artscapeレビュー

2009年04月01日号のレビュー/プレビュー

リチャード・ストレイトマター・チャン 右と言えば左

会期:2009/02/13~2009/03/07

プロジェクトスペースKANDADA[東京都]

ベトナムのアーティスト、リチャード・ストレイトマター・チャンによるレジデンスの成果発表展。作品の点数はある程度そろっているものの、レジデンスの発表展の多くがそうなりがちであるように、それぞれの作品の出来映えはあまり芳しくない。例外だったのは、ダンボールで作った木の作品《Interval 1 / Listening Tree》。幹に空けられた洞をのぞくと、暗闇の中で映像が流されていて、その手前には小さな人形が置かれているから、まるで映画館の最後尾から映画を鑑賞しているような感覚に陥る。また、別室にはコマンドNによるリサーチプロジェクトの記録映像が鑑賞できるようになっていたが、映像をそのまま見せる見せ方がはたしてどこまで有効なのか、疑問が残った。せっかく綿密な取材を繰り返したのだから、いっそ論文というかたちで公開するほうが、よっぽど鑑賞者=読者に届くのではないだろうか。

2009/03/04(水)(福住廉)

Port B「雲。家。」

会期:2009/03/04~2009/03/07

にしすがも創造舎[東京都]

エルフリーデ・イェリネクの同名戯曲の上演。まったく予備知識なしに見た。固まったワンピースが5枚吊ってあり、床には墨で文字が敷き詰められ、舞台奥には三階だての構築物が薄いスクリーンの背後に建っている。その構築物の上を唯一の登場人物(暁子猫)が歩きながら、吊ってあったのと同様のワンピースを纏って「私は家にいる……」などと独り言を呟いている。語りの内容には現実味がない。「大地」「祖国」「外部」「他者」「わたしたち」などの言葉が繰り返され、「ゲルマン」という語も出てくる、ドイツ哲学のテクストから引用されたものに聞こえる。なぜドイツ?と思うと、日本にいるアジアの留学生のインタビューや、公演会場の近くにある池袋サンシャイン60に来た若者に向け「以前ここに何が建っていたのか」と質問する映像が差し挟まれる。処刑場があったらしい。「アウシュビッツ」に通底するなにかを日本の過去から引き出そうということなのだろうか。90分ほどの公演時間中、暁子猫は、ひとり語りを淀みなく続けた。
Port B:http://portb.net/

2009/03/04(水)(木村覚)

快快「MY NAME IS I LOVE YOU」

会期:2009/03/07~2009/03/08

ゴタンダソニック[東京都]

ゲネプロを見た。正直7~8割の出来と思った。本番はさまざまな改善点がクリアになっていたかも知れない。恋愛の現在形あるいは未来形を描いた問題作。恋愛に奥手な男の子が主人公の前半に代わって、後半はダッチワイフのロボット2人が真の主人公となる。彼女たちは、渋谷の街でウリをする。ウリをする理由はない、ただそうプログラミングされているから。「プログラミング」された身体というのは、いまとても気になっているテーマだ。人間もロボット同様、神からあらかじめ与えられたプログラムに従っているに過ぎないと考えるのがいまの風潮だとすれば、人間の行動は、意志や努力の問題ではなく性能(天分)の問題に局限化される。ならば相手に対して「もっと愛してよ」と告げるエナジーを燃やすより「ああそうなっているのね」と相手のプログラムを読み取るほうが賢明な時代ということになろう。などと考えつつ、これは未来ではなく現在の物語かも知れないと思って見ていた。
快快:http://faifai.tv/faifai-web/

2009/03/06(金)(木村覚)

インシデンタル・アフェアーズ うつろいゆく日常性の美学

会期:2009/03/07~2009/05/10

サントリーミュージアム[天保山][大阪府]

「インシデンタル(日常的な、取るに足らない物事)」をキーワードに選んだ17作家の作品を展覧。宮島達男やウォルフガング・ティルマンスといった有名作家から、ニューカマーの横井七菜までが選ばれており、ジャンルもバラエティ豊か。現代アートの多様な魅力を伝える意図が強調されていた。私にとっては、さわひらき、横溝静、榊原澄人の作品を見られたのが収穫。木村友紀と田中功起の展示もいい感じだった。関西では美術館の現代アート展が明らかに不足しているので、こういう企画はどんどん増やしてほしい。

2009/03/07(土)(小吹隆文)

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泉太郎 山ができずに穴ができた

会期:2009/01/20~2009/03/09

NADiff Gallery[東京都]

泉太郎の新作展。近年熱心に取り組んでいる、複数の鏡を反射させる映像インスタレーションのほか、両手に装着したパペット人形が自分の顔に競い合ってペイントする映像などを発表し、狭いながらも濃密な空間に仕立てていた。今回の展覧会にあわせて立て続けに刊行された著作や写真集もおもしろい。

2009/03/07(土)(福住廉)

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