artscapeレビュー

2009年05月01日号のレビュー/プレビュー

ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー展

会期:2009/02/24~2009/05/17

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

ジャネット・カーディフとジョージ・ビュレス・ミラーによる個展。音響インスタレーションの《40声のモテット》と映像作品《ナイト・カヌーイング》、二つの作品を発表した。文字どおり、深夜にカヌーから川面や対岸を延々と写した後者はともかく、圧倒的なのは前者。会場をぐるりと囲むかたちで配置された40台のスピーカーからいっせいに流れてくるのは、トマス・タリス『我、汝の他に望みなし』(1573)を歌い上げるソールズベリー大聖堂聖歌隊による合唱。それぞれ別々に録音した音源を、40台のスピーカーで個別に再生しているため、来場者は日常的な暮らしでは味わえない特殊な音響空間を体感できる。文字どおり多層的な合唱はもちろんすばらしいものだが、おもしろいのは休憩中の音もそのまま録音しているところ。咳払いや私語があちこちから耳に入ってくるもんだから、まるで一つひとつのスピーカーに人格が与えられているような錯覚に陥る。ぜひとも体感しておくべき展覧会である。

2009/04/12(日)(福住廉)

杉本博司 歴史の歴史

会期:2009/04/14~2009/06/07

国立国際美術館[大阪府]

意味深なタイトルが付けられた本展。会場には本人の作品と収集物(化石、隕石、書籍、建築の残骸、仮面、考古遺物、宇宙食、美術品、etc...)が大量に持ち込まれ、美術と諸科学が巨大な渦を巻くような混沌とした空間が形成されていた。その渦の中で攪拌されるわれわれ観客は、否が応でも感性のツボを刺激され、まるで覚醒へと誘われるかのよう。それでいて、作品の配置でちょっとしたストーリーを作ったり、見立てを駆使するなど茶席のもてなしのような遊び心も。また、照明には細心の注意がはらわれており、国立国際美術館が普段とはまるで異なる空間に変身したことにも驚かされた。出品物全てが杉本の所有品ということも含めて、こんな贅沢な展覧会は滅多に見られるものじゃない。清濁併せのんだ大人が本気で遊んだらこうなるんだ、という稀有な一例であろう。

2009/04/13(月)(小吹隆文)

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アガット・ド・バイヤンクール展 "My so-called life in Japan"

会期:2009/04/14~2009/05/02

YOD Gallery[大阪府]

アガット・ド・バイヤンクールは、滞在した国の印象を絵画作品や絵画によるインスタレーション作品に昇華させる。約2ヵ月半の日本滞在を経た今回の作品を見ると、蛍光系の鮮やかな色彩を駆使しつつも、淡白で内省的な印象を受ける。これが彼女が感じた日本なのか。少々意外だ。作品にはさまざまな言葉の断片も見受けられるが、最も目立つのは「WAKALIMASEN」。どんなシチュエーションでこの言葉を受け取ったのだろう。本人に聞けなかったのが残念だ。

2009/04/14(火)(小吹隆文)

明るい無常観-LIGHT TRANSIENCE-

会期:2009/04/14~2009/05/10

京都芸術センター[京都府]

淀川テクニックと金子良/のびアニキの2組による企画展。淀テクは名古屋で行なったプロジェクトの記録映像とオブジェ2点を出品、金子/のびはこれまでの活動を映像、写真、テキスト、資料でコンパクトにまとめてインスタレーションとした。彼らの世界を貫くキーワードとして「無常観」が適当なのかは疑問だが、金子/のびは私が今までに見た彼の展示のなかで最上だった。微笑みつつ泣けた。

2009/04/15(水)(小吹隆文)

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キレなかった14才♥りたーんず:「アントン、猫、クリ」(作・演出:篠田千明)

会期:2009/04/16、2009/04/22、2009/04/26、2009/04/27、2009/05/03、2009/05/04

こまばアゴラ劇場[東京都]

アパートの住人が野良猫を囲んで言葉を交わす。プロットはとてもシンプル。見所は快快の演出家・篠田が繰り出すサンプリング的手法。女が舞台中央に立つ。しばらくして口にしたのは「まち。いえ。どーろ。家、家、家、アパート、二軒並んでいる、電信柱、アパート……」。目に入ったものになんでも反応してしまうロボットみたいだ。感情に高まる前の状態といったらいいか。この状態で男や猫と出くわす。時折、反復的な言葉を発する(「雨雨雨……」)と、同じポーズがスタンプを押すみたいに続けられて、それが音楽で言うサンプリングみたいで、そんな反復が時間を進め、ささやかな物語にもかかわらず50分という時間が埋まっていく。演劇が限りなく音楽演奏に見えてくる。けれどもサンプリング(スタンピング)は人力なので、役者は大変だったろうけれど、ダンサー(初期型)のカワムラアツノリは軽々こなしていた。女役の中村真生も大活躍。快快のメンバーが出演していないことで、篠田の演出が明瞭になった本作だった。
キレなかった14才♥りたーんず:http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_04/kr14.html

2009/04/16(木村覚)

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