2018年12月01日号
次回12月17日更新予定

artscapeレビュー

2018年03月01日号のレビュー/プレビュー

ホー・ツーニェン『一頭あるいは数頭のトラ』

会期:2018/02/11~2018/02/18

KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ[神奈川県]

国際舞台芸術ミーティングTPAMでシンガポール出身の映画作家/ヴィジュアルアーティストであるホー・ツーニェンの「自動化された影絵劇」、『一頭あるいは数頭のトラ』が「上演」された。東南アジアにおける人間とトラの関係を中心に置いた本作。“We are tigers, weretigers.”(我らはトラ、トラ人間だ)と歌うCGのトラの姿はユーモラスだが、構成は複雑かつ巧みだ。

観客は向かい合った二つのスクリーンに挟まれて作品を鑑賞する。二つのスクリーンを一度に視界に収めることはできない。観客は狭間に立ちながら、同時に二者択一を迫られる。鑑賞は常に、背後にもう一方の気配を感じながらのことになるだろう。そちらは映像を投射するプロジェクターの置かれた、つまり、起源の方向でもある。この構図は物語内でも反復される。トラ人間は月光を受けて真の姿を現わすが、月光は太陽光の反射でしかない。月と向き合うトラ人間の背後には、真の光源たる太陽が隠れている。

[撮影:前澤秀登]

作品を通して、起源は常に相対化、複数化されていく。それが最高潮に達するのが、スクリーンの背後から影絵芝居の人形が現われる瞬間だ。光の像たる映像に対し影絵は影の像であり、両者はともに光によってかたどられながら、その表裏は逆転した関係にある。光源は人形を挟んだ向こう側だ。観客がそれまで見ていたものは裏側に過ぎないのかもしれない。いや、この言い方も正確ではない。それが影絵芝居であるならば、観客の位置はそのままでいい。だが、人形がスクリーンなのだとしたら? 観客は向こう側に映る絵を見る術を持たない。複数の光源は複数の視点の存在を暗示する。そういえば、screenという単語には目隠しという意味もあった。

ホー・ツーニェンはこれまでにも同じモチーフを使った作品を繰り返し発表してきている。それもまた、起源を複数化する行為だ。複数の作品の記憶は鑑賞者の中で混じり合い、また新たな起源を創造するだろう。一頭のトラの背後には、複数のトラが潜んでいる。

[撮影:前澤秀登]

One or Several Tigers ( 2017 ) by Ho Tzu Nyen, courtesy of the artist

公式サイト:https://www.tpam.or.jp/program/2018/?program=one-or-several-tigers
参考URL(映像):https://aaa.cdosea.org/#video/w

2018/02/18(山﨑健太)

BankARTスクール2018 2月-3月期 横浜建築家列伝vol.4 五十嵐太郎+磯達雄

会期:2018/02/12、02/26

BankART Studio NYK[神奈川県]

筆者が建築ジャーナリストの磯達雄と担当するBankARTスクールの横浜建築家列伝のシリーズ、第4弾が行なわれた。2月12日は坂倉建築研究所の萬代恭博を招き、お話しいただく。1960年代に建設された神奈川県庁の新庁舎の免震による増改築プロジェクト(場所を移転し、高層ビルを新しく建てる横浜市庁舎とは対照的)、シルクセンター、ポストモダンの時代を反映し、装飾的な記号を導入した人形の家や山下公園再整備など、横浜の作品をひもときながら、同時代の渋谷や新宿のプロジェクトが紹介された。改めて坂倉準三は、日本では珍しく単体としての建築を終わらせず、都市デザインを展開しようと考えていた建築家だということがよくわかる。また興味深いのは、かといって丹下健三とは違い、家具レベルのヒューマン・スケールも同時に設計したり、鉄道会社や百貨店など、民間の事業に取り組んでいたことだ。

2月26日は、tomato architecture(冨永美保+伊藤孝仁)をゲストに迎えた。富永はまだ20代だから、シリーズでは最年少だろう。《CASACO》ほか、東ヶ丘のまちにおける一連の仕事や真鶴の改修など、せざるをえないリノベーションの世代である。《CASACO》は筆者が企画した「3.11以後の建築」展の「住まいをひらく」のセクションに入るようなプロジェクトであり、この展示を契機に着想した「リレーショナル・アーキテクチャー」の概念にどんぴしゃの活動を行なう。実際、彼女が東京藝術大学の助手を務めたときの被災地の雄勝町でのヒアリングが影響したらしい。冨永が学部3年次に企画した建築女子展で初めて知り、その後、2011年にせんだいデザインリーグで審査を担当したときに日本一に選ばれたが、味のあるドローイングは変わらない。伊藤孝仁は筆者がお題を決めたTEPCOインターカレッジデザイン選手権のコンペで2度優秀賞を獲得していた。学生のときから間近で目撃した建築家である。

2018/02/26(月)(五十嵐太郎)

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