artscapeレビュー

2009年02月15日号のレビュー/プレビュー

湯浅一郎 展/フランソワ・ポンポン

会期:12/13~4/5

群馬県立館林美術館[群馬県]

浅草から館林まで東武伊勢崎線の特急で1時間、そこからが遠い。最寄り駅は隣の多々良だがローカル線なので本数が少ないし、多々良駅からも歩いて20分かかるという。館林からバスも出ているが1時間に1本もない。結局タクシーで行く。なんでこんな自然豊かなというか荒野のど真ん中に美術館をつくったんだろう。1時間ほどいたが、ぼく以外たったひとりの観客にしか出会わなかった。そんなところへなぜぼくが行ったのかというと、もちろん湯浅一郎を見るため。湯浅はほぼ同年代の黒田清輝や藤島武ニらの活躍の陰に隠れがちで、作品もいまひとつ華やかさに欠けるが、どういうわけかフェルメールの絵を彷佛させるのだ。たとえば、室内の自然光を浴びた女性単身像が多いこと、彼女たちが編み物をしたり居眠りしたりしていること、背後に画中画や鏡が登場すること、そしてなにより、垂直・水平で構成される画面のなかに女性をポーズさせていること……。もちろんそんな興味で見に行くやつは約1名しかいないわけで、美術館側はこれ1本では約1名しか動員できないと思ったのか、展示室の後半はポンポンの動物彫刻のテーマ展示となっていた。湯浅とポンポン、強引な組み合わせだが、湯浅がパリに滞在していたとき、すぐ近くにポンポンのアトリエがあったという「縁」だそうだ。ムリヤリこじつけることもないけど。

2008/12/26(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00000101.json s 1198932

牧島如鳩 展

会期:11/8~1/12

足利市立美術館[栃木県]

今年最後に見た展覧会が本年のベスト1、とはいわないまでもベスト5には入るくらいの収穫だったから、北関東まで足を伸ばしたかいがあるというもの。如鳩(にょきゅう)はハリストス正教徒で、イコン画家として知られる山下りんの手ほどきを受けたが、一方で仏画も描き、晩年は両者が共存というか混濁したまことに奇怪な宗教画(というんだろうか)をきわめた人。キリスト教の絵と仏教画の混交は、必然的に洋画と日本画の素材・様式・表現上の混在を招き、その結果、聖母子像の掛軸や油絵による釈迦涅槃図が描かれることになる。圧巻は《魚籃観音像》。ピンクの乳首やレース越しの太股も艶かしい魚籃観音を中心に、左に聖母マリアや天使たち、右に菩薩や天女たちを配したオールスター夢の競演だ。これが小名浜港の漁業組合の依頼で大漁祈願のために描かれたというから驚く。バチ当たりな気もするが、以来この港では豊漁が続くというからもっと驚く。まったく神も仏もあったものだ。

2008/12/26(金)(村田真)

Venice - From Canaletto and Turner to Monet

会期:2008/9/28~2009/2/15

バイエラー財団美術館[Beyeler Foundation Museum][スイス、バーゼル]

バーゼル郊外の、レンゾ・ピアノの設計によるバイエラー美術館で、ヴェネツィアを描いたさまざまな絵画を展示するもの。なお、この美術館に来る人たちは、かなり裕福そうな人が多かった。ヴェネツィアは昔から絵によく描かれてきていたし、そもそも写真がなかった当時は、絵葉書など土産物としての価値も持っていた。ここでは、古くはカナレットから印象派のモネを経由し、さまざまな画家がどのようにヴェネツィアを描いたかを一覧できるような展示になっている。同じ街だが人によってまったく描き方が異なる。例えば、ルドンがヴェネツィアを描いていることは知らなかった。よく見るヴェネツィアの風景とは全然違って、彼らしい筆致の暗い画風になっていて面白かった。また、地階ではVera LutterとDavid Claerboutという二人の現代写真家によるヴェネツィアも特別に展示されていた。とくに建築写真をやっている作家がすごく面白かった。部屋の中に入ると真っ暗な暗室で、ごくわずかな光量だけがある。ジェームズ・タレル的なことをしており、最初は真っ暗だが、じっといると目が慣れてきて、だんだん夜のヴェネツィアの写真が浮かび上がってくるという展示。これはなかなか面白かった

2009/01/03(土)(五十嵐太郎)

Balkanology - New Architecture and Urban Phenomena in South Eastern Europe

会期:2008/10/4~2009/1/4

スイス建築博物館Schweizerisches Architekturmuseum / Swiss Architecture Museum[スイス、バーゼル]

展覧会サイト:http://www.sam-basel.org/index.php?page=balkanology_e

新年にスイスに行った時、バーゼルの建築博物館で、ちょうど「バルカノロジー 東南ヨーロッパにおける新しい建築と都市的現象」展をやっていた。これは、バルカン半島の建築を扱ったもの。面白かったのは、メイド・イン・トーキョーやアトリエ・ワンのような、同時代、同世代的な図面の表現があったこと。国の背景は日本とは全然違うが、わりとポップなものもあり、さまざまな形の現代の都市フィールドワークを、いわゆる真面目でお堅い学術調査ではない表現方法で見せていたことが印象的だった。

2009/01/04(日)(五十嵐太郎)

上野伊三郎+リチ コレクション展──ウィーンから京都へ、建築から工芸へ

会期:1/6~2/8

京都国立近代美術館[京都府]

京都市立美術大学の退任後、教育者としてふたりが活動を続けた京都インターアクト美術学校より寄贈された資料から上野伊三郎、リチの仕事を紹介。私はここで初めて二人のことを知った。特に会場を彩るリチの手がけたテキスタイルデザインや装飾品、小さな箱の作品が魅力的で目を惹く。かわいらしい鳥や花、虫など、自然のモチーフがあしらわれ、色彩にも図案にもウィーン工房で磨かれたセンスに溢れた美しい作品が並ぶ会場では、伊三郎が代表となり結成された日本インターナショナル建築会の建築誌『インターナショナル建築』にもスポットが当てられている。モダニズム建築に対する彼の考え方や、建築会についても触れられているのは興味深いのだが、資料と解説をよく読まないと解りづらいので、リチの作品の数々が可憐で絵本のように想像や目を楽しませてくれる会場では、伊三郎の活動はずいぶん地味に映ってしまう。ただ、もっと知りたいと後でカタログを熟読することになったのでかえって良かったのかも。どちらにしろ質量ともに充実した展覧会でもう一度見たいくらい。

2009/01/05(月)(酒井千穂)

artscapeレビュー /relation/e_00000530.json s 1198921

2009年02月15日号の
artscapeレビュー