artscapeレビュー

2009年04月15日号のレビュー/プレビュー

夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史II 中部・近畿・中国地方編

会期:2009/03/07~2009/05/10

東京都写真美術館 3F展示室[東京都]

一昨年の「関東編」に続いて開催された「知られざる日本写真開拓史」の第2弾。今回は「中部・近畿・中国地方編」ということで、各地の大学、教育委員会、郷土資料館などをしらみつぶしに調査し、あらためて見出された所蔵古写真を大盤振る舞いで展示している。今回は展示の全体を「であい」「まなび」「ひろがり(名所と風景、肖像写真、公的記録)」の三部構成とし、1860(万延元)年の遣米使節団に随行した野々村忠実を撮影したダゲレオタイプ写真からはじまって、こんなものもあったのかと何度も驚かされた。なかなか充実したいい展示である。
内田九一撮影の明治天皇と美子皇后の「御真影」、福井の蘭方医、笠原白翁が製作した「堆朱カメラ」など、やはり実物で見ると面白さのレベルが違ってくる。古写真マニアだけでなく一般の人たちにとっても、写真がこんなふうに日本の社会に定着していったのだということがよくわかる貴重な機会になるだろう。個人的には、1891年の濃尾大地震の直後に撮影された彩色記録写真(日本大学芸術学部蔵)のシャープでクオリティの高い映像に驚嘆させられた。紙のようにひしゃげた家、被災現場に呆然と佇む人々など、関東大震災、阪神・淡路大震災などのドキュメンタリーに通じるものがある。
この展覧会シリーズはいつも楽しみにしているのだが、「夜明けまえ」というタイトルがちょっと気になる。幕末から明治にかけては、写真が新しいメディアとして颯爽と登場し、最も輝きを放っていた時代のようにも思えるのだ。英語のタイトルは「Dawn of Japanese Photography」なのだから、すんなり「日本写真の夜明け」でもよかったのではないだろうか。

2009/03/14(土)(飯沢耕太郎)

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ジェームズ・ウェリング「Notes on Color」

会期:2009/02/05~2009/03/14

WAKO WORKS OF ART[東京都]

東京都写真美術館から西新宿のWAKO WORKS OF ARTへ。ジェームズ・ウェリングの個展の最終日に間に合った。
ジェームズ・ウェリング(James Welling 1951~)はアメリカ・コネティカット州ハートフォード生まれ。カリフォルニア大学で学び、UCLAで教鞭をとっている写真家だが、作風はどこかヨーロッパ的だ。以前もカラー・フォトグラムや1920年代のノイエ・ザハリヒカイト風の作品を発表したりして、写真史を広く渉猟し、そのエッセンスを巧みに引用してくる。今回の「Notes on Color」のシリーズは、ジャンル的には建築写真ということになるだろうか。故郷のコネチカット州のフィリップ・ジョンソン邸というモダニズム建築を、きっちりと撮影している。ところが、画面の一部がカラー・フィルターでブルー、レッド、グリーンの三原色に処理されていたり、レンズのフレアによって虹のスペクトラムのような光が舞っていたりして、とても不思議な味わいの作品に仕上がっていた。
彼が何を考えているのか、作品からはよくわからないところがあるが、その画像処理のセンスのよさにはいつも感心してしまう。網膜を柔らかくマッサージしてくれる光と色の触感が、たまらなく気持ちがいいのだ。理屈抜きに(理屈はあるのだろうが)、それだけを愉しむだけでもいいような気がしてくる。別室に展示されていた、ネットのようなものをトルソに見立てたフォトグラム作品も、繊細な質感がうっとりするくらいに快い刺激を与えてくれる。

2009/03/14(土)(飯沢耕太郎)

Naomi Pollock『HITOSHI ABE』

発行所:Phaidon

発行日:2009年2月7日

ナオミ・ポロックによる阿部仁史のモノグラフ。作品は時系列順ではなく、形態別に整理されているところは作品集として異色だ。すなわちLine(線)、Surface(面)、Volume(立体)という三つのカテゴリーに分類される。建築における形態の問題を、追究し続ける阿部の作品集だからこそ、とても効果的である。それはサイズで作品を分類したレム・コールハース/OMAの『SMLXL』も想起させるだろう。仙台とカリフォルニアという二拠点を往復する阿部を追いかけつつ、ナオミ・ポロックは巻頭論文において、阿部のさまざまな私生活も含めた人間像に迫る。内容は彼女の本だとして任せ、唯一阿部がこだわった点は写真であり、使いたいと提案される写真の6割を差し替えたという。阿部の作品にはいわば「見慣れない」形態が入り込み、それがほかの日本の建築家と阿部を決定的に分けているように思う。日本とアメリカという二つのバックグラウンドがあることによって、阿部の作品は、単純さと複雑さ、透明なものと不透明なものなど、対立するものが同居することを許容する建築であるようにも思う。ところで、本作品集の出版記念イベントとして、阿部氏のトークイベントを収録し、その模様を「建築系ラジオr4」にて配信している。ぜひそちらもご参照いただきたい。阿部氏、ポロック氏に、五十嵐太郎、今村創平、筆者が話を伺っている。司会は堀口徹。

関連URL:http://tenplusone.inax.co.jp/radio/

2009/03/14(土)(松田達)

UNLIMITED

会期:2009/03/01~2009/03/15

アプリュス[東京都]

たぶん初めて降りる南千住駅から歩いて10分、アプリュス(A+)は都内では稀に見る広大なアーティスト・イニシアティヴのビューイングルーム。そこに、淺井裕介、泉太郎、遠藤一郎、村田峰紀、柳原絵夢ら注目の若手11人が競演・共演・狂宴している。実際、作品同士が侵食し、重なり、食い合い、どこからがだれの作品なのかわからなくなってる部分もある。お行儀のいい国立新美術館の「アーティスト・ファイル」より、よっぽどヴィヴィッドだ。ヴィヴィッとくる。ヴィヴィッとね。しつこいか。

2009/03/14(土)(村田真)

VOCA展2009

会期:2009/03/15~2009/03/30

上野の森美術館[東京都]

VOCA賞の三瀬夏之介をはじめ、各賞受賞者はまあ順当なセンだろう。とくに「明るく華やかな色と、滑らかで力強い筆の躍り」(選者の名古屋覚)の今津景と、「『いま、ここで描く』という原初的な描写の欲望に忠実な」(選者の福住廉)淺井裕介が強く印象に残る。受賞者以外では、家庭を平面図のような視角で描く麻生知子、絵具こってり系の池谷保と佐藤修康、「こうきたか」と思わずうなった小金沢健人と名和晃平あたりに注目。

2009/03/14(土)(村田真)

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2009年04月15日号の
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