニューヨーク商工会議所に寄贈されることになったが、輸送中の船舶火災で焼失してしまった)。本展ではこのほかに第5回内国勧業博覧会(1903年/明治36年)が資料で紹介され、博覧会が商取引の場から次第に遊園地化する様子が示されている。
本展チラシに大きく取り上げられている陶器「信天翁大鉢」(1900年)は、陶磁器の絵付窯である瓢池園を創設した河原徳立が第5回パリ万博に赴いた際に日本陶磁のデザインの参考にするために買い求めたもの。第5回パリ万博では帰国後に京都高等工芸学校で教鞭をとることになる浅井忠もまた参考用の陶磁器などを購入している。折しもヨーロッパではジャポニスムが終焉を迎えて日本の工芸輸出は衰退しつつあり、まさに日本の美術工芸が新たな時代へと入ろうとしていた頃のことである。[新川徳彦]

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2017/11/17(金)(SYNK)

林勇気「私は猫を猫として認識する」

会期:2017/11/17~2017/12/03

Gallery PARC[京都府]

自分や他者が撮影した膨大な写真をデジタル化し、それらを切り抜く、重ね合わせるなどした映像作品で知られる林勇気。彼が今個展でテーマにしたのはAI(人工知能)の普及により今後変容を迫られる「像」のあり方や、人間とAIの関係である。ちなみに謎めいた展覧会名は、2012年にグーグル社が開発したAIが約1000万枚の画像を見続け、人から教えられることなく猫を猫として認識したエピソードに基づいている。肝心の出展作品は、グーグルで検索した猫以外の動物の画像を、AIが組み込まれたプログラムによって猫化させる《Chimera》、展覧会DMに使用した猫の画像を数値化し、膨大な文字コードが集積した平面作品に変換した《times-cat》、「猫」で検索して出てきた猫以外の画像を分解して画面上に浮遊させ、それらが徐々に集積して最後は画面を埋め尽くしてしまう《IMAGE DATA-A to Z》(画像)など4点。AIの進化はこれから本格化するので、本展の作品が未来を予見しているとは言い難い。しかし、今日的なテーマに取り組み、可能性の一端を見せてくれたのは確かだ。先駆的な一例として、本展は評価に値する。

2017/11/17(金)(小吹隆文)

若手芸術家支援企画 1floor2017 合目的的不毛論

会期:2017/11/18~2017/12/10

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

「1floor」とは神戸アートビレッジセンターが2008年から行なっている公募展で、30歳未満の作家を対象とする若手支援企画だ。同センターの1階に向き合う「KAVCギャラリー」とコミュニティルームの「1room」をひとつの空間とみなし、展覧会プランを作家自身がつくり上げる点に特徴がある。10回目となる今回は大前春菜、菊池和晃、澤田華が選ばれた。個々の作風を説明すると、大前は肉体の皺やたるみを感じる彫刻をつくる作家。菊池は身体表現を用いることが多く、社会と対峙する作品や美術史を参照した作品を制作している。澤田は写真に写りこんだあいまいな図像やノイズをモチーフに、綿密な調査と意図的な誤読を繰り返して考察する過程そのものを作品にしている。このように作風が異なる3人がひとつの展覧会をどのようにつくり上げるのか、そこに本展の面白さがあった。では実際の展覧会はどうだったのかというと、3人がそれぞれの世界を構築しつつ、それでいて一体感も感じられるバランスの良い展覧会に仕上がっていた。最初に「合目的的不毛論」というキーワードを導き出せたのが勝因だろうか。じつは筆者は今回の「1floor」で審査員のひとりを務めており、作風がそれぞれ異なる3人を選出したことに期待と不安を抱いていた。彼らがこちらの期待を上回ってくれたことに、素直に感謝したい。


上=澤田華の作品、下=左から大前春菜、菊池和晃の作品

2017/11/18(土)(小吹隆文)

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グッドデザインエキシビション2017

会期:2017/11/01~2017/11/05

東京ミッドタウン[東京都]

