2018年11月15日号
次回12月3日更新予定

artscapeレビュー

2018年11月01日号のレビュー/プレビュー

Artists in FAS 2018 入選アーティストによる成果発表展

会期:2018/10/06~2018/11/25

藤沢市アートスペース[神奈川県]

藤沢市アートスペースは美術館ではなく「美術振興施設」。したがって展示室もあるが、若手アーティストを招いて制作から発表まで行なえるレジデンスルームを備えているのが特色だ。今回は公募に入選したアーティスト3人(金沢寿美、熊野海、熊倉麻子)と特別賞受賞アーティスト(二ノ宮久里那)が、3カ月間ここで滞在・制作した成果として作品を展示している。

いちばん大きな部屋で見せているのが金沢の新聞のドローイング。大きな台の上に貼り合わせた新聞紙を載せ、鉛筆で黒く塗り込めていく。ところどころ見出しや画像を残しているので、暗黒の宇宙のなかにトランプ大統領や台風の被害が浮かび上がってくる。すでに何度か見た作品の延長だが、壮大なライフワークとなりつつある。熊野は多彩なイメージを重層的に組み合わせた巨大絵画を発表。二ノ宮はビル内の吹き抜け空間いっぱいに布による巨大オブジェを吊るした。アーティスト・イン・レジデンスの目的は、ふだんとは異なる環境で制作のモチベーションを高めるためとか、一定期間制作に集中するためとか、アーティスト同士の交流を図るためとかいろいろあるが、やはり自宅では不可能な超大作を生み出す場としてレジデンス施設は必要だ。とくに土地の狭い日本では(逆に、土地の狭い日本で超大作が必要かという議論もあるが)。

2018/10/12(村田真)

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ルーベンス展─バロックの誕生

会期:2018/10/16~2019/01/20

国立西洋美術館[東京都]

ルーベンスはほかのどんな画家よりも才能に恵まれ、どんな画家よりも強力なパトロンに支えられ、どんな画家よりも多くの弟子を従え、どんな画家よりも多くの作品を残した。ヨーロッパの一流美術館を訪れると、必ずルーベンスの作品がある。いやあるのは当たり前で、何十点持っているかを競い合う。しかし、というか、だからというか、代表作を1点だけ挙げろといわれると困る。アントウェルペン聖母大聖堂の三連祭壇画は「フランダースの犬」で有名だが、この児童文学は日本でしか人気がないし、ルーヴル美術館の《マリー・ド・メディシスの生涯》は労作だが、24点の大連作なので「1点」には絞れない。レンブラントの《夜警》やベラスケスの《ラス・メニーナス》みたいな「これ1点!」というのがない。だからルーベンスというと、なんとなくふくよかな裸婦のイメージがあるだけで、明確な像を結べない。これほどの大画家なのに、いまいち人気がないのはそのためだろう。

今回はイタリアで画家修業した初期の作品を中心とした展示構成。ところどころ《ラオコーンの胸像》や《ベルヴェデーレのトルソ(石膏像)》など古代の彫刻が置かれ、ルーベンスがそれを参照したとおぼしきイタリア時代の作品と見比べることができる。2メートル3メートルを超す無駄にでかい作品も多いが、大作になればなるほど弟子の筆が入っている確率が高いので、かえってリヒテンシュタインが所蔵する《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》や、国立西洋美術館の《眠るふたりの子供》といったプライベートな小品のほうが、画家本人が描いたことが確実なため見るべき価値があると思う。昔は西洋美術館にはルーベンスの小品がたった2点しかないことに呆れたもんだが、最近はなかなか悪くない選択だったと思えるようになった(もう1点は《豊穣》)。同展には西洋美術館からさらにもう1点出ているが、これはルーベンス作として買ったものの、後にヨルダーンスに帰属と判定された《ソドムを去るロトとその家族》。

2018/10/15(村田真)

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ハービー・山口「時間(とき)のアトラス」

会期:2018/10/17~2018/11/10

Kiyoyuki Kuwabara AG[東京都]

ハービー・山口の写真展も、ありそうであまりない展示だった。東京・馬喰町のKiyoyuki Kuwabara AGの会場の壁には、写真のフレームが21個並んでいた。それそれのフレームには、対になった2枚のプリントがおさめられている。なぜ2枚なのかといえば、「相似形のテーマ」で撮影された写真を、対比するように並べるというのが今回の展覧会のコンセプトだからだ。

