artscapeレビュー

2009年03月15日号のレビュー/プレビュー

森末由美子 展「無重力で右回り」

会期:2009.2.24~2009.3.19

Gallery Hosokawa[大阪府]

京都市立芸術大学の学内展で作品を見て「アジシオの人」と覚えてしまった森末由美子。そのときに入手したDMのデザインはすっきりしていたけれど、タイトルのインパクトが強く、訪れる前の日から「無重力で右回り」という言葉が呪文のように頭のなかを巡って楽しみだった個展。古い本を削ったインスタレーション、調味料の瓶のシリーズの展示のほか、今展では、シルクスクリーンを重ねた絆創膏など、旧作も展示。学内展にあったファー生地の作品は、裏から表側に毛を引き出してボーダー状にしたものだとここで聞いて、なるほどとようやくその面白さを理解した。日常的に目にする物質の表面を削ったり、剥ぎ取ったり、ひっくり返したりと、日頃われわれが措定している存在の意味を少しずつ、ゆっくりと曖昧にしていく森末の制作は、とても丁寧でまるで職人仕事のよう。発表しているのは立体作品だが、版画を学んでいたという点も納得。また見たい。

2009/02/27(金)(酒井千穂)

アートプロジェクト「パラモデリック・グラフィティatなにわ橋駅」

会期:2009.1.25~2009.3.29

京阪なにわ橋駅 アートエリアB1(ビーワン)[大阪府]

駅の地下コンコースにオープンしたアートスペースでパラモデルがプラレールを使ったインスタレーション作品を発表。会場にたどり着くまでの通路からも、いかにも楽しそうな空間の様子が見えて早足になる。公開制作の期間に行けず作家に会えなかったのは残念だったが、その本領が発揮されて、想像以上の巨大な作品空間が広がっていた。昼下がりだったせいか観客はほかにサラリーマン風の中年の男性ひとりだけだったが、ゆっくりと会場を歩き回ってはときどきしゃがみこんでいる姿が子どものようで微笑ましかった。

2009/02/27(金)(酒井千穂)

ルーヴル美術館展──17世紀ヨーロッパ絵画

会期:2009/02/28~2009/06/14

国立西洋美術館[東京都]

「絵画の黄金時代」といわれる17世紀から71点の出品。有名どころではフェルメールの《レースを編む女》をはじめ、ラ・トゥールのロウソク画、フランス・ハルスの道化師像、クロード・ロランの古代風景などがオススメですね。ル・ナン兄弟の匂ってきそうな貧乏家族、オスターデやステーンの陽気な酔っ払い、フランス・フランケンの分割画面も見ものだし、アブラハム・ミニョン、ヤン・ブリューゲル(父)、ヘリット・ダウらの驚異的な細密画も必見。でもベラスケスとレンブラントは小品の部類で少しがっかりだし、弟子任せのルーベンスにはもっとがっかりしました。あと、額縁にも注目。フェルメールの絵よりはるかに大きい額縁に驚いたり、ネームプレートのついた巨大なルイ様式の額縁にルーヴルの空気を感じたり。
ルーヴル美術館展:http://www.ntv.co.jp/louvre/

2009/02/27(金)(村田真)

新潟三大学合同卒業設計展「Session!」

会期:2009/02/27~2009/03/01

NST新潟総合テレビ社屋 ゆめホール[新潟県]

新潟大学、長岡造形大学、新潟工科大学の三大学が合同で行なった卒業設計展。大規模にして、本格的にはじめたのは今年が初めてだという。1日目に展示、2日目に講評会「建築のこれから」、3日目にシンポジウム「地方都市/新潟のこれから」が開かれた。コーディネーターは新潟大学の岩佐明彦准教授であるが、学生の実行委員会が主体となった自主企画である。講評会は中谷正人氏、アニリール・セルカン氏とともにクリティークし、シンポジウムではセルカン氏、新潟の建築家である小川峰夫氏、東海林健氏とともに地方都市の可能性について語った。せんだいデザインリーグ・卒業設計日本一決定戦に向けて各地でこのようなイベントが行なわれたであろうが、おそらくそのなかではもっとも知名度が低いだろうし、歴史も浅い。ただし実際に参加してみて、示唆的なことが多く、とても面白かった。まず卒業設計展自体が次第にメディア化しており、規模が拡大したからか、「せんだい日本一」がイベントとして話題を呼ぶからか、その注目の度合いが数年前より格段に上がっていること。「日本一」を一種の頂点として、大学選抜、複数大学選抜、そして日本一へという流れが生まれている。しかし一方で、「卒業設計のグローバリズム」ともいうべき別の問題も発生しているように思われた。「日本一」へと流れる波は逆流して、前年の上位入賞者の作品が、次年度の作品に影響を与えるだろう。実際、最近の「日本一」において、それはすでに起こっているように感じた。メディア化したイベントの影響力によって、全国の卒業設計に一種のモードが与えられる。ところで、この合同卒業設計展「Session!」が新潟で行なわれ、また「地方都市」をテーマとしたシンポジウムが開かれたことは、その点からも興味深い。「地方都市」がとるべき方向性が、「グローバル」な情報を受け取ることなのか、「ローカル」な情報を発信すべきなのか、あるいは第三の道があるのか? 卒業設計の問題であるが、都市間競争が進んだときの、都市のとるべき道といった問題にも通じるところがある。さらには「地方都市」にもあたらないさらに小規模の「まち」はどうするのかという問題もある。合同卒業設計展もなく、情報の孤島となっている大学は少なくないかもしれない。現に、この合同卒業設計展は、これまでほとんどなかった大学間の交流を生み出すためにも機能し始めたようである。シンポジウムでいくらか共感を生んだようだったのは「地方をつなぐ」という方向性だった。日本海一決定戦をやりたいという話も学生からあがった。道州制ともパラレルな問題系であり、今後の展開が興味深い。

2009/02/28(土)(松田達)

明倫茶会「忘れ傘の国から」

会期:2009.2.28

京都芸術センター[京都府]

美術家のかなもりゆうこさんが座主の明倫茶会に申し込んで参加。きっと趣向を凝らした素敵なお茶会に違いないと予想していたが、大当たり。会場は芸術センター内の古い味わいのある講堂。紙が好きだというかなもりさんのセレクトで透かしやプリントの入ったさまざまな紙がランチョンマットやコースターに使われていたり、お茶がフレッシュフルーツを入れたハーブティーだったり、お菓子は手づくりのレモンケーキだったり。心躍ったのは、小さな干菓子が配られたとき。花のように折られた色紙の上に百合の花のようなお菓子が置かれたが、ピンクの色紙を開いてみたら、「水仙ラカン制す」という回文が小さく印刷されていた。作者は、この会場に消しゴムや折り紙、古本を使ったインスタレーション作品を展示していた福田尚代さん。隣の人はまた違うお菓子と回文が。まったく面識のない人だったが、お互い見合わせてにっこりし合った。主に関東で活動しているという彼女のことを私はこの日初めて知ったが、昔から読書が好きで日常的に回文が頭に浮かんでくるのだと言う。インスタレーション作品も物語性に溢れた繊細なもので、タイトルの言葉から想像が一気に広がり、すっかりファンになってしまった。そんな茶会のあいだ、テーブルの周りでは、オルゴールの上で回るバレリーナ人形のようにひとりの女性がパフォーマンス。まるで絵本の世界に迷い込んだ気分になる素敵な茶会だった。

2009/02/28(土)(酒井千穂)

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