今年度のグッドデザイン賞は、審査対象数4,495件から1,403件が受賞した。審査対象数は昨年度より410件、受賞数は174件増加した。グッドデザイン賞大賞を受賞したのは「カジュアル管楽器[Venova]」(ヤマハ株式会社)だった。「Venova」はサクソフォンのような吹き心地と音色を奏でられる新しい管楽器。素材はABS樹脂製で、長さは460mm、重さ約180g。通常のソプラノサックスの重さが1kg程度なので圧倒的に軽く、樹脂製なので水洗いも可能だ。価格も安い。審査委員評では表面的なスタイリングではなくデザインと構造が一体となって新しい楽器を創り出した点と、優しい指使いを実現した点が評価されている。大賞候補が発表されたとき、その中に楽器が入っていたことに少々驚いたのだが、なるほどデザインの自由度が高い電子楽器ではなく、アコースティックな新しい楽器を開発するというプロセスは、プロダクトデザインの本質を見せてくれるすばらしい事例だと思う。
グッドデザイン賞受賞デザインが展示されるエキシビション会場を回って印象的だったのは、アジア諸国のデザインの水準の高さだ。中国からの受賞件数は、2016年度の34件から75件に倍増。台湾は59件から86件へと1.5倍弱増えている。とくにIT、家電関連でのプレゼンスは圧倒的だった。他方で、大賞、大賞候補には内向きな印象を受けた。もちろん大賞の「Venova」も、金賞となった「うんこ漢字ドリル」(文響社)も、その他の候補もデザインの優れた実践であることは間違いないのだが、社会的な諸問題に対するデザインからのアプローチという大きな視点が筆者にはあまり感じられなかった。これは審査側の問題なのか、それとも応募側の問題なのか、あるいはコンセプトへの評価から実践的なデザインへの回帰ということなのだろうか。[新川徳彦]


グッドデザイン賞大賞「カジュアル管楽器 [Venova]」(ヤマハ株式会社)

公式サイト:http://www.g-mark.org/gde/2017/index.html

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グッドデザインエキシビション2016|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/11/1(水)(SYNK)

橋本優子『フィンランド・デザインの原点──くらしによりそう芸術』

発行:東京美術

発行日:2017/04

日本でとても人気が高いフィンランドのデザイン、そのフィンランドらしさとはなにかということについて、宇都宮美術館の橋本優子学芸員が歴史的視点から紐解く1冊。
フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、デンマークのモダン・デザインは、しばしば「北欧デザイン」と総称される。しかしその風土、国家の成り立ち、産業には大きな違いがあり、その違いがこれらの国々のデザインに反映していることが見えてくる。本書は最初にフィンランド・デザインのフィンランドらしさの背後にある地理的条件、スウェーデンとロシアによる支配と1917年の独立、近代化の過程について解説した後、第1章ではテキスタイルやプロダクトのデザイン、第2章では建築を取り上げて「フィンランドらしさ」の特徴を知り、第3章でフィンランド・デザインの源流、背景にある民族アイデンティティについて読み解いてゆく。
本書を通じて繰り返し語られるのは「地域性」「独自性」と「普遍性」だ。工業化、大量生産、大量消費を前提に登場してきたモダン・デザインにおいては「普遍性」が課題となる。しかし普遍的デザインの前提には、時代や風土によって異なる人間がいる。そうした違いを前提にしてすべての人にとってよいデザイン──ユニヴァーサリティ──に先鞭を付けたのがフィンランドの独自性であり、フィンランド・デザインのフィンランドらしさだという。しかし、それはどのように具体的な形となってフィンランド・デザインに現れているのか。それがおそらく第3章で語られる「冬景色」「森と湖の国」「雪・氷の世界」そして民族叙事詩『カレヴァラ』ということになろうか。
図版が充実している本書であるが、入門書として読むにはややハードルが高い。できれば橋本学芸員が企画に関わり2012年から2013年にかけて巡回した「フィンランドのくらしとデザイン」展の図録と合わせて読むことで、フィンランド・デザインについてより理解が深まると思う。個人的には、本書がフィンランド・デザインにおける企業とインハウスデザイナーの重要性に触れている点と、ムーミンに触れていない点を評価したい。他方で、ノキアのプロダクトについてもフィンランド・デザインの文脈で読み解いてもらえないものだろうかと思う。[新川徳彦]

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2017/11/20(月)(SYNK)

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