例えば、東京・五反田で撮られた写真には日の丸の旗が、ロンドンの写真にはイギリス国旗が写っている。京都とモロッコの写真を繋いでいる「相似形のテーマ」は石の階段だ。ほとんど同じポーズで窓から顔を出している人物を写した中目黒の写真には老婆が、フィンランドの写真には少女が写っている。東京とパレスチナで、赤ん坊を抱く若い母親を撮影した写真もある。寺山修司の写真と、パンクロッカーのジョー・ストラマーの写真を見て思わず唸ってしまった。二人ともテーブルの上に足を投げ出しているのだ。

「相似形のテーマ」を膨大な量の写真群から見つけ出し、その取り合わせを考えて写真を選び、並べていくハービー・山口の眼力と手際は鮮やかとしか言いようがない。しかも、それらが意地悪で批評的な視点ではなく、あくまでも「幸せそうな人々や、美しい人々や光景の写真を撮る」というポジティブな狙いで選ばれているところに、彼の写真家としての真骨頂がある。見れば見るほど、味わい深い、深みのある感情の波動が伝わってくるいい展覧会だった。誰でも同じようなことは思いつきそうだが、おそらく実際に写真を並べてみるとスカスカになってしまうのではないだろうか。ハービー・山口の写真家としての50年近い経験の厚みが、豊かな膨らみを持つ展示に結びついていた。

2018/10/17(水)(飯沢耕太郎)

クロダミサト「裸婦明媚」

会期:2018/10/05~2018/10/21

神保町画廊[東京都]

クロダミサトは昨年から今年にかけて、SNSでモデルを募集して、6回にわたってヌード撮影のセッションをおこなった。今回の個展では、19名の女性たちをiPhoneで撮影した写真、600枚を、11×11センチの大きさにプリントして展示している。撮影場所は、写真展の会場になった神保町画廊であり、打ち合わせや準備等を入れると実際に撮影できる時間は30分くらいだという。

このシリーズは、ありそうであまりない取り組みだと思う。女性のヌードは、おおむね性的な欲望の対象として消費されるか、美的なフォルムや陰影を追求するかのどちらかになりがちだ。だが、クロダのヌードはことさらにエロスを強調しているわけでも、リアルなオブジェとして描写しているわけでもない。等身大の女性たちの「からだ」のあり方を、とても丁寧に、その細部にまで視線を届かせながら押さえている。個々の写真には、名前や年齢や日付けなどのデータは一切省かれているが、それもかえってよかったのではないだろうか。写真を見ながら、自分自身で意味付けしていかなければならないことで、写真(被写体)と観客との間に自発的な対話が成立していた。

大学時代の同級生をモデルに撮影した2011年の写真集『沙和子』以来、クロダは『沙和子 無償の愛』(2013)、『美しく嫉妬する』(2015)と、ヌード写真集の発表を積み重ねていった。そこで培われていった、モデルとの距離感を細やかにコントロールしていく撮影法が、本シリーズでも充分に活かされている。

2018/10/17(水)(飯沢耕太郎)

澤田知子・須藤絢乃「SELF/OTHERS」

会期:2018/10/16~2018/11/22

キヤノンギャラリーS[東京都]

1977年神戸生まれの澤田知子と、1986年大阪府生まれの須藤絢乃の二人展である。この二人には、セルフポートレートを中心に作品を発表してきたという共通性がある。とはいえ、年齢や活動場所だけでなく、それぞれのセルフポートレートのあり方は相当に違っているのではないかと思う。澤田は自分の外見が変わることで、どのような社会的な反応を生むのかに関心があり、今回の展覧会のタイトルで言えば「SELF」を素材として、「OTHERS」のあり方を浮かび上がらせようとしてきた。須藤はその逆に、自己の内面性を「OTHERS」を素材として掘り下げてきたのではないかと思う。その二人が3年前に大阪のアートフェアで出会い、以後ディスカッションしながら今回のキヤノンギャラリーSの展示を組み上げた。

澤田は成安造形大学在学中の初期作品「Early Days」(1996~97/2018)と新作の「BLOOM」(2007~)を、須藤は稲垣足穂のエッセイのタイトルを借りた「Vita Machinicalis」(2018)を出品している。結論からいうと、今回の展示では両者の異質性よりも同質性のほうが際立っていたように思う。澤田のセルフポートレート制作の原点と言うべき「Early Days」は別として、メイクアップの美的効果を探求する「BLOOM」にも、アンドロイドの日常性を丹念に描出する「Vita Machinicalis」にも、「SELF」の可能性を拡張するというポジティブな思考が貫かれているからだ。二人のアーティストの出会いが連鎖反応を生んで、面白い化学変化が生じてきたのではないだろうか。

パネルが表裏に立ててあって、片側から見ると澤田の作品が、その反対側から見ると須藤の作品が目に入ってくるという会場構成もとても効果的だった。

2018/10/19(金)(飯沢耕太郎)